第41話 幼馴染で親友は大規模コラボ(前編)


 ライブスターズの七周年記念に、クイズ大会が行われる。

 0期生であるりくちゃんが司会を務め、二日間に渡り一期生から六期生がそれぞれチームとなって戦うというものだ。今日は一期生、三期生、五期生の奇数チームの日だ。

 ちなみに明日は二期生、四期生、六期生の日ということになる。

 内容は、この五年間で起こったライブスターズメンバーの配信に関するまとめの様なものになっていて、優勝チームには豪華賞品があるのだとか。

 今日はその配信がある日で、優里と一緒に事務所を訪れていた。

 私は出演する訳ではないけれど、サプライズで私達七期生のデビューが告知されるというのもあって見に来ている。


「あ、京香じゃん、おはー!」

「海ちゃん!おはよー!」


 大きな声で事務所全体に挨拶をした後、早々に声を掛けてくれた海ちゃんに挨拶を返す。

 隣の優里が、「京香...?」と呼び方に反応していた。


「へへ...姫野さん...ボクもいますよ...へへ」

「冴子ちゃん!もちろん分かってるよー!おはよー!」


 海ちゃんの後ろに隠れるように控えていた冴子ちゃんが顔を覗かせて声を掛けてくれる。

 海ちゃんに冴子ちゃん、それに私。

 この三人が次にデビューする七期生のメンバーとなる。

 海ちゃんと冴子ちゃんの二人はかなり早い段階でキャラクターも定まっていて、その姿を映す2Dのモデルも出来上がっていたのだが、私だけ急に応募したせいで時間がかかってしまっていた。

 この後告知されるデビュー配信の日程も、私が一番最後だ。


「...それで、京香、隣のイケメンさんは...?」


 海ちゃんが聞いてくる。

 イケメン...?と一瞬聞き返そうとしたけれど、そうだった、優里は背も高くてカッコいいんだ。

 二人で話している時も可愛いという印象しかなかったので、カッコいいということを忘れていた。

 二人暮らしのルールを決めてからも毎日可愛いに溢れていて、特に一緒にお風呂に入る時は未だに顔が真っ赤になって俯いてしまうので、ついついいじめてしまう。

 ...まぁ、時々見せる真剣な顔は世界一カッコいいけど。

 私は隣の優里の腰を引き寄せ、紹介する。


「この子はナイトさんだよー!私の唯一無二の親友!」

「ゆ、唯一無二...。あ、京香の親友のナイトです。よろしく。えっとー、海さん?でいいんだよね?」


 優里の挨拶に目をパチパチとまばたいている海ちゃん。

 頷きながら「イケてるー!」と少し興奮気味だが、「あっ」と何か思い出したように声をあげた。


「うみぽよっていう渾名あだなでウチはデビューするから、間違えないようにうみぽよで呼んで〜」


 優里が「よろしく、うみぽよ」と返す。

 海ちゃんのキャラクターはうみぽよと言うらしい。

 間違えないよう私も口に出す時はうみぽよと呼ぶことにしよう。

 海ちゃんで、うみぽよかぁ。

 そういえば私もヒメカでデビューするし、もしかして七期生はそういう感じなのかな?と思って冴子ちゃんを見る。


「へへへ...ボクは木下冴子で、キノコという名前でデビューします...へへ...ボクに似合ってると言われました」

「キノコちゃん!良いねぇ〜!冴子ちゃんにピッタリで可愛い名前だよ!」

「そうですか...へへへ...ボクもこの名前気に入ってるんです」


 自己紹介してくれたキノコちゃん、こと冴子ちゃんが嬉しそうに笑うので、相変わらず可愛いなぁと頭を撫でる。

 ふひゅぅ、という謎の声を発しながら浄化していった。


「なるほど、うみぽよにキノコね。覚えたよ。これから顔を合わせる機会も増えると思うから仲良くしてくれると嬉しい」

 

 優里がそう言って二人と握手をする。

 その姿がいつもより凛々しかったので、優里も先輩なんだなぁ、としみじみ思った。


「で?京香は何て名前なの〜?まさかそのまま姫野京香じゃないでしょ?」


 海ちゃんが尋ねてくる。そうだ、私の名前を言うのを忘れていた。

 冴子ちゃんも興味あるようで、私を見上げながら答えを待っている。


「流石に姫野京香はマズイでしょ〜ということで、私はヒメカとしてデビューするよ!」

「姫野京香でヒメカって安直すぎぃ〜」


 そう言って笑う海ちゃん。

 いや、うみぽよに言われたくないし、冴子ちゃんのキノコだって私と似たような由来じゃないか。


「へへ...ヒメカさん...とっても可愛い名前です」


 冴子ちゃんが褒めてくれる。

 私達七期生のオアシスはキノコちゃんしかいない。アイドルだった頃のファンの言葉を借りるなら、キノコしか勝たん、だ。

 愛すべきキノコちゃんの頭をぎゅぅっと抱きしめてあげると、ほひょぅ、と口から漏れていた。

 冴子ちゃんの面白い反応を楽しんでいると、「そろそろ上に行くよ」と優里が声をかけてくる。

 少しだけ拗ねた声だ。

 ふふ、私の周りは可愛い子がいっぱいらしい。

 

 


 大人数コラボの出来るスタジオのある八階の一番右の扉を開け、中に入り「おはようございます」と挨拶をする。

 ソファの上にはやっぱり犬屋敷さんが寝ていて、向かいのソファにはどこかで見覚えのある可愛らしい女性が座っていた。


「ひ、姫野京香さん!?」


 そう言って立ち上がる慌てた様子の女性を見て思い出す。


「あ、もしかしてサイヤイヤの...」

「そうです!嬉しい!覚えていてくれたんですね...ひゃー!」


 テンションの上がっているその女性を困惑しながら見ていると、優里が、「そういえばそうだった...」と呟いている。

 なんだなんだ、もしかして彼女も?

