第30話 幼馴染で親友はルームシェア
優里がリビングから戻ってきた。
先ほど「京香をください」と言った声が聞こえてきたが一体何を考えているのだろうか、この親友は。
「京香、一緒に住むの許可して貰ったよ。あとで来てってさ」
うん、何を考えているんだ。
「優里、ちょっと落ち着こう?そもそも私の本題はまだ終わってないよ」
「vtuberデビューするんだよね?京香ってあんまりPC関連詳しくなかったでしょ?隣で教えるから一緒に住もう。いや、住む。拒否権はない!」
一回落ち着いて話したいけれど、優里は止まらない。
なんというか、昔から決めたことに関しての行動力は凄まじいものだったし、こういう所は優里ママに似たのかもしれない。
私が黙っていると、「本当に嫌だったらいいけど...」と徐々に暗い顔になる優里。
「んー、色々教えてくれるのは本当にありがたいんだけど、いいのかなぁ。パパとママは許してくれたんだ?」
「うん。許してもらえた。元々一緒に住みたいから一人暮らしを始めたところもあるし、パ...お父さんの誕生日プレゼント、何でも願いを叶える権利をここで使ったから問題ない」
後で言う、と言っていた優里パパからのプレゼントリクエストは、私と一緒に住むことだったらしい。
嬉しいけれど、少しこそばゆい。
「そっか...。分かった。優里のマンションに私も住むってことで良いのかな?とりあえず後で優里ママとパパに話をしないとね」
そう言って私もルームシェアに納得するけれど、今の家はどうしよう。
綺麗とはお世辞にも言えない家だけど、大切な家族との、大切な思い出が詰まった家であることに変わりはない。
とは言え私も前に進まなくてはならない。
天国の両親の為にも、ずっと思い出の中で生きていてはいけないのだ。
頭の中でお家の整理をする。
「ごめんね京香。急に...」
どうや落ち着いたらしい優里が謝ってくる。
落ち着くのが少し遅いよ、全く。
「ん、いいよ。私の為に考えてくれてたんでしょ?」
「...ん。京香の為だけじゃなくて...私の為でもある...けど」
最後の方はゴニョゴニョと言っていて聞こえにくいが、相変わらず私の優里ボイスに対する感度は高いので全部聞こえている。
全部聞こえてますよーって教えてあげたほうがいいのだろうか。
...まぁ、いいかこのままで。
「それで、本題なんだけど...いい?」
「あ、うん。いいよ、何度もごめんね」
とりあえず私は今日来た目的の一つでもあるデビューに関する話をする事にした。
色々あって話しそびれていたけれど、ようやくだ。
「優里は私と仲が良いっていうのを配信で沢山話してるよね?そりゃもう...すごく」
「あぅっ...う、うん...」
優里の顔がまた赤くなる。本当に表情が忙しい子だ。可愛い。
「私がデビューするとさ、多分かなり早めに元アイドルの姫野京香だ、ってバレちゃうと思うんだよね」
優里は赤い顔を隠したいのか大袈裟に頷いている。
「早めどころか一瞬でバレると思う。京香の声...み、魅力的だから」
「あはは、ありがとう」
優里の褒め言葉を素直に受け取っておく。
vtuberというのは基本的に顔が良いので、その分声の良さで大きく人気が決まってくる。
その声を褒められたのだから、嬉しいものだ。
「で、私だってバレると、その隣にいつもいるのは優里しかいないから、優里のこともバレちゃうというか...顔とか名前も、身バレしちゃう可能性が高くて...一応コラボとかお互いの話を一切しなければバレないけど...」
言いながら、優里にかかる迷惑を考えて尻つぼむ。
優里がほんの少しでも嫌そうな顔をしたらデビューはやめよう。
そんな私の思いを吹き飛ばす様に、優里は即答した。
「そんなのどうでもいいよ。もし本格的にストーカーとかの被害がありそうなら、大学も辞めて二人でずっと家にいよう。通販でも何でも色々便利になってきてるし、その為の蓄えはあるからさ。大丈夫、安心して」
...ズルいなぁ。
そんなカッコいいこと言われたら...ふふ。
「ありがとう、嬉しいよ。じゃあデビューしても良いってことだよね?」
「当たり前じゃん。それより、私以外の人とコラボして私とコラボしない状況を想像したら...」
「...想像したら?」
「...いや、なんでもない。ちょっと良くない部分が出そうだった」
「あはは、なにそれ」
優里の良くない部分、ちょっと気になるかも。
またいつかその部分も見せてくれたら良いな。
一つ、大きな悩みが解決した私は優里と一緒にリビングに来ていた。
ソファで夫婦仲良く座る優里ママと優里パパが見つめる前で、ルームシェアに関しての話を進めていく。
結局今のお家は売って、優里の家に二人で住むことが正式に決まった。
優里の家は一人暮らしには広いな、と思っていたがどうやら本当に二人暮らしが前提だったらしく、部屋の割り振りも配信用の部屋も順調に決まっていく。
優里ママも優里パパも娘が配信をしていることは知っていたらしい。
二人にも優里の身バレの可能性について話したが、私がアイドルとしてデビューした時から覚悟は決まっていたみたいで、「二人のとこに変な奴が来たら潰す」と物騒なことを優里パパは言っていた。
私のことも大事な娘の様に思ってくれていることに改めて胸が熱くなる。
それより相手の両親に挨拶して家とかを決めていくこの状況が、ルームシェアというより同棲のような...そう思ったことは内緒だ。
「...同棲みたいね」
あ、言うんだ。さすが優里ママ。
ほら、娘の顔がみるみる赤くなっていく。
こうして私の「幼馴染で親友」は、「幼馴染で親友の同居人」になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます