第27話 幼馴染で親友は誕生日(前編)


 二十本のロウソクの明かりが消え、部屋の電気を点ける。

 月曜日、私は優里の実家であり私の家の隣にある岸宮家にお邪魔していた。

 机の上に広げられた豪華な食事達は全て優里パパの用意したもので、愛情こもった手作りだ。


「ハッピーバースデー優里!京香ちゃんの時も思ったけど、あんなに小さかった子がもう二十歳になるんだね...うぅ」


 そう言って涙を浮かべる優里パパ。

 優里パパは娘を溺愛する一般のサラリーマンさんだが、普段の言動やリアクションが大きくて可愛らしいおじさんだ。

 反対に優里ママは優里と似てカッコいいタイプの女性で、基本あまり喋らない。

 それでもここぞという時には必ず助けてくれる最強の女社長さんで、今はよくあるパーティーグッズの鼻付き眼鏡をかけている。お茶目だ。


「パ...お父さん泣くことないでしょ、恥ずかしいよ」

「うわぁ〜もうパパって呼んでくれないんだぁ〜」


 机に突っ伏して泣く優里パパ。優里は困ったように「泣かないでよー」と言っている。

 でも私の角度からは見えている。優里パパの笑っている口元が。

 おそらくパパと呼んでくれないけれどお父さんと呼んで貰うことには成功しているからだろう。

 年頃の女の子は恥ずかしがって父親をしっかりと呼ばないことも多い中、パパ呼びを恥ずかしがると先読みしてお父さん呼びを仕込んでいた頭脳プレーだ。


「優里、これ誕生日プレゼント、おめでとう」


 ぶっきらぼうに言う優里ママだが、鼻付き眼鏡のせいでふざけているようにしか見えない。

 私も含む三人は優里ママの不器用さを知っているので、娘を精一杯祝いたいという気持ちの表れだと理解している。


「ありがとう、ママ!開けていい?」


 優里ママが頷いたことを確認し、袋の中身を取り出す優里。

 優里パパが「ママ呼びはそのままなの!?」と嘆いているがスルーされている。

 綺麗な包装を丁寧に開けていく優里を見ながら、私は内心ビクビクしていた。

 事前にプレゼントの打ち合わせなどをしていなかったので、もしかしたらネックレスが被っているかもしれない。

 優里が全ての包装を取り、箱を開ける。

 そこには鍵が入っていた。


「わー!ありがとうー!って、ん?何の鍵?」

「車」


 そう言って玄関を指差す優里ママ。

 来る時に新しい車でも買ったのかなかと思っていたが、プレゼントだったらしい。

 とりあえずプレゼント被りはなかったので安心する。


「えー?でも私免許持ってないよ?」


 優里が尋ねるが、「分かってる」と答える優里ママは続けて、


「教習所の料金支払っておいた。京香ちゃんのも。二人でゆっくり通って、免許が取れたら、二人で乗ると良い」


 なんと免許のない優里のために教習所の料金を払っておいてくれたらしい。しかも私の分まで。

 実の娘と同様の扱いをしてくれる優里ママの優しさに心が温かくなる。

 教習所の料金は少額ではないので申し訳なくなるけれど、そう態度にした所で優里ママは喜ばない。

 だからとびっきりの笑顔で、甘えることにする。


「優里ママ、ありがとう!免許取れたら、優里と一緒に一番に乗せますね!」

「いいねそれ!ママ、ありがと!京香と一緒にしてくれて」


 私と優里がそれぞれお礼を言うと、優里ママは満足そうに頷いた。鼻付き眼鏡のせいでまたふざけているようにしか見えないが。


 後で車を見に行こうということになり優里が鍵を箱に戻す。

 次は私かな、と思っていると優里パパが口を開いた。


「パパからのプレゼントは、優里が望むことを一つ何でも叶えてあげるというものだ!はっはっは、何でも良いぞー!」


 私の誕生日の時は優里ママとパパからスマートフォンをプレゼントされ、優里パパが他にもあったら何でも言って良いぞ、と言ってくれたので一週間豪華なディナーをリクエストした。

 優里パパは料理の腕前がプロレベルなのでとても嬉しかったことを覚えている。


「ありがとうパ...お父さん。お願いは...えっと...ここでは言えないから後で言う」


 チラチラ私を見ながら言う優里。

 私がいると言えないお願いかぁ、でもきっと優里のことだから私にとって悪い話ではないのだろう。信頼している。


 後で、ということを了解した優里パパ。

 プレゼントを渡していないのは一人になり、私は持ってきた紙袋に手をかける。


「きょ、京香もプレゼントくれるなら後がいい...!貰う側の分際でごめんだけど...」


 そう優里に言われ手を止める。


「いいけど、そんなにハードル上げるものじゃないよ?」

「ん...えっと...色々準備があるから...!...心の」


 最後の方ボソボソ言う優里だけど、私が優里の声を聞き逃すわけもないので心の準備があるということが分かった。

 んー、それにしてもそこまで期待されると喜んでくれるか不安になってきた。

 優里の姿を思い浮かべて、一番似合いそうなネックレスを買ってきたつもりだけれど。


「分かった、後でね〜。それじゃあ皆さん、せっかく優里パパが作ったご馳走なので、冷めないうちに食べますか!」


 そう言って皆で手を合わせる。

 岸宮家にお邪魔している立場にも関わらず、全員集まった時のいただきますの合図はいつも私だ。

 それだけで一員として迎え入れてもらえているようで嬉しくなる。


 いただきます、と各々好きな料理に手を伸ばす。


 とりあえず、優里ママはその眼鏡を外した方がいいんじゃないかなぁ。

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