第43話 幼馴染で親友はお先に


 クイズ大会が終了し、結果発表の前に七期生のデビュー告知が流れた。


『オタクに優しいギャルって本当にいるんですか!?うみぽよ〜!』

「うぇーい!」「太もも眩しすぎるー!」「ぱ、パンツ!」「ギャルだ!ギャルきた!」


 まずは海ちゃんが紹介され、先輩方も盛り上げてくれている。

 私達は声を出さないが、そのビジュアルが配信上に映し出され、キャッチコピーと名前が添えられていくようだ。

 うみぽよちゃんは、派手な金髪にネイル、アクセサリーを付けたギャルである。

 見た瞬間に海ちゃんだと分かるほど、特徴がそのままだった。


『へへ...ボクなんかでもアイドルになれるんですかね...へへ...。キノコ〜!』

「なれるさー!」「キノコちゃーん!」「この子のママになりたい!」「いや、もうママだ!」


 続いて冴子ちゃんが紹介され、先輩方の合いの手も飛び交っていく。

 キノコちゃんは、真っ黒な伸びた髪に低い身長、印象的な目の下のクマが特徴の守ってあげたい女の子だ。

 ここまで冴子ちゃんにクマはないが、口元のヘラっとした形と猫背はそっくりである。


『てっぺんを取りに来た女!可愛いの覇者、ヒメカ〜!』

「言いたいことが、あるんだよ!」「やっぱりヒメカは可愛いよ!」「好き好き大好きやっぱ好き!」「やっと見つけたお姫様!」「私が生まれて来た理由!」「それはヒメカに出会うため!」「私と一緒に人生歩もう!」「世界で一番愛してる!」「ア・イ・シ・テ・ルー!」


 最後に私が紹介され、先輩方の見事な連携プレーでアイドル時代に私が貰っていた『ガチ恋口上』が披露された。

 事前に打ち合わせしていたのかと疑いたくなるほど綺麗に揃っていたので嬉しかったけれど、明らかに二人より長い尺を使っていたので怒ってないかなと隣を見る。

 ニコニコと楽しそうな冴子ちゃんと、声を出さない様にノリノリで手を振っている海ちゃんの姿があったので、ホッとした。

 同期に、先輩。皆、私も大好きだよー!



 愛のあるヤジに疲れたのか、全員ゼーハーしながら席に座っており、その間に七期生のデビュー日程が発表される。

 ちょうど一週間後、うみぽよちゃん。

 その次の日、キノコちゃん。

 最後に一日空いて、ヒメカ。

 の順番だった。

 何故私だけ少し離れてしまったかというと、元々決まっていたデビュー日だと2Dモデルの方がギリギリになってしまうからなんだそう。

 それなら待ち望んでいる二人には申し訳ないけれど、一日ずらせば良いのでは?と尋ねたがそういう訳にもいかないらしい。

 他イベントとの兼ね合いがどうだとか、告知が既にだとか、大人の事情があると言われた。

 大人の事情には絶対に文句を言わない、これは起用してもらっているタレントとして最低限のことだと思うので、一人離れて寂しいけれど納得した。



 私たち七期生のデビュー告知が終わり、いよいよ結果発表である。

 あくまでも今日はライブスターズの七周年記念特別番組であり、私達は次の一歩となる存在だ。

 これまでのライブスターズ、最初の一歩を踏んだりくちゃんの声で、クイズ結果が発表される。


「それでは参ります!!ライブスターズ七周年記念一日目、クイズ大会の結果は...!!」


 ゴクリ、誰かの唾を飲む音が聞こえる。

 と、思ったら犬屋敷さんが普通にお茶を飲んでいた。

 後半、焦りからかお手つきのようなニアミスを繰り返していた犬屋敷さんのひたいには汗が流れている。

 他の一期生の先輩方も同様で、明らかに後半は差が開いてしまったであろう五期生も落胆した顔をしていた。

 唯一、三期生のメンバーだけが自信に満ちた表情をしており、ナイトさんに関しては真っ直ぐに私だけを見ている。

 うん、集中しなさい。


「まずは三位!!...チーム五期生!!最終結果は13ポイントです!!」


 案の定、三位は五期生だった。

 五期生の全員が肩を落とす。

 彼女達もデビューして二年経っているとはいえ、今年で五年目の三期生と、初期メンバーである一期生には及ばなかったようだ。


「そして注目の一位、二位ですが!!なんと最終ポイント39ポイントと40ポイント!!その差はわずか一!!最後は優勝チームを読み上げます!!さぁ、優勝したのは...!!」


