社会の歯車

「私は社会の歯車はイヤだ!」

「……おん?」

「私は嫌なんだよ! 社会の歯車の一部だなんて!」


 いきなり大声出すなバカやろう。

 ほら皆んなが好奇的な目でコッチ見てるじゃないか。

 相変わらず脈絡もなく騒ぎ立てるメタ子であるが、今日は今日とてテーマ的には明後日な話題だと思った。


「……で、歯車ってなんなのさ」

「えっとね、実はこれ、お父さんのマネなんだ」


 大丈夫かメタ子父。娘の情緒も不安だが、私は家庭環境も心配になってきたぞ?


「てか母親はマミー呼びなのに父親はお父さんなんだな」

「うん、パピーって呼んだら“恥ずかしいからやめなさい”って」


 どうやら父親は常識人らしい。


「私のお父さんってすごく真面目なんだ。毎日朝早くに会社に行くんだけど、健康のために自転車なんだよ、ゴリゴリの立ち漕ぎでね」

「立ち漕ぎは触れないでやれよ、家庭を養う為に必死なんだよお父さんは」

「もちろんお父さんの事は大好きだよ。だからね、大変そうなのが心配でさ」

「うーん」


 さてはメタ子のお父さんの会社がブラックなのか? 昨今はやれパワハラやセクハラで混沌としているらしいが、そんな中に身を置いている社会人達はさぞ大変だろう。

 所詮、社会の苦しみなぞ学生の私には計り兼ねるが、お気持ちを察するくらいは出来る。


「じゃあ肩でも揉んであげれば?」

「うんそうだよね! 歯車の仕事って身体使いそうだし」

「……ん?」

「……ん?」

「歯車ってそういう意味じゃないぞ?」

「え? そうなの?」

「歯車ってのはあくまで比喩であって、お前のお父さんは物理的に歯車、ギアとして働いてるんじゃない……ってか、どんなだよ歯車の仕事って」

「でもお父さん最近特に筋肉痛だって。それって歯車としてグルグルしてるからじゃないの?」

「逆に見てみたいわそれ」


 結局、筋肉痛の原因はゴリゴリの立ち漕ぎだったそうな。

 頑張れメタ子父。娘の頭の中は混沌のハッピーセットであるが楽しく学校生活を送れてるぞ。

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