第23話 幼馴染で親友は待ってる
「ちょっと、遅くない?真面目にやってんの?」
騎士の女の子が言う。
「ふん!やってるわよ!別にサボってアンタに迷惑かけた方が面白そうなんて思ってないんだから!」
盗賊の女の子が返す。
「ガキが。切り刻んでやる」
「ひぃい!?」
土曜日の朝、ライブスターズ加入の最終面接を午後に控えた私は、仲が良くないのに時々コラボするツンデレ二人として有名なナイトメアの配信を見ていた。
このコラボは昨夜の配信だが、私は早めに寝てしまっていたので今見ている訳だ。
画面上では二人の女の子が家や公園の泥を磨いており、仲良く言い争う様子が映し出されている。
配信を見ながら化粧を
一時停止をしてUtubeを閉じる。
さぁ、最終面接も楽しもう。
電車に乗りやって来たのは高層ビルの立ち並ぶ、いつも通っているダンススタジオのある駅だ。
二次審査の面接の時にも思ったが、この駅に住んでいるメアちゃんは事務所での用事などがあれば便利なことだろう。
改札を抜け、普段は右折するコンビニのある角を曲がらずに直進する。
そのまましばらく進むと一際大きなビルが見えてきた。今回の目的地だ。
エントランスに立つ警備員さんに会釈し、中へと入る。
受付に座る女性に話を通して奥へ進む。
スーツを着た人やカジュアルな服装の人、多くの人が行き交うビルのエレベーターに乗り込んだ。
このビルの七階、そこがライブスターズの事務所であり最終面接の場である。
途中、三階から乗って来た清掃員の格好をした男性と軽く談笑する。
アイドル時代、事務所の面接に行ったらそこの清掃員が社長だった。という話も聞いたことがあるし、家を出た瞬間からアイドル、というのが私のポリシーだ。
結局、本当に清掃員だったらしく、楽しくお喋りをして終わったが、「面接頑張って」と言ってくれた。
役員面接ということで自分でも気付かないうちに緊張していたのだろう、その一言で心が明るくなるのを感じる。
七階に到着しエレベーターが閉まるまで手を振って別れた。
ここから先は自分をどれだけ魅力的に見せられるかどうかの勝負だ。見せつけてやろう。アイドル、姫野京香の本気を。
七階の女子トイレに入り、勝負服である特攻服へと武装を変える。これだけで戦闘力が少し上がった気分だ。
トイレを出て事務所の前に立ち、ドアの持ち手に手をかける。
厚さ五センチの扉も、翼が生えた様に軽く感じた。
「姫野京香です!よろしくお願いします!」
中に入ると、出来るオーラを身に纏ったスーツ姿の女性が出迎えてくれる。
前回の面接でも見た合否の連絡を担当していた人だ。
「姫野さん、ようこそ来てくださいました。今日は役員による面接ですが、この間のように思い切りやって頂けたら大丈夫だと思います。頑張ってくださいね」
「はい!ありがとうございます!頑張ります!」
そう言ってとびきりの笑顔を彼女にプレゼントすると、眼鏡の奥が一瞬怯んだように見え、少し頬が赤くなった。
私は可愛い。私は最強だ。オーディション前の気持ちのあり方なんて、これしか知らない。
会議室の前の椅子に案内され、少し待つように言われる。
誰かが面接を受けているのか、中から小さく声が聞こえるけれど何を話しているのかまでは分からない。
隣には全身黒のジャージを着た気弱そうな黒髪の女の子がブツブツと何かを呟きながら順番を待っている。
「こんにちは!あなたも面接ですか?」
見た限り、今面接を受けている子と、この子の次に面接があるようなのでまだ時間はありそうだ。
声をかけた女の子は私を見て驚いたようで目を丸くしている。
「そ、そうだけど。ひ、姫野京香もいるならボクなんて受かるわけないよ...へへへ、一瞬でも期待したボクがバカだったんだ」
ボク、と自分を呼ぶ女の子は自重気味に笑い、上を見上げた。
その目は完全にイってしまっていて、面接が始まってもいないのにどこかへ旅立ってしまいそうな様子だ。
「ここまで来たっていうことは私達には魅力があるっていうことだよ!もちろんあなたにも!それを見せつけてやろうよ!ね?頑張ろ?」
沈んだ様子の女の子の頭に手を乗せて、撫でてみる。
笑顔で勇気付けていると、「ふぉお...」と言いながら目を細めて私を見た。
「ひ、光だぁ...私はここで死ぬんだぁ...」
ふふ、この子面白いなぁ。
最終面接に来ているということは、二人とも受かれば同期ということになるんだろうか?
もしこの子が同期ならとっても楽しくなると思う。
名前を聞くと「
頭を撫でる度に見せてくれる浄化中のような反応を楽しんでいると、会議室のドアが開いた。
「それじゃあ失礼しまーす!」
中にいるであろう役員の人達に対しても軽く元気な挨拶をしてドアを閉める女の子は、派手な金の髪を揺らしながら私に目を向ける。
「あ!姫野京香じゃん!」
明るい雰囲気のまま近寄ってくるその子の耳にはいくつものピアスが付いており、とても面接に来たとは思えないほど露出度の高い短いスカートで私の前にしゃがむ。
「その服イカしてるね!可愛い!」
そう言われて自分の服装を思い返してみると、特攻服だった。面接に来たと思えない服装をしているのは私もか。
「うん!やっぱり気合い入れないとなぁ、と思ってね!あなたの服もイカしてて可愛いよ!」
でしょー?嬉しいー!と喜ぶ彼女は、世間一般にはギャルと呼ばれる人なんだろう。
私のことを光だと言い浄化されかけていた冴子ちゃんはどんな反応なのかなと見てみると、真っ白な灰になっていた。
未来の同期二人は全く対称的らしい。
そのまま会議室に案内されて中に入る冴子ちゃんの背中に「頑張れー」とエールを送る。
「京香は面接何回目ー?ウチ結構多かったんだけどー」
いつのまにか下の名前で私を呼ぶ派手な女の子に顔を戻すと、しゃがんでいるせいで白い布がスカートの奥に見えてしまっていた。
「私はこれが二回目だけど...えっと、パンツ見えちゃってるよ?」
「えー!さっすが京香じゃん!やっぱり元トップアイドルは違うね!あ、パンツは見せてるから大丈夫〜」
パンツは見せているから大丈夫らしい。大丈夫というなら大丈夫な気がしなくもない。
私の知らない常識だったけれど、この子の明るい性格は本質的にりくちゃんに似ているなぁと思った。
りくちゃんはパンツ見せないけど。
結局私の番になるまで二人でお喋りしていた。
名前を聞くと「海って書いてオーシャンだよ〜、オーちゃんか、
キラキラネームというやつらしい。でも海ちゃんの雰囲気に合った素敵な名前だと思う。
へへへ、と壊れたように笑う冴子ちゃんと入れ替わるように呼ばれたので、会議室へ向かう。
頑張って、と二人からエールを貰い、ノックする。
「どうぞ」と声がかかったのでドアを開けると、偉いんだろうなと分かるオーラを持った男性が三人と、その横に素敵な女性が一人、りくちゃんがいた。
そっか、確かに創設当時からいるんだからおかしくないかも。
大きく息を吸い、口を開く。
「よろしくお願いします、姫野京香です!てっぺん取りに来ました!」
私の戦いが始まった。
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