第39話 幼馴染で親友はオフコラボ


 優里とメアちゃんが横に並び、間にはマイクが置いてある。

 声が入らないように私は少し離れて座った。


「ふん!今日はナイトと急にオフコラボすることになったから」

「こんぷり〜、貴様らはお昼ぶりかな」


 メアちゃんのチャンネルで二人の声が入り、配信が始まる。


「それから今日は、と、友達もここにいて、声は出さないけど一緒にゲームやるから」

「そういうことなので、えーっと...なんて呼ぼう?」


 メアちゃんが私を軽く紹介してくれて、優里が呼び名をどうするか聞いてくる。

 正直、ナイトメアの二人でわちゃわちゃしているのを見たくて提案しただけだったので私も混ぜてもらうと思っていなかった。

 配信を始める時にリビングで見てようと移動した私を二人が参加させたのだ。「い、一緒にやるに決まってるでしょ?」と言っていたメアちゃんと頷く優里に、少しだけ嬉しく思ってしまった。

 てぇてぇ、というものに挟まる気は無いのに。

 皆ごめんよ。


「...!...!!...!!!」


 私は声を出さないまま伝える。


「えーっと、な、なによ?」

「あー、友人Aとでも呼んで、って言ってるよ多分」


 流石は親友。私の伝えたかったことそのまま理解してくれたようだ。


「な、なんなのよあんた達...ふ、ふん!」


 仲の良さを見せつけられたメアちゃんが少し寂しそうなので、近付いて頭を撫でる。

 いつも通り顔を赤くしているメアちゃんの肩越しに少しリスナーのコメントをチラ見したが、私も混ざることにそこまで怒っている人はいなさそうだ。


コメント

: だ、誰だ...!?

: ナイトの友人か...?

: 友人ちゃんキタ...!

: メアとも仲良いのか...最高だ

: えー、今日は喋らないの?

: あの声に翻弄ほんろうされるナイトはもう見れないのか...


 うん、むしろ受け入れられているかもしれない。

 昨日は事故ということで見逃されたが、本来ライブスターズ所属でも配信業をしてるわけでも無い一般人の声を配信に載せるのは良くないことだろう。

 私の声が聞きたいという人には申し訳ないけれど、あと少し待っていて欲しい。会いに来るから。


「うん、それじゃあ早速今日やるゲームはこれ!マイのパーティー!」


 優里の声と共に配信上にゲーム画面が映し出される。

 『マイのパーティー』

 つけまつ毛をこれでもかと生やしたマイという女の子が主人公の『マイのシリーズ』の中でも、皆でワイワイと遊べるパーティーゲームとして広く愛されている。

 主なルールはすごろくの様なもので、止まったマスによってミニゲームが発生したりする楽しいゲームだ。

 ちなみに私はPCゲームの配信方法は教えてもらったけれど、家庭用ゲーム機の映像を配信に載せる方法はまだ知らないので、今度優里に教わろう。



「三人しかいないから一人コンピューターを入れて...キャラクター誰にする?」


 優里がどんどんと段取り良く進めていき、キャラクター選択画面に移る。


「ふん!どうせあんたはヒョッシーとかいうモブキャラ使うんでしょ?それなら私はフッパよ!」


 メアちゃんが選んだのはフッパというボスキャラだ。

 可愛い見た目のメアちゃんからは想像できないいかついチョイスである。


「ヒョッシーとか!あはは、笑わせてくれる!そんな軟弱なの使わないね!私はウッホーコングだ!」


 ナイトさんの選択はウッホーコング。

 フッパとは別方向のボスキャラで、筋肉ムキムキのゴリラがウホウホと叫んでいる。失礼かもしれないがナイトさんらしいチョイスだ。


 最後に私がヒョッシーを選んで画面が変わる。コンピューターは自動的に主人公のマイになった。


「...あ、あれれ〜?メアちゃ〜ん?確かヒョッシーのことモブキャラとか言ってなかったっけ〜?」

「ば、ばか言ってんじゃないわよ!こんな可愛らしいキャラクター他にいないじゃない!あんたこそヒョッシーなんて軟弱だ、とか言ってたじゃない!」

「ぴゅ、ぴゅ〜?なんのこと〜?あぁ、なんてキュートなんだって言った気がするけど?」


 二人がチラチラと私を見ながら言い争っている。

 その姿はまるで母親に怒られる前に罪をなすりつけ合う姉妹のようで、思わず「ふふ」と笑ってしまった。


「あ、ちょ、ちょ、ちょっと声...」

「う、うぉおおおおおおお!!」


 焦るメアちゃんと、私の声をかき消すために雄叫びをあげる優里。

 まだ最初のサイコロも振っていないのに、すでに現場は荒れていた。





 ゲームが終わり、最終順位はナイトさんが一位でメアちゃんが二位、コンピューターが三位で私は最下位だった。


「うん、いつまで経っても私の下にいるのが似合うねメアは」

「はぁ?あんたなんかギリギリのラッキーで一位になっただけじゃない!運ゲー!」

「あっはっは、運も実力のうちですよ〜?」


 上位を取った二人が可愛らしく喧嘩している姿を見て、私は密かに唇を噛んでいた。

 最後の一つ前のターンまでは私がダントツでトップだったのだ。

 そこから怒涛のアンラッキーで気付けばコンピューターにも抜かされビリ。

 勝負において負けるということは私の辞書にはない。

 上機嫌にはしゃいでいる優里と、なんだかんだ言っても二位は取れているので余裕があるメアちゃんの二人に近付いて頭を撫でる。


「な、なによ...」

「ほ、褒めてくれてる?あ、ありがとう...」


 顔を赤くする二人の顔を寄せ、マイクが拾わないくらいの声で囁いた。


「もう一回...しよ?」







 結局三時間ほど通しでやり続け、もう夜中の24時を越えている。

 合計六戦中、最初の試合以外全てで私は一位を取った。

 三試合目で戦績が二人を追い越したので「ま、ちょっとは楽しめたかな」とスマホからメッセージを送ったら二人ともムキになって、いつの間にかこんな時間だ。

 五連勝した私に敗北を認めた優里の「くっ、殺せ...!」というセリフと、メアちゃんの「ふ、ふん!...ぐす...」という泣き声を合図に終了となる。

 ちなみにメアちゃんは五連続ビリで分からされていた。


「そ、それじゃあ今日はもう終わろうかな...お疲れ...」

「う、うん...お疲れ...」


 こうして、地獄のナイトメア『マイのパーティー』オフコラボは終了した。


コメント

: 友人ちゃん強すぎる

: ナイトのくっころが聞けたので満足

: メアの半べそは世界を救うな

: またやって欲しい〜


 うん、反応も悪くない様でよかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る