第27話 あの娘は怖がり
レイブラン、ヤタール、フレミー、ラビック。彼ら、彼女達が森で有名だというのなら、以前レイブラン達が言っていた者達、おそらく"角熊"くん、"老猪"、そして"蜃気狼"ちゃん。この三体も当然、有名なのだろう。
「レイブラン、ヤタール。君達が以前言っていた他の動物達も、相応に有名なんだね?」
〈そうよ!熊には誰も勝てないし、狼は縄張りが広すぎるのよ!〉〈猪は色んな所を走っているのよ!でも最近は姿を見ないのよ!〉
〈ノア様は森の強者達皆をこの場所に集めるのですか?〉
ラビックが訊ねる。私としては、私を頼ってくれる森の住民達は皆、拒むつもりは無い。ただ、この森の住民達が互いにどう思うかは別の問題だ。
ヤタールは、ここに住む者は、私の役に立つものでなければならないと言った。
納得がいかないのだろう。彼女にとって、私の力の恩恵をただ受けるだけ、というのは。
「私としてはね、誰であれ森の住民であるなら拒むつもりは無いんだ。」
〈それでは駄目よ!森が駄目になってしまうわ!〉〈寄生は駄目なのよ!堕落するわ!〉
〈ノア様。ノア様ならみんなまとめて面倒を見て、世話をすることが出来ると思うよ?だけど、何もせずにそれを享受する行為は寄生と変わらない。共生と寄生はまるで別物でしょ?〉
手厳しいな。いや、そうじゃないな。私が甘いのか。私に頼る者を私が、制限なく甘やかせば堕落し、それが森を駄目にする、と。
それは、良くないな。森にとって害になる事を、私は良しとしない。
そうか。森の住民だとしても、そして私自身も、自覚せずに森にとって害になり得るのか。
気を付けないとな。それに、フレミー達には感謝しないと。
「私は、森の住民達に優しくしようとしていた。だけど、それは優しさではなく、ただの甘やかしだったんだね。そして、それが森を駄目にする。フレミー、レイブラン、ヤタール。それに気づかせてくれてありがとう。」
〈お礼を言うのは私達だわ!〉〈いつも美味しいもの有難う!〉
〈どういたしまして。でも、彼女達の言う通り、お礼を言うのはこちら側。私達を受け入れてくれてありがとう。〉
互いに、礼を言い合う。なんだか少しむず痒いな。
と、そうだ。女性陣だけで盛り上がってしまったが、結局ラビックの質問に答えていなかったな。
「ないがしろにしてすまなかったね、ラビック。今の所の目標として、結果的に君の言っていた通りになる。といった所だね。」
〈私達が勧めたのよ!〉〈ノア様の配下に相応しい奴を教えたのよ!〉
〈私の事は教えなかったみたいだけどね、貴女達。〉
〈そういった事情でしたか。反対どころか、私も推奨いたします。この森の強者達がノア様の元に集まれば、森の秩序も保たれるでしょう。〉
森の秩序、か。私がいつぞやの雨雲に対しての感情も、それなのだろうね。
森に害を与えることを良しとしないこと。つまるところ、外部から森の秩序を乱すものを、敵として見ているのか。
それが事実かどうかは、置いておくとしよう。今は、残りの者達についてだ。
「さて、私はレイブラン達が勧めた者達をみんな誘おうと思う。誰からが良いかな?要望があったら教えてほしい。」
〈狼がいいわ!猪は場所が分からないもの!〉〈狼よ!アイツ臆病だから早めに配下に加えた方が良いわ!〉
〈誰からでもいいと思うよ。この森に生きている以上、森の掟に従わないものは居ないもの。〉
〈私も、誰からでも構わないかと。ですが、猪殿の行方が定かではないのであれば、二択になりますね。〉
と、すれば、次に誘いに行くのは"蜃気狼"ちゃんか。
「それなら、狼から誘いに行こうか。あの娘がいた辺りには果実が無いから、こっちで取ってから会いに行くとしよう。みんなは一緒に来るかい?」
〈私たちは行くわ!あの辺りなら案内は任せて頂戴!〉〈もちろん行くわ!アイツの居場所はバッチリ掴んでおくわ!〉
〈ごめんね。付いていきたいけど、まだやりたい事が終わっていないの。〉
〈ノア様の移動方法ですと、私では足手まといにしかならないでしょう。この地にて鍛錬を積もうと思います。〉
