第31話 幼馴染で親友はお引越し


「あとはこれ乗せて...オッケー!」

「意外と少なかったね?」

「そうだね。まぁ、優里の家に元々日用品は置きっぱなしだから」


 昨日ルームシェアが決まり、今日は早速お引越しということで、優里と私の家に来ていた。

 最後の荷物をまとめ終わり、レンタカーの広い荷台に乗せて一息つく。

 私たちは免許を持っておらず運転出来ないので、優里パパが有給を取り運転してくれる。

 頑張って仕事をして貯めた有給を私の引っ越しの手伝いに使わせるのは申し訳ないなぁ、と思ったが、あと二ヶ月以内に5日分消化しないといけないらしいので甘えさせて頂いた。


「京香ちゃんもう持って行く物ないね?」


 運転席に座る優里パパの問いかけに頷き、出発した。

 助手席には私が座り、後部座席では優里が荷物に押され窮屈そうに座っている。

 どうして助手席乗らないのか聞くと、「パ...お父さんの助手席に乗っているのを後ろから見られるの...ちょっと恥ずかしい」と言っていて優里パパが泣いていた。思春期の娘か。


「そう言えば優里、今日は誕生日配信だろう?もし準備が忙しかったら京香ちゃんの手伝いは任せても良いぞ?」

「とっくに終わらせてる。京香の荷物解きを手伝うのは私。それにパ...お父さんは配線とかあんまり詳しくないでしょ?」


 優里パパの提案を断る優里。

 すでにレンタカーを借りるのと運転も任せてしまっていたので、これ以上は流石に申し訳ない気持ちもあったから、寂しそうな顔をしている優里パパには申し訳ないが遠慮しておこう。

 誕生日配信の準備...岸宮優里の誕生日は昨日だが、プリンセス・ナイトの誕生日は今日みたいだ。

 二日続けて誕生日があるなんて二倍楽しくていいな、と思う。

 プリンセス・ナイトさんにも何かプレゼントをあげた方が良かったかもしれない。

 お酒とかも...そう言えば、


「優里ってまだお酒飲んだことないよね?昨日も飲んでなかったし。飲みたい?」


 私が尋ねると、優里も優里パパも二人とも渋い顔になる。

 何かまずかっただろうか?


「んー、飲んでみたいけど、ママが飲むと凄いことになるからさ...私もそうなる気がして怖いんだよね」


 凄いこと、と言われたら逆に気になってしまう。

 確かに優里ママがお酒を飲んでる所は見たことがない。優里パパは普通に飲んでた気がするけど。


「まぁ、京香ちゃんと二人なら大丈夫じゃないかな?折角一緒に住むんだし、晩酌とかしてみても良いと思うよ。あ、京香ちゃんはお酒得意だよね?」

「はい、時々お家で飲んだりもしますよ」

「よし、じゃあ二人のルームシェア祝いにお酒を奢ってあげよう」


 優里パパが行き先を近くのスーパーに変える。

 てっきり何かすごいお酒を買うのかと思ったが、最初は一般的な弱めのお酒の方が良いということらしい。

 スーパーに向かう最中も渋い顔をしている優里を見て、今日の夜が楽しみになった。




 スーパーでの買い物を終え優里パパに荷物を家に入れるのを手伝って貰った後、今は二人でソファに座っている。

 壁際に並べられているダンボールを見て、そういえば引っ越しなんて初めてだなぁ、と思った。

 今度、優里パパにも何かお礼をしなくちゃ。


「優里、今日からよろしくね!」


 優里に顔を向け、笑顔で挨拶する。


「っ...う、うん。よろしくね」


 ただの挨拶ではあるが少し顔が赤くなっている優里。

 最近は優里が照れるタイミングが分かってきた気がする。

 多分、カップルの同棲初日みたいだなぁ、とか思ってるはずだ。

 指摘したらもっと赤くなって可哀想だから言わないでおく。

 

「じゃあ荷解き始めよっか。誕生日配信は何時から?あ、20時だったっけ」


 昨日は配信お休みだったけれど、一昨日の夜にナイトさんが配信で告知をしていたはずだ。


「な、なんで知って...あぁ...そうだった...うわぁあああああ」


 私が配信を見ていることを思い出した優里は、突然思い出し絶叫をする。


「ふふ、ナイトさんのこと知ってからはちゃんとチェックしてるからねぇ〜」

「あぁあああああああ!...でもありがとう...よければチャンネル登録と高評価もお願い...」

「あはは、聞いたことあるやつだ!もちろんチャンネルは登録してるよ!それと...高評価?高評価ってあのグッドボタンみたいなマークかな?それ押すと良いんだね?これから毎日押してみる!」


 どうやら高評価をすると良いことがあるらしい。

 まだまだUtubeや配信について知らないことだらけだ。

 これから沢山優里に教えて貰おう。時間はたっぷりとある。これから一緒に暮らすんだから。


「あ、今日優里の配信隣で見てもいい?もちろん一言も喋らないからさ」

「えぇ!?い、いやいやいや!えっ!?」

「ダメ...?」


 あざとい角度の首と潤んだ瞳の私に優里が弱いことは知っている。

 絶対に邪魔しないと念押して、優里の手を包む。


「あぅ...ぐっ...あぇ...ずるい...そんなの...断れない」


 変な声を発しながら許してくれる優里に「ありがとう」とお礼を言ってほっぺにキスをした。

 そのまま倒れてしまいそうな程真っ赤になった優里を置いて、荷解きを始める。


 私も、少し浮かれているみたいだ。

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