第19話 幼馴染で親友はココア


 お揃いの白いマグカップにココアを入れて一息つく。

 向かいに座る優里はまだソワソワと落ち着かない様子だ。


 そんな親友の姿を見て、いつからこんな感じだったかなぁと思い返してみる。

 中学生の時まではあくまでも一番仲のいい友達として接していた。

 もちろん生まれた時からの幼馴染だから他の子にとっての友達と比べると距離は近かったけれど、それ以上でもそれ以下でもなかった気がする。

 高校は忙しくなったアイドル活動を優先しなくてはならなかった為、芸能コースのある学校に進学したが、優里もそこに着いてきてくれて時間が足りない勉強面でも沢山力になってくれた。

 多分、母親を亡くし泣いていた高校三年生の夏が、優里を一番の友達ではなく唯一無二の親友にしたんだろう。

 優しく、それでいて力強く包み込んでくれ暖かさを感じ、これから先何があってもこの人と幼馴染として生まれた縁は切っちゃいけない。そう思った。

 

 私の方はそんな感じで、問題の優里の様子が変わった時期だけど、これも同時期だった気がする。

 私が親友として今まで以上にベッタリと引っ付くようになったからなのか顔が赤くなることが増え、元々大きかった優里の胸も一段と大きくなっていった。

 これは関係ないか。


 胸で思いついたけど、優里を甘やかそう作戦で一緒にお風呂に入るのはどうだろう。

 少し落ち着きを取り戻しココアをすすっている優里に提案してみる。


「優里ってさ。時々髪の毛洗うの面倒くさいなぁって思う時ある?」

「ん?どうしたの急に。でもそうだね、疲れてる時は面倒くさいなぁと思うよ?髪の毛は短いから割と楽な方ではあるけど」


 確かに私が十分以上かけて乾かす髪も、優里なら五分程度で乾いてしまう。


「うんうん、そりゃそうだ。ちなみに今日は疲れてる?」

「えーどうだろう?そんなに疲れていないというか…京香が来てくれて疲れが吹き飛んだというか…」


 最後の方はゴニョゴニョと話していたので聞き取りづらかったが、耳はかなり良いので聞き逃さない。


「私に会えて嬉しかったんだ?優里は可愛いね」

「んなぁっ!聞こえてたの!?そ、そうだよ普通に嬉しかったよ悪い?別に普通だよ!本当普通だから!か、可愛いって…というか京香の方が可愛いでしょ!」


 普通普通、とやたら普通を強調してくることで逆にやましい気持ちを疑ってしまう。

 そのまんま言う通り普通のことなのに。

 毎度のように可愛いの言葉に過剰に反応してくれる優里をスルーして決定を下した。


「ふふ、今日は優里の髪の毛と体は私が洗うからね!もう決まったことだから!」

「っ!?な、何言ってるの!?それってつまり…い、一緒に…」

「うん、一緒にお風呂入ろ?」

「だ、ダメだよそれは!まずいですよ京香さん!?」


 慌てすぎて敬語になっている優里。

 女の親友同士、一緒にお風呂くらい何もおかしくないと思うけど。


「ダメじゃないよー?まずくないのです優里さん。これこそ普通だよ普通」

「えぇぇ!?だってそんなの…!良いのかな…?いやダメでしょ!でもせっかくのチャンスだし…いやいや、まずいって!」


 心の中の悪魔と天使が心の外に飛び出してしまっているみたいで、優里の考えていることが丸わかりになっている。こういうところがお茶目で可愛いのだ、私の親友は。


「もう決めたもーん、ほらほら早くお湯ためよう?中に入るまで見ないであげるからさ!」

「わ、私の裸なんてどうでも良いよ!で、でも京香のは…なんだかダメじゃない?」


 まだごちゃごちゃと優里が言っているので、無視してリビングに取り付けられている給湯器のリモコンを操作してお風呂を沸かし始める。

 高級マンションだけあり、湯船の栓を自動で開閉してくれるので楽チンだ。


「優里、今日は覚悟してって言ったよね?まだまだ序の口だよ?」

「か、覚悟ってこういうこと!?しかも序の口なの!?」


 お湯が沸くのを待っている間に、持ってきた化粧水などの小物を洗面台に持っていく。

 その間も「本気?考え直さない?」と優里が言ってくるので「本気。考え直さない」と返しておいた。

 配信でよく言っている「好き」というものがどういう種類かはまだハッキリとは分かっていない。なんとなく、伝わるものはあるけれど。

 それでも今日は一緒に入るのだ。

 せっかくのお泊まり会でお風呂が別々だと勿体無いと感じてしまう私は変なのだろうか?

 いや、変じゃない。うんうん、普通普通。


 スマホを充電器に挿したり、先に枕をベッドに置いて寝る準備をしたりしているうちに「お風呂が沸きました♪」という声が聞こえてきた。


「さぁ優里。観念しな?先に私が入ると優里入ってこなさそうだから優里が先ね?もし嫌なら同時に入るってもいいけど」

「んんーっ!わ、わかった!さ、先に入る!それから!えっと…な、何があっても怒らないでよ!?」


 そう言ってバタバタと脱衣所へ向かう優里。

 すぐにお風呂場のドアが開く音がしたので準備は整ったようだ。

 私も脱衣所へ向かう。


 着ていた洋服を脱ぎ、いつものように洗濯カゴに入れていく。

 私の体はこの間全て見せたばかりだが、優里のは中学校のプールの授業で見た以来だ。

 一緒にお風呂に入れる喜びと、少しばかりのイタズラ心。

 浮かれた気分に飲まれるように、最後の布を取りお風呂場のドアノブに手をかける。


 さて、優里はどんな反応をしてくれるかな?

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