第13話 幼馴染で大切な人は天使
ライブが終わり、後日打ち上げをしようということで解散した。
先ほど連絡したところ、京香は駅から少し外れたところにあるカフェにいるとのことだったので、急いで向かう。
店の中とは言うが、少し遅くなってしまったのでナンパが心配だ。京香は可愛すぎるから。
この交差点を渡ればすぐに目的のカフェだ。
信号に捕まる時間さえもどかしくて思わず足踏みしていると、後ろの方から声が聞こえてきた。
「お嬢ちゃん可愛いね。今からお茶でもしようよ」
「な、なによアンタ!嫌に決まってるでしょ?今から帰るところなんだけど!」
「まぁまぁそう言わずにさぁ?」
どうやらちょうど心配していたナンパらしい。相手は京香じゃないけど。
というかあの子…。
「ごめんねお兄さん、この子私と待ち合わせしててさ。可愛いのは分かるけど、引いてくれると嬉しいな?」
ナンパされている女の子を見た瞬間、思わず間に入って止めていた。
「けっ、めんどくせぇな。可愛くねぇやつに興味ねぇよ」
男は最低な捨て台詞を吐きながらどこかへ行った。
「酷いね、可愛くないって言われてるよ…?メアちゃん」
ナンパをされていた生意気顔の可愛い女の子、メアちゃんに振り向きながら言う。
「私が可愛くないわけないでしょ!!とりあえず…あ、ありがと…」
「ん〜?なになに?最後の方聞こえないなぁ〜」
「聞こえてるでしょ!アホ!」
まぁいつも通り元気そうで良かった。
本当は私の方に言ったのは分かってるけど、怖い思いをしただろうからジョークってやつだ。
「それで…どうしてここにいるの?メアちゃん」
駅から少し外れたカフェに向かっている私と、駅にそのまま向かっているはずのメアちゃんが、こんな場所で会うはずはない。
おそらく私をつけてきたのだろう。
「べ、べつに偶然通っただけだから!アンタがニマニマしながら飛び出して行ったから何か弱みを握れるかもしれない。なんて思ってないんだから!」
…この子は一回お仕置きしておこう。
また胸に抱きしめて恥ずかしがらせてやろうと思って近づいたら全力で振り解こうともがいてしまったので、このままだと私の方がナンパ野郎として通報されてしまうと思い離れる。
「まぁいいや。別に友人と会うだけだよ。弱みなんて握れないから早く帰りな?しっしっ」
「ふん!だからアンタについて来た訳じゃないってば!」
そう言って来た道を帰ろうとメアちゃんが歩き出すと、また別のナンパ男が声をかけようと見ていた。
はぁ、しょうがないなぁ。
スマホを取り出して京香にメッセージを送る。
すぐに既読がつき返事を貰ったので、メアちゃんの後を追いかける。
そのまま首根っこを掴むと「ぐぇっ」という声がした気がした。
「ほら、メアちゃん行くよ」
先ほど京香には「本当にごめん。知り合い一人連れて行ってもいい?」と送っておいた。
個人的には京香と二人きりのデートを楽しみたいので嫌だったけど、駅から離れたこの場所からメアちゃんを一人で帰らせるのも心配だし、駅まで送り届けるのもこれ以上京香を待たせたくないから無しだった。
京香は誰にでも優しいし、私との夜ご飯なんて何とも思ってないだろうから許可されるとは思っていた。
それでも「いいよー!」という返事がすぐに来たことに傷付いている私は、いったい何を期待していたんだろう。
京香が「嫌だ、私とのデートでしょ」とでも言ってくれると思っていたのだろうか。
気持ちを知られたくない。
でもやっぱり知ってほしい。
こんな矛盾を抱えている私は、京香の隣には相応しくないのかも…。
溜め息を吐きながら一人で勝手に沈んでいると、私が考えている間もわーわー騒いでいたメアちゃんが、なんだか悪いことをしたと思ったのかしょんぼりしている。
確かにメアちゃんの生意気顔にはお仕置きしたくなるけど、悲しい顔のメアちゃんは嫌いだ。
そっと頭に手を置いて、撫でておく。
子供扱いされていると思った恥ずかしさなのか、また勢いを取り戻してわーわーしだしたので、首を掴んで逃がさないようにしたまま頭を撫で続ける。
うん、怒った顔が似合ってるよメアちゃん。
「アンタ、覚えてなさい…!」
メアちゃんがそんなことを言っているけれど、今から世界一可愛い姫野京香に特別に会わせてあげるんだからむしろ感謝してほしいくらいだ。
「あ、分かってると思うけど友人にはvtuberのこと隠してるから。言ったら切るよ?私たちのことはネット上の友達ってことで。まぁ間違ってないし」
「ふん!誰がアンタと友達よ!」
変わらず減らず口を叩いているけれど、コミュ力お化けの京香と違ってちょっぴり人見知りのメアちゃんなので、知り合いの知り合いと会うという状況に内心は緊張していることだろう。
まぁ後をつけて来た罰だ。甘んじて受け入れてもらおう。というよりご褒美だね。
「あ、優里!こっち、こっち〜!それから...お友達の子だよね?こんばんは、姫野京香って言います。よろしくね?」
「……!……!?……っ!!!!」
手を振る天使の微笑みに、メアちゃんは呼吸を忘れてしまったようだ。
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