 目線で優里に尋ねると、小声で教えてくれる。


「あの人は、東雲しののめセイラさんだよ。私と同じ三期生の。そういえば京香と会った、ってはしゃいでいたのを今思い出した」


 なるほど、サイヤイヤで握手をした女性は東雲さんで、私の先輩だったということか。

 声ですぐに判断できなくて申し訳ないと思うけれど、配信時よりも相当テンションが高いように見えるので分からなくても仕方ないかもしれない。

 うんうん、仕方ない仕方ない。


「東雲さん、また会えて嬉しいです。ライブスターズのオーディションに合格して、東雲さんに会いに来ましたよ」


 ウインクを付けて耳元で挨拶すると、「きょ、京香ちゃんが私の...後輩...?はぁん...」と夢の世界に飛び立ってしまった。

 その様子を海ちゃんと冴子ちゃんにも見られているから、きっと危ない先輩だと思われたことだろう。

 一応二人の挨拶の時には普通の態度に戻っていたが、時すでに遅し、というやつだ。




 その後しばらくして犬屋敷さんが起きてきたり、他の先輩方も来て休憩所が賑わってきた。

 挨拶をする度に驚いてもらえたので、アイドルをやっていて良かったなぁと思う。

 今いる全員に挨拶を終えた私と海ちゃん、冴子ちゃんの三人は、これから本格的な打ち合わせがあるということで二つ隣のスタジオに移動した先輩方を見送り、時間まで休憩室で休んでいることにした。


「いやぁ〜、流石は京香。やっぱり有名人だねぇ〜」


 ふぅ、と一息つきながら言う海ちゃん。

 いつも元気な海ちゃんも、沢山の先輩に挨拶回りをするのは慣れていなかったようで、少し疲れた顔をしている。

 冴子ちゃんは自分の中の許容量を超えたらしく、微動だにせずソファに横になっていた。


「ふふ、これからはヒメカとしてもっと有名になるつもりだから、皆も一緒に頑張ろうね!」


 私はそう言って二人の手を取る。

 相変わらず手を握られるのは恥ずかしいらしい海ちゃんと、滅多打ちにされたボクサーのようにヨロヨロと顔をあげる冴子ちゃんに、笑顔を見せる。

 この先何があっても三人なら大丈夫だ、その気持ちが、強く握りしめた手から伝わると良いな。


「ちょ、ちょっと、痛いってぇ。分かったってば、もう〜」


 照れ隠しに振り解いた手をふぅふぅ、と冷やすように息を吹きかえている海ちゃんの赤い顔と、握った手と逆の手を上に掲げて握り締める冴子ちゃんの真っ白な顔。

 ふふ、ちゃんと伝わったみたいだ。




「へへへ...そういえば三期生のメアさんとスミレさんとムーンさんはまだ来てないんですかね?...へへへ、まだ挨拶してないな、と思いまして」


 しばらくして復活した冴子ちゃんが言う。


「確かにまだ見てないね〜、京香がナイトさんと友達ってことは、この間のオフコラボでメアちゃん見たんでしょ〜?まだ来てない?」


 海ちゃんが私に尋ねる。

 正確にはオフコラボの前にメアちゃんと会っていたが、詳しい話は省いても大丈夫だろう。


「そうだねー、まだ見てないなぁ。ちょっとスタジオ見てくるよ」


 そう言って休憩所を出ようとした時、ちょうど扉が開いた。


「あ、ヒメカさん。ちょっと頼み事があるんですけど良いですか?」


 入ってきたのは出来るマネージャーの斉藤さんで、その声色から少し焦っているのがわかる。


「はい、今は暇なので大丈夫ですよ」


 私の答えを聞くと、「良かった...」と斉藤さんは言い、そのまま続ける。


「メアがまだ来てないんですけど、電話をかけても出なくて...もし良ければ家まで見に行ってもらっても良いですか?私はあと二人遅刻組を迎えに行かなくてはならないので...」


 なるほど、根は真面目なメアちゃんが遅刻とは珍しい。

 向かっている途中に事故にあったとかじゃなければ良いけれど。

 心配だ。


「分かりました、見に行ってきます。とりあえず家にいたらすぐ連絡しますね!」

「よろしくお願いします」


 そうして私は八階から階段で駆け降りていく。

 カッコよく飛び出したつもりだったが、エレベーターで先に一階に着いていた斉藤さんと目が合ったので、ウインクをしておいた。


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