第24話 幼馴染で親友は面接


 開口一番かましていくというのは、オーディションでの作戦の一つだ。

 アイドル界のてっぺんと、特攻服にちなんだてっぺん。

 分かりやすいセールスポイントを最初に植え付けておく。

 実際に面接官達は少し驚いたようで、インパクトを残すことには成功したみたいだ。

 唯一の女性面接官りくちゃんは手を叩いて「わー!!」と言っている。可愛い。


 三人の男性のうち、進行を担当する人がいるようで、メガネをかけた若めの男性におかけ下さいと案内される。

 失礼します、と声をかけ椅子に座ると質問タイムが始まった。


「姫野さんはどのような理由で弊社の事務所に応募しましたか?簡単に言うと志望動機ですね」


 志望動機。面接では必ずと言っていいほど聞かれる質問のため、この答えは事前に考えてある。


「はい。私は以前アイドルをしており、我ながら高い人気を得てアイドル界のてっぺんを見たつもりです。引退してから特にやることもなく、友人と大学に行って週に二、三回ダンスやカラオケをする、そんな日々でした」


 頭の中のメモ帳をなぞる様に、言葉を紡いでいく。


「しかしある時その友人がvtuberとして配信していることを偶然知ってしまい、そこで御社のライブスターズを初めて耳にしましたが、バーチャルアイドルというグループという響きに同じアイドルだった者として惹かれました」


 面接官の人達は真剣に話を聞いてくれている。

 全員とゆっくり目を合わせながら話を続ける。


「中でも受けようと思った一番の決め手は、りくのかねさんを見たからです。彼女のプロフェッショナルなアイドルとしての振る舞いを見て、私もこの人の隣に立ちたいと今まで味わったことのない気持ちになりました。ですから次の日にすぐ応募させて頂いたという流れです」


 本人であるりくちゃんを見ると、ニコニコとしていて嬉しそうだ。癒される。


「なるほど...ありがとうございます。ちなみにご友人というのは弊社所属のプリンセス・ナイトでお間違いなかったですか?」

「はい、間違いないです。でも本人にはvtuberをしていて私の話をしていることを知っていると伝えていないので、ご縁を頂きましたらプリンセス・ナイトの魅力を今以上に引き出すサプライズコラボなども検討しております」


 どうやら優里が私の話を面接でしたというのは本当のことらしい。

 優里の知り合いじゃない、と下手に隠してオーディションに関する不正を疑われるのは嫌なので、素直に話していく。

 

「やはりそうなんですね。その件に関して後ほど確認もありますが、とりあえず今話題にあがったことで質問させて頂きます。ライブスターズに入ったらどんな配信がしたいですか?」


 どんな配信、か。

 思えばバーチャルアイドルになりたいという思いが先行して、肝心の配信内容に関して深く考えていなかった様な気がする。

 ただ、答えは案外すぐに出てきたので思ったままを答えた。


「配信...そうですね。私のアイドル時代はファンとの交流と呼べるものが握手会しかなくて、それも一人一回十秒だけという短いものでしたから、もっと長くお喋りしたいとは常々思っていました。リスナーの方から質問や悩みを聞いて、それに関するお話を沢山したいです。ただ、根っこの部分はアイドルなので、いつか3Dの体を頂けたらさらに本気の姫野京香をお見せできると思います」

「なるほど、雑談をメインにやっていくということですね。ちなみにゲームとかは得意ですか?」

「ゲームはほとんどしたことないので多分下手かもしれませんけど、ゲーム下手というジャンルに需要があるのなら挑戦していきたいです」



 そのあとは、週何回配信できますか?や、他言語を話せますか?などの確認質問が繰り返された。

 司会担当の男性はあらかた質問を終えたようで、他三人に質問を振る。

 端に座ったりくちゃんの手が挙がった。


「はい!!歌ってみたとかやってください!!」


 質問ではなく願望だったが、勿論やりますと伝えたら両手を上にしてわーいとはしゃいでいる。可愛い。


 そのまま他の質問を待っていると、面接官のうち一人でぽっちゃりスキンヘッドの男性が手を挙げる。


「アイドルグループという職業柄、本気で恋をしてしまうガチ恋勢というのがいるんですけれど、アイドルをやっていた姫野さんならどんなふうに対応しますか?」


 ガチ恋勢、アイドル時代にも少なからずそういった人たちはいた。しかしこれも簡単なことだ。


「ガチ恋勢もそうでない人も、全部まとめて受け入れてこそアイドルだと、私は思います。もしマナーの悪い方々がいるのなら、しっかりと配信内で教えるつもりです。どうすればみんな幸せに配信できるか、について。なので対応という質問の答えは、受け入れて手放さない、になりますね」


 おー、という顔をするスキンヘッドの男性。

 なかなかのインパクトは残せたみたいだ。


 最後に一人、最もオーラがない様に見える普通の見た目をした男性が話し始めた。


「実を言うと、vtuber業界は前世バレというものが存在していてね。特にウチは大手vtuber事務所だからバレていくのも早い。かつて何らかの活動をしていた人が主にバレるけれど、君の場合あまりにも有名だおそらくデビュー初日にバレるだろう。だからすまないが、その覚悟はあるかい?」


 なるほど、そういうものらしい。だけどこれも、簡単だ。


「私はこれまでの人生で恥じるべき瞬間なんて一度もありませんでしたから、バレても全然構いません。むしろ可愛いと言って人気が出るかもしれませんね!」


 ははは、と見た目が普通の男性が笑い出す。急にどうしたんだろうと見ていると、「実は...」と話し始めた。


「もう最終面接に参加している三人は全員合格が決まっていてね。最後にやる気だけ聞きたかったんだ。ありがとう、これから我々と共にvtuber業界を盛り上げよう」



 そうして差し出された手を掴む。

 握手をして頷きあう私たち。

 思っていたよりあっさりと、私がvtuberになることが決まった。

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