第46話 幼馴染で親友は新しい景色


 海ちゃんと冴子ちゃん、うみぽよとキノコちゃんの初配信が昨日と一昨日で無事終わり、それぞれ大成功と言って間違い無いほど賑わっていた。


 大手vtuber事務所であるライブスターズの新人は、箱推しと呼ばれるグループ全体が好きだというファン層によって、デビュー前にも関わらず十万人を越えるチャンネル登録者数がいる。

 その影響か、通常一万人を越えていれば人気配信者の仲間入りができる同時視聴者数も、デビュー配信でいきなり十万人が集まる。



「いよいよ明日は私のデビューだ...!ちょっとだけ緊張してきたかも...!」

「まぁ他の二人は配信経験者みたいだったし、京香は京香らしくやれば大丈夫だよ」


 三人がデビューの七期生で、一人だけ一日挟んでのデビュー配信となる私は、せっかく空いているので何か作戦を立てようと優里と相談している。

 自己紹介用の画像は作ったし、配信BGMや待機画面、流れるコメントを映す枠なども、優里やマネージャーである斉藤さんなどに協力してもらいながら完成した。

 中でも優里と同じ三期生のムーンさんこと月さんが配信準備に関して詳しく、電話をかけて何度も助けてもらう場面が多くあり、やっぱり親切な美人さんだなぁ、と感じる。


「初配信ではまずは挨拶をして、コメントの反応見て、得意な事や好きな事、配信でこれから何をやっていくか、っていうのを話していく感じで良いと思うよ?」


 優里がそう言ってアドバイスをくれるが、本人は全くその通りの初配信をしておらず、いきなり幼馴染の友人の話をしていたことから信憑性しんぴょうせいに欠けていた。

 

「ふふ、大好きな私のことを一番最初に話し始めたナイトさんの言うことはやっぱり違うなぁ」

「ぁぐぅ...そ、それは何というか...うぅ...意地悪」


 私が指摘すると、優里は顔を赤くして私を睨む。

 親身に話してくれている優里に悪かったかなぁ、と頭を撫でると、「...ん」と言って目をつむった。

 一週間前、初めてキスをした日から、優里はかなり積極的になったようで、何かが吹っ切れたように、二人の時は甘えてくる。


「ん...ふふ」

「へへ...」


 カッコいい幼馴染が私だけに甘えてくるという事実が心を満たしてくれるから、私もついつい甘やかしてしまうのだ。

 完全に無防備な唇に私も重ねると、ふにゃりとした笑顔を優里は向けてくる。

 うんうん、可愛い。

 このまま今日が終わってもいいなぁ、と一瞬思ったけれど、明日は大事な初配信がある。

 優里のおでこに人差し指を当て、「今日はここまで」と言っておいた。


「えーっと...ゴホン。それじゃあ話を戻すね?優里が言ったような流れで初配信としては成功だと思うんだけど、実際そんな配信してる人がいたらどう思う?」

「え?ん、んー。普通に、こういう人なんだぁ、って思うかな?」


 私が尋ねると、優里が答えた。

 それを聞いて、やっぱりそうだよね、と思う。


「普通に、初配信をしてるなぁ、って感じるよね?でもそれって、あくまでもってことになっちゃうんじゃないかな?」

「あー...」


 そう言って優里は考え込む。

 私が一人の視聴者だったとして、星の数ほど居るvtuberの中から毎日見たいなんて、何かしら自分に刺さるものが無いと思わない。

 一般的な自己紹介をするだけで好きになってくれるのは、声がタイプかビジュアルがタイプ、という人が多いだろう。

 一般的な自己紹介とは言っても、特殊な経歴だったり変わった特技や方言を持っていれば話は変わってくるけれど。

 そういう意味では私は珍しい経歴ではあるけれど、基本的にライブスターズは前世の話はNGなのだ。

 何回か配信をすれば姫野京香だということはバレてしまうかもしれないけど、私がそれに触れることはないので、経歴に関しては話せないということになる。

 あとは声やビジュアルがタイプという人達だが、それはもう配信してからしか分からないので、より多くの人に見てもらう為の作戦が必要になってくる。


「言いたい事は分かるよ。私も実際、幼馴染の友人についてひたすら話した事が話題になって最初は伸びたからね。京香の声の良さは世界一だけど、それだけじゃ物足りないっていう人が出て来るかも。まぁ、そんな奴切ってしまえばいいけど」


 ...嬉しいけどね、うんうん。

 ガチ勢の優里は置いといて、やっぱりそれだけじゃ物足りないという人はいるみたいだ。


 私はポケットからスマートフォンを取り出して、操作する。


「ん?斉藤さん?メッセージ送ってるの?」

「そうそう、斉藤さん。このあと月さんにも。」

「...へ、へー?な、なんで?」


 横から覗いて来た優里に答えると、月さん、の部分に反応したのか、何故か動揺していた。

 優里がヤキモチ妬きだというのはもう分かっているので、早めにその不安を解消してあげる。


「初配信の準備、沢山手伝ってくれたでしょ?そのお礼と、それからお詫びかな?」

「なるほど...ん?お詫び?」


 優里はホッとした顔の後、尋ねてくる。


「そうそう。自己紹介動画はさ、初配信が終わった後に動画であげることにしたんだ。さっき決めちゃった!だからそのお詫び。優里も手伝ってくれたから謝らないとだね」


 そう言って、「ごめんね?」とウインクすると、「うっ...」と優里はうめく。

 初配信の為に協力してくれた三人には申し訳ないないけれど、それ以上に面白いことを考えたから、明日を楽しみに待っていて欲しい。

 すぐに二人から返ってきたメッセージを読んで、優里の手を引きながら立ち上がる。

 向かう先は、配信部屋だ。


「優里、あと少しだけ手伝ってね?新しい景色、見せてあげるから」

「よく分かってないけど...京香が言うなら勿論手伝うよ。楽しみにしてる」



 明日はいよいよ、初配信だ。

 ライブスターズ七期生ヒメカの名前を、vtuber業界に...いや、全世界に刻もうじゃないか。

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