各々の答えが帰ってくる。そういえば、フレミーはやりたい事があると言っていたな。今なら、聞いても良いだろうか。
そしてラビック。済まない。トラウマを与えてしまっただろうか。それはそれとして、君は本当に真面目だね。
「分かったよ。所でフレミー。やりたい事って教えてもらうことは出来る?」
〈ごめんね。今はまだ秘密にしておきたいの。でも、きっとノア様は喜んでくれると思うよ。〉
「そういうことなら期待しておくね。それじゃ、もう暗くなっているし寝るとしようか。ラビック、君も寝床に来るかい?私やレイブラン達も一緒になるけれど。」
〈よろしければ、ご一緒させていただきたく存じます。〉
それなら、皆で寝るとしよう。今日はもう遅い。天井に張った巣に戻ったフレミー以外を寝床へ移し、私も寝床に身を預ける。
体中にふわふわやもこもこ、ふさふさな感触がして、即座に意識がまどろむ。
そのまま、意識を手放して眠りについた。
頬を押し付けられる感覚。そして角を引っ張られ、頭をつつかれる感覚。知らない感覚が一つあるな。
〈起きて頂戴!ノア様!朝よ!いい天気なのよ!〉〈狼に会いに行きましょ!でもその前に"死者の実"が食べたいわ!〉
〈ノア様、日が昇りました。その、何というか、彼女達の起こし方は・・・・・・。〉
頬を押して私を揺すっていたラビックが、レイブラン達の私の起こし方にかなり引いている。気にしなくていいよ。
それぐらいやってもらわないと私は目が覚めないからね。
〈おはようノア様。悪いけれど森へ行ってくるね。〉
「みんなおはよう。フレミー。あぁ、ちょっとだけ待って。・・・はい。これ持って行って。・・・はい。みんなもどうぞ。」
朝の挨拶をしたら、直ぐに窓から森へ向かおうとしたフレミーに切り分けた果実を渡した後、他の皆にも均等に配る。レイブラン、ヤタール。お代わりは無いからね。
「レイブラン、ヤタール。果実を食べ終わったら、早速狼の所へ行こうか。」
〈分かったわ!今回も案内は任せて頂戴!〉〈いつも通り美味しいわ!アイツの居場所はもうバッチリよ!〉
〈吉報をお待ちしております。〉
昨日に続いて今日も事前に動いてくれていたようだ。本当にありがたい。二羽を抱き寄せて撫でておく。
ひとしきり撫でた後、レイブラン達が以前私が彼女達に出会った方角へと飛び去って行く。
それじゃあ、"蜃気狼"ちゃんの所まで行こうか。おっと、忘れずに果実の回収もしておこう。"蜃気狼"ちゃんは沢山食べそうだし、三つくらい持って行くとしよう。
"蜃気狼"ちゃんの縄張り近くに着陸する。レイブランとヤタールが一定の場所を綺麗な円を描くように飛んでいる。
つまり、君達の描いた円の中心にいるってことで良いんだね。
さて、相手は狼だ。当然、嗅覚も相当なものだろう。
私は『臭いを消す』、と強く意識して、その意思をエネルギーに乗せる。
意思を乗せたエネルギーを果実を含めた私の全身に纏わせる。これで、私の体臭を誤魔化せればいいのだが・・・。
三百歩ほど歩いて、"蜃気狼"ちゃんの縄張りに入ってから少し時間がたった。
今の所、彼女に感づかれてはいないようだ。彼女の方からこちらに近づいてくる気配はない。このまま歩を進めよう。
さらに二百歩ほど歩いたところだろうか、この辺りがレイブランとヤタールが示した場所だ。一見何でもない、先程と変わらない景色の筈だ。
しかし、何もないはずの場所から、明確の思念を感じ取れる。独り言。というやつだろうか。
〈どうしよう、どうしよう。ボク、"あいつ"に殺されちゃうのかなぁ・・・。嫌だよぅ。死にたくないよぅ。怖いよぅ。何で捕まえることが出来るんだよぅ。怖いよぅ・・・。〉
・・・・・・物凄く怖がってる。この娘が言っている"あいつ"って私の事だよな。あまり脅かすのは可哀そうだし、真正面から声を掛けるとしよう。
「こんにちは。まずは話を聞いてくれるかな?」
〈ぅぎょぅああああああ!!!でっでっででっでっででっ出たぁぁぁああああ!!!!!〉
そんなに驚くことないじゃないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます