第22話 幼馴染で大切な人はズルい
期待、しても良いのだろうか。
溢れる感情を抑えられず泣いてしまってから十分は経っている。
その間ずっと頭を撫でていてくれる京香の胸の上で、私は冷静になっていた。
普段の私ならこの状況に発狂し、焦りと羞恥心でおかしくなっていただろう。
でも今は、この温かな場所から離れたくない。
私は、姫野京香が好きだ。
一度認めてしまえば案外気楽なもので、あくまで友人としての好きという
恋だとか愛だとか、世界にはこの気持ちを表す言葉が沢山溢れているけれど、私の場合「欲しい」だった。
その声も、笑顔も、身体も、優しさも、全部私のものにしたい。
幼馴染に欲情してしまった私を、京香は許してくれた。
そんなの、期待してしまうじゃないか。
期待させたくないのなら「優里ならいい」なんて言わないで。
でも言ったのなら責任を取って。
脳内を駆け巡るワガママ達が、声になって飛び出そうとするのを必死で抑える。
それでも、これまで我慢してきた少しの接触くらいは許されて良いはずだ。
京香の背中に手を回して、胸の柔らかな感触を頬で堪能する。
私なら良いって言ったのは京香だから。
うんうん、京香が悪い。
「ふふ、優里のえっちー」
「っ!?...うっ...ご、ごめ...」
「謝らないの。別に怒ってるわけじゃないからね。ただちょっと...くすぐったいなぁって。あはは、照れ隠しみたいな感じだよ」
開き直って変態な行動をした私はやっぱり馬鹿で、それを笑顔で許してくれる京香もやっぱり優しかった。
「あ、良いこと思いついた!優里がして欲しい事何でもしてあげる代わりに、私がして欲しい事してくれる?どう?良いアイディアでしょ!」
そう言って笑う京香は
「ん、分かった。先に京香が私にして欲しい事言っていいよ。それで私も決めるから」
「やったー!あ、ちなみにお願いを聞いてから怒ったり笑ったりするの禁止ね?いい?約束だよ?」
念押ししてくる様子を見る限り、かなり飛ばしたお願いでもするのだろうか。「分かった、約束」と返して次の言葉を待つ。
「えっとー、ちょっと恥ずかしいけど、今日もちろん一緒に寝るでしょ?その時に、腕枕して欲しいなぁ、なんて思ったり...したんだけど...だ、だめかなぁ」
どんどんと弱気になっていく姿はとても可愛らしいけれど、正直不安に思う理由が全く分からない。
むしろ私の方がご褒美かのような提案だが、ここですぐに許可すると「がっついてるね」と笑われそうなので冷静に、と一呼吸入れて返す。
「そうだねー、でも最近少しずつ暑くなってきてるからなぁ」
「あ、無理そうなら大丈夫だよ?他のでも全ぜ...」
「うそうそ!無理じゃない!やる!」
がっついてしまった。
京香は食い気味にやると言った私に少し驚いていたが、すぐに「やったー」と嬉しそうに笑う。
「私のは寝る時でいいから、優里の番だね」
「んー、そうだねぇ...」
何にしよう、全く考えていなかった。
肩揉みは別に要らないし、子守唄は京香が先に寝ちゃうだろうし。
悩む頭とは反対に、私の目線は欲望に忠実で、京香の身体の一点だけを見つめている。
「膝枕...とか、いいかな?」
本当は前からずっと気になっていた。
もこもこで可愛いルームウェアを身に纏った京香の、ショートパンツから伸びている白い足。
今日、お風呂場で挟まれたことにより実証されたその柔らかな太ももの上で、寝転んでしまいたい。
「膝枕?そんなのいつでもお安いご用だよ。ほら、おいで」
そう言って自分の太ももをポンポンと叩く京香。
たったそれだけでも美味しそうに揺れる太ももの引力に負け寝転ぶと、私の頭の左側から幸せを感じた。
それからうつぶせ、右側、後頭部、と順に幸せを味わうと、最終的に顔を京香のおへそに向ける顔の右側幸せスタイルで落ち着く。
目の前には京香がいて、京香の匂いがする。
配信で時々『海外でも国内でも、将来どこに住みたいとかある?」と聞かれることがある。
私はこれから先「京香の太ももです」と答えよう。一生ここで暮らしていたいくらいだ。
「なんだか優里のお姉ちゃんになったみたいだよ」
私の髪を撫でながら、京香が言う。
本当はお姉ちゃんじゃなくてその先の...とは思うけど、今はお姉ちゃんでもいいや。そう思わせてくるほどの魔性の魅力がこの太ももにはあった。
三十分ほど前の私とは比べようもない程に大胆になったなぁ、と思う。
膝枕中に京香に耳かきもしてもらって、大、大、大満足だ。
どうして大胆になったかと言えば京香の「優里ならいい」発言のせいであり、そこから吹っ切れた。
私はもう京香との肉体的接触一つでビクビクすることもないし、多少のハプニングがあっても堂々としていられるだろう。
至福の膝枕タイムが終了して歯も磨き終わり後は寝るだけ、という今現在。
私の胸に飛び込んできて顔を
履いているスリッパが脱げそうで転んでしまったらしく、胸の間に挟まった顔の両横、私の胸にしっかりと両手が乗せられている。
いわゆるラッキースケベというやつだろうか。
京香もさすがに少し恥ずかしかったのか、離れ際に「あはは...恥ずかしいなぁ」と顔を赤くしていた。
その顔を見れた私の方がラッキーだ。
ベッドに入り、京香の頭を腕に乗せて目を閉じる。
今日は色々あったからか少し疲れているみたいで、目を開けようとしてもすぐにまた閉じてしまう。
「ふふ、おやすみ優里」
京香の優しい声と、頬に触れた柔らかい感触を感じながら、私は眠りについた。
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