第15話 幼馴染で親友は甘えん坊
ディナーを楽しんでいると、良い時間になっていたので会計をしてお店を出る。
小一時間程度話していたらメアリーちゃんも慣れてきたのか結構深入りした話もした。
メアリーちゃんはあんまり友達もおらず、ディナーと呼べるものにも家族と以外ほとんど経験がなかったらしい。
友達と来た時の会計が分からなかったのか「ここは私が払ってあげるわ!」なんて可愛らしいことを言っていたので、優里に押さえつけてもらってその間に払っておいた。
年下に奢られる年上二人はなんとも言えないので勘弁してもらおう。
メアリーちゃんは奢られた経験もないのでオドオドしていたけれど、優里と二人で頭を撫でていたら怒りだしたので離してあげる。
口では文句を言っているけれど顔が嬉しさを隠し切れていないので可愛いだけだ。
「そういえばメアリーちゃんは駅どこ?あ、もし秘密だったら言わなくても大丈夫だからね?」
ナンパをされていたらしいので送って行こうと思い、そう聞く。
「駅どこって…ここだけど」
「ここって…ここ?」
「そう、ここ。歩いて十分くらい」
高層ビルが並ぶ一等地のはずだけど、当たり前のようにメアリーちゃんが言うのでむしろ私が変なのかと思ってしまう。
「なんだ、じゃあわざわざ連れてこなくても良かったのか」
「だから別にいいって言ってるのにアンタが連れて来たんでしょ!」
優里がそう言うと、メアリーちゃんが怒りだす。
「ははは、ごめんごめん。でもメアと…じゃなくてメアリーと一緒に食事できたのは普通に楽しかったよ」
「ふ、ふん!…ふんだ!」
ふんふん言ってるメアリーちゃんは可愛いけれど、さらりとイケメンムーブする優里も可愛い。
可愛いがたくさんだ。
「私もメアリーちゃんと一緒できて楽しかったよ!また絶対お食事会しようね?あ、あと連絡先交換しよ?」
悩むメアリーちゃんにダメ…?とあざとくお願いすると、うぅ…と唸りながらスマホを出してくれたのでどうやら了承してくれたみたい。
メッセージアプリに登録された名前には、メア(連絡用)と書かれていた。がっつりお仕事用のやつでは…。
「この、メア(連絡用)っていうやつで良いんだよね?登録して良い?」
「お、おいおい、メアリーちゃん…あだ名で登録しているのかなぁ〜?あはははははは」
プライベート用と間違えちゃったかもしれないと一応聞いてみる。
隣で優里が焦っているけど、そもそも演技が得意じゃないのでぎこちない。
というより、お店で話している時から何度もメアちゃんって呼んでた。うん、お茶目。
「うん、それでいい…別に、メッセージ来る友達とかいないし…」
多分このアカウントしかないのだろう。なんだか寂しそうな顔なので頭を撫でておく。
「じゃあ私が沢山メッセージ送っても良い?良いよね?嫌って言っても送るから…!あとメアリーちゃんはあだ名がメアちゃんなんだよね?じゃあ私もメアちゃんって呼ぶね!」
「べ、べつにいいけど…!」
勢いよく話すと許可してもらえた。
メアちゃんと呼ぶことに優里が苦い顔をしているけれど、まぁあだ名がメアということを教えてしまった優里も悪いということで。
また口元がニマニマとしているメアちゃんの顔を見て、沢山メッセージ送りつけたい欲に駆られていると、メアちゃんが不意に立ち止まる。
「私の家、ここ」
メアちゃんが止まった前にあるのは20階以上はあるであろう通称タワマン。
優里の家のマンションも高級感で満たされていたけれど、このタワマンは無駄な外装を削ぎ落とし、高さ重視で展望重視のシンプルな造りだ。
人気のライブスターズの中でもさらにトップクラスで人気のメアちゃんと考えると、確かにおかしくないかもしれない。
目の前の可愛い女の子がタワマンと考えると違和感を感じてしまうけど。
「大っきいね…。そういえば急に夕ご飯食べることになっちゃったけど、お家の人には連絡しておいた?今更だけど」
「…?どうしてよ?」
「え?だって…もしかして一人暮らしだったりする?」
「当然でしょ?べ、別にいつでも友達呼べるように一人暮らししてる訳じゃないから!」
…うん、凄すぎてよく分からないけど今度遊びに来よう。
メアちゃんなら文句言いつつもなんだかんだ家に入れてくれるはずだ。
「メアちゃん、寂しいんなら素直に言ってみなよ。お姉さん達が遊びに行ってあげるよ〜?」
「なっ!?だ、誰が寂しがってるって!?ふん!別にアンタは来なくていいわよ!」
私が言わないでおいたことをあえて言って煽る優里と、案の定怒るメアちゃん。
この二人は一生こうして仲良くしていて欲しいな。
ナイトメアというのは悪夢のことだけど、この二人を見ていても幸せにしかならない気がする。
「優里はダメってことは私はいいんだ?」
「べ、別にいいけど…」
私もこんなやりとりしてみたいなぁ、と思ってニヤニヤしながら言ったけど、メアちゃんは素直に受け入れてくれた。うん、びっくりしたけど嬉しい。
「ちょっと!京香に媚び売ってるんじゃない?」
「な、何よアンタ!別に売ってないわよ!た、ただ純粋な友達として…」
私だけ許可されたことでまた始まるナイトメア。
いっそのこと一緒に住んでしまえ。
こんな風にファンの皆も思っているんだろう、私にもわかる気がした。
そんなこんなでメアちゃんと別れ、今は優里と電車の中。
私と優里は今は駅が違うので途中でバイバイする流れだが、さっきまで威勢よくメアちゃんと仲良し喧嘩をしていた人と同じとは思えないくらいソワソワしているので、聞いてみる。
「優里、どうしたの?お手洗い?」
「なっ!?ち、違うよ!いやぁ、なんというか…うーん…なんと言いましょうかねぇ…」
「うんうん、なんと言いましょう…」
お手洗いではないみたいだけど、なんだか歯切れが悪い。
何か相談事でもあるのだろうか?私に解決できることならしたいし、解決できないことでも話くらいなら聞いてあげたいと思うけど。
しばらくの間もじもじ優里を眺めていると、意を決したのか優里がこちらを向く。
「…お願いします」
そう言って頭をこちらに向ける優里。
一瞬意味がわからなかったけど、手は反射的に頭を撫でていた。
「…ん…もうちょっと…」
どうやら正解だったらしく、もっともっと、とせがまれる。
今日はメアちゃんといい優里といい、沢山頭を撫でた気がする。
ひょっとして私がメアちゃんの頭を撫で過ぎたせいでヤキモチでも妬いていたのだろうか。
流石にそんな事はないだろうと思い直し、撫でている手に触れるサラサラの髪の毛を見る。
優里の気持ちについて色々分からないところはあるけれど、今はただこの滑らかな感触を楽しんでいよう。そう思った。
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