第12話 幼馴染で親友はライブ
「こんせいら〜!今日は私の生誕祭に集まってくれてありがとう〜!今日は私だけじゃなくて、三期生の全員がゲストで来てくれるので、皆自己紹介よろしくね〜」
東雲セイラ生誕祭の開幕挨拶は、当然セイラさん。ライブスターズ三期生のリーダーであり、頼れるお姉さんポジションだ。
「エクスプロージョン!東雲姉さんの誕生日に駆けつけた天才魔法使いのスミレです!とりあえずハッピーバースデーの魔法をかけますね!デススピアー!」
「スミレ落ち着いて...それじゃ東雲さんが死んじゃう…。シャーベット・ムーン…世界を救いに来た…よろしく…。東雲さんお誕生日おめでとう…」
初っ端から特大爆破魔法を放つという独特な挨拶を持つ自称天才魔法使いのスミレさん。
毎回何らかの魔法を挨拶代わりに放つが、魔法の規模によってその日の調子を表しているらしい。
エクスプロージョンが出ることは滅多になく、つまり絶好調らしい。
スミレさん曰くそのまま食らうと死んでしまう魔法を放とうとした所、クールビューティーな回復術士のシャーベット・ムーンさんが止めに入る。
ちなみに彼女の配信では特に挨拶は存在せず、突然ゲームをし始める事も少なくないらしい。
しばらくゲームと雑談をしていると突然「こんにちは」と言い出すのだとか。
いつ来るかどうかを待つのも、紳士なマゾのファンには焦らしプレイとして愛されている。
二人にありがとう、とお礼を言っているセイラさんの手を甲冑姿のイケメンが取る。
「東雲姉さん、姉さんが生まれてきてくれて嬉しいよ。それから貴様らもこんぷり。プリンセス・ナイトだ。今日は貴様ら、東雲姉さんを盛大に祝福しろ。さもないと切る」
「ふん!まぁ特別に?超絶可愛いこのメアちゃんが祝ってあげなくもな…い…」
「おい…素直に祝福できない奴は切るぞ…」
「わ、わかってるわよ!ふん…おめでとう…セイラお