第40話 幼馴染で親友は帰り道
オフコラボが終了し、夜遅くなったのでメアちゃんが「と、泊まっていけば?」と言ってくれたけれど、着替えも何も持ってきていなかったので残念だけど断る。
来た時はあんなに怯えていたのに凄く寂しそうな顔で「そう...」と言うメアちゃんを抱き締めて、「お泊まりはまた今度ね」と頭を撫でた。
優里と二人でタクシーを待つ。
この時間では深夜の割増料金だが、終電は逃しているので仕方ない。
二人になった途端無言になった優里と、まだ暖かい夜空の下で車の往来を眺めていた。
「...京香、本当にいいの?」
ようやく口を開いた優里。
いいの?とはなんだろう。一緒に住んでも大丈夫?ということだろうか。
だとしたら心外である。
「優里、私ってそんなに信用ない?優里なら良いよ、って何回も言ってるでしょ?」
これ以上言うなら怒るよ、そんな気持ちで優里に言う。
「し、信じてるけど...でも...」
まだ優里は不安な様だ。
その話はもう終わったと思ったのに、メアちゃんがいたからいつも通りに振る舞っていただけだったのかもしれない。
「んー、じゃあ帰ってからまた考えよう?結局昨日はルームシェアのルールも決められてないしさ。ほら、タクシー来たよ」
手を挙げてタクシーに止まってもらう。
開いたドアに向かい優里の手を引っ張って乗り込んで、優しそうな運転手のおじさんに最寄駅を伝えた。
タクシーが出発し、再び無言の時間が訪れる。
優里と手を繋ぎながら、窓の外を過ぎ去っていく夜の光をボーッと見ていた。
「おかえり、優里!」
「うっ...た、ただいま...」
玄関で、優里を出迎える。
二人一緒に帰ったが、玄関の前で優里に待っていてもらい、先に私が中に入ってもう一度ドアを開けた。
おかえり、と言うことが優里の何かに刺さったようで、顔を赤くしながら中に入ってくる。
「ふふ、それじゃあ今度は逆ね?」
「えっ?」
私はまた外に出て鍵を閉める。
そのままもう一度鍵を開けた。
「ただいま、優里!」
「うっ...お、おかえり...」
おかえりとただいまが入れ替わっただけのやり取りだが、また優里の何かに刺さったらしく、顔を赤くしながら出迎えてくれた。
「うんうん、それで?」
「えっ?」
困惑する優里に私は続ける。
「どっちの方が好きだった?」
「えっ、ど、どっち...?」
「そうそう、おかえりとただいま!」
「あ、えっと...ど、どっちも...良かった...」
顔を赤くしながら俯いて答える優里。
そうかそうか、どっちも良かったかぁ。
「じゃあこれからも一緒に住もうね!私もどっちも好きだよ、おかえりもただいまも!」
そう言って優里に笑顔を見せる。
優里は上目で私を見ながら、二度、深く頷いた。
まったく、手のかかる親友だなぁ。
そのまま優里の頭を撫でて、一緒に中に入る。
色々あったけれど、ただいまとおかえりを言い合いたいと思うなら、それ以上一緒に住む理由は要らない。
「それでは私たちのルームシェアにおけるルールを決めたいと思います!」
「いぇーい」
ソファに隣り合って座り、机の上に大学で使っているノートとペンを置いて会議が始まる。
私の掛け声に、優里が合わせてくれた。すっかり元気である。
お風呂に入り、今は二人とも寝巻きだ。
一緒に入ろう、と言ったのだが、「今日は許して」と優里に言われてしまったので我慢した。あくまでも今日は。
「それじゃあまずは基本的な家事について話し合おうじゃないか、優里くん」
「優里くんって...なにそれ。えっと、家事っていうのは料理と洗濯と掃除...他にもあるっけ?京香くん」
一緒に住む為のルールを決めるという状況に舞い上がっている私に優里が合わせてくれる。
可愛い...撫でておこう。
「まったく...これだから同居初心者は...やれやれ。他にも色々あるでしょ?買い物とか...買い物...うん、買い物とか?」
買い物の他に特に思い付かなかった。
「うぐ...京香だって初心者のくせに。というか前にも言ったけど、そういうの全部二人で一緒にやっちゃダメなの?」
「えー、家事を分担するっていうロマンがあるじゃんかぁー」
私はそう返すけれど、本当は別にこだわりなんて無いし、実際二人で一緒に協力した方が早い上に楽しそうだ。
「私は...京香と二人でやりたいよ...?全部...一緒が良い」
真っ直ぐな優里の目に、思わず動揺する。
優里の真剣な顔に私は弱い。
仕方なく、あくまでも仕方なくというオーラを出しながら答える。
「まぁ優里がそう言うなら?二人で一緒でも良いよ?」
「うん...嬉しい」
そう言って噛み締める様に喜ぶ優里が可愛くて、私は優里を抱きしめた。
「んぁぇ!?きょ、京香どうしたの...?」
「んー?ふふ、なんとなく」
「だ、ダメだよ!あっ、ルールに加えて。突然抱きしめるの禁止!」
「えー?私に抱き付かれるの...イヤ?」
「うぐぅ...ず、ずるい」
得意のあざとい上目遣いで優里を説得する。
相変わらず私のこの攻撃に弱い優里は簡単に認めてくれた。
可愛いのでほっぺにキスをしておく。
「あぅ...いきなりキスも...禁止...」
「ん...ダメ?」
「う、うわぁあああああああ!!ズルいよ!!」
こうして私たちだけのルールが決まっていく。
大抵、お願いしたら許してくれる優里だけど、毎晩のお酒だけは拒んでいた。
ふふ、代わりにお風呂は許してもらえたもんね。
これからの生活が楽しみで、私の心はしばらく落ち着きそうもない。
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