 りくちゃんの言葉に出演者、スタッフ、リスナー、全員の意識が集中していく。


「...チーム三期生!!おめでとうございます!!」


 雄叫びをあげる優里を始めとした歓喜の三期生。

 泣き叫ぶ犬屋敷さんを筆頭に崩れ落ちる一期生。


 こうして、ライブスターズ七周年記念、クイズ大会は幕を閉じた。







「つ、次は私...!お願いします...!」


 番組が終わり、全員で休憩所に来ている。

 先ほどすみれきゅんのほっぺにキスをし、ご褒美をあげた所だ。すみれきゅんはそのまま床に倒れている。


「はーい。東雲さんは右と左どっちが良いですか?」

「あっ、あっ、み、右で...!」

「ふふ...ん」

「はぁぁああああ!んぐっ...」


 東雲さんは意識を失い、すみれきゅんの上に重なった。

 ...あれ?冗談だよね?

 心配になりそばに寄ろうとすると、その前を影が塞ぐ。


「...トップアイドル...大変...」


 月さんだった。

 私のファンサービスを労ってくれる優しさが心に沁みてくる。


「あはは、喜んでもらえて嬉しいですけどね。月さんはどうしますか?やっぱりこういうのはやめときます?」

「...それと...これとは...別」


 そう言って左頬を差し出してくる月さん。

 なんだか初対面の時の印象とはだいぶ違うなぁ、と思いながらその頬に口を付けた。


「...これは...なかなか」


 そのまま寝転んでいる二人の上に重なった。

 多分ノリでやってみたのだろう。意外とお茶目な人なのかもしれない。

 下で潰れたすみれきゅんが「うぐぇっ!?」と言っていたのでどうやら息はしているようだ。今まさに危ないかもしれないけれど。


 次はメアちゃんか優里だけど...二人とも来ない。

 まぁ、二人とも恥ずかしがり屋だから仕方ないかな。

 とりあえず休憩所内の離れた所にいるメアちゃんに声をかける。


「メアちゃーん」


 私が呼びかけると、「ふ、ふん!」と言ってそっぽを向く。

 ふふ、さっきチラチラ見てたの知ってるよー。


「メアちゃんには特別に、おでこにしてあげる!」

「わ、私は別に...!」


 そう言って逃げようとするメアちゃんをガッチリとホールドし、私が被せた帽子のつばを少し上げて、唇を落とす。


「カッコよかったよ、メアちゃん」

「ん、んう...うぅ...ふ、ふん!」


 メアちゃんは真っ赤な顔を隠すように帽子を深く被り直し、その場でうずくまる。

 そんなメアちゃんの後ろから抱きついて頭を撫でると、「うぅ...ずるい」と言っていた。

 メアちゃんの方こそ、可愛くてズルいと思うけどなぁ。


 そうしてクイズ大会の優勝チーム最後の一人である私の親友を探す。

 休憩所内を見渡してもどうやらいないようだったので、どこだろう、とメッセージを送った。

 返事を待つ間、犬屋敷さんや一期生の先輩、五期生の先輩が「残念賞を...」と言ってきたので急遽握手会を行う。

 そうして時間が経ってそろそろ帰ろうかなとスマホを見たら、ちょうどメッセージが届いていた。


『ごめん、先に帰ってる』


 メッセージを見てライブスターズの皆にお別れを言う。

 優里の気持ちを想像しながら、電車に揺られた。

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