第28話 幼馴染で親友は誕生日(後編)
ご馳走を平らげ、優里ママからのプレゼントである車を見に優里と二人で車庫に来ていた。
優里パパはもう既に見ているようで片付けをしてくれている。
私も手伝おうとしたが、「大丈夫大丈夫。それより早く二人で見に行っておいで。ママがソワソワしてるから」と言われたのでお言葉に甘えることにした。
その優里ママは玄関の影に隠れ、私たちの様子をこっそりと覗いている。鼻付き眼鏡はいつの間にか外していた。
「うわー!カッコいいねこの車!黒いね!強そうだよ!」
優里はプレゼントされた車を見てはしゃいでいる。
私が来た時は車庫が開いていて見えてしまっていたので二度目のご対面だが、確かに強そうだ。
車に関して詳しくないのでよく分からないが、車のハンドルを上下逆さまにした様なエンブレムがフロント部分に付けられている。
「これ乗って沢山出かけよう!免許早く取りたいなぁ」
優里のテンションが高い。
二十歳の誕生日に車をプレゼントするのは流石社長さんだ。
同時に、この後渡す私のプレゼントの印象が薄れてしまわないか心配だ。
優里ママは娘の喜ぶ姿を見て満足した様で、姿が見えなくなった。
「あ、せっかくだから乗ってみる?優里鍵持ってきた?」
放っておくと車の外装で一生はしゃいでしまいそうなので、中に入ってみないかと優里に尋ねる。
「あ、中に置いてきちゃった。取りに戻るね!あとママにも改めてお礼言ってくる!」
そう言って中に戻る優里に、私も遅れて着いていく。
ママー、と優里の声がしたところで私は玄関へと移しておいたプレゼントの袋を持って車庫へ戻った。
しばらくしてバタバタと優里の足音が響き、それがリビング、玄関へと移る。
「お待たせ!お礼言ってきたよ!あと鍵も!」
そう言って同じエンブレムが飾られた鍵を私に見せる優里。
早く中を見たいのかソワソワしているが、私も後ろ手に隠したプレゼントをどのタイミングで渡そうかとソワソワしていた。
「ふふ、早く中見てみたいね」
「うん、待ってて!今開ける...ってあれ?鍵を挿れる穴ある?」
そう言われて見ると、確かにドアノブらしきものはあるが収納されており、鍵穴はない。
優里が鍵を手に持って近付く。
「あれー?なんだろ?不良品かなぁ...ってうわぁ!」
優里が近付いた途端、収納されていたドアノブが飛び出し、驚いた優里が後ろに下がる。
相当驚いた様で、無意識に私の洋服を掴んでいるのが可愛い。うん、可愛い。
出てきたドアノブは制限時間があるのか、元の位置に収納されていった。
「もしかして鍵持って近付くとアレが出てくるのかな、もう一回行ってくる」
再度近付く優里。ドアノブがまた飛び出すが、今度は驚かない。
そのドアノブを持って優里が引っ張ると、ドアが開いた。
「開いた!開いたよ京香!入ってみよう?」
興奮した様子で優里が中へ誘う。可愛い。
運転席や助手席はまだ怖いから後部座席に二人で乗り込むと、新車特有の香りがした。
「結構中も広いね。座席倒したら寝られそう」
「確かにそうかも、やってみる?」
そう言って優里と一緒に座席の倒し方を探してみたが分からなかった。
優里の落ち込む姿が可愛らしい。座席を倒してみたくて仕方なかったようだ。
このタイプの座席が全部倒せるのか分からないけど。
「まぁ後で優里ママに聞いてみよう」
「うん、そうする」
優里は元気を取り戻し、また車内をグルグルと見回し始めた。
そろそろ、いいかな。
音でバレないよう慎重に包装を剥いで箱から取り出したネックレスを手に持つ。
「優里、こっち見て」
「ん?どうしたの京...香...」
車内を忙しなく眺める優里をこっちに向かせると、思っていたより私が近かったのか、言葉に詰まりみるみる顔が赤くなっていく。
「私が良い、って言うまで目閉じててね?」
「えっ、えっ...」
私がさらに優里に近付くと、顔を真っ赤にした優里が目をギュッと閉じて少し顎を上げた。
ふふ、チューじゃないよ〜、と思いながらネックレスの金具を外し優里の後頭部に両手を回す。
手が肩と首に触れ、ピクリと優里が反応する。
このままだとネックレスを付けたことが目を閉じていてもバレてしまいそうだ。なにか気を逸らすことしないとなぁ。
目を閉じて顎を上げたままの優里を見る。
そうだ。
「...ん」
「...えっ...えっ!?」
驚いた優里が目を開けた。
「あ、まだ良いって言ってないのに〜」
「ご、ごめん!で、でも今!ちゅ、ちゅ...うぅ...」
そう、私はキスをした。
ほっぺに。
本当は優里が寝てる時に何度かやっていたけれど、起きている状態では初めてだった。
少し恥ずかしいかもしれない。
そんな私より恥ずかしそうな優里は、真っ赤な顔と潤んだ瞳を私に向けてくる。
それでもまだ目を開けて良いと言われていないことを思い出したのか、また目を閉じた。
「あ、もう大丈夫だよ〜」
既に首の後ろで金具を留めてある。
チューで気を逸らし作戦は成功したようだ。
優里がゆっくりと目を開ける。
「ん、どう?何か変わったことに気付かない?」
「えっ、なんだろう...」
そう言って私をジロジロと見始める優里だが、私は別に変わっていない。しいて言うなら少し顔が赤くなっているかもだけど。
「私じゃなくて優里。ほら、違和感ない?首元とか」
「首?...っ!きょ、京香!こ、これって...!」
「驚いた?プレゼントだよ〜。改めて誕生日おめでとう!これからもずっと仲良くしてね!」
そう言って微笑むと、優里の目がさらに潤んで今にも溢れそうになった。
「う...うれじぃ...うぅ...。ありがと...京香...」
私は両手を広げて待つ。
それを見ておそるおそる近付いてくる優里を両手いっぱいに抱きしめる。
涙目どころか完全に泣いてしまっていたけれど、そういう時は私の胸の中だ。先日の経験が早くも活きた。
「優里に似合う色、喜んでくれると良いなぁと思って選んだよ。気に入ってくれた?」
胸の中に収まる優里の頭頂部に問いかけると、「ゔん...ぐすっ...」と返してくれた。
良かった、気に入ってくれたみたい。
唯一無二の、大好きな幼馴染で親友。
いつか二人で温泉旅行とかにも行ってみたい。
新しい車の初めての座席。
まだまだここに思い出はないけれど、これから先何十年、一緒にこの車で思い出を作っていけたら良いな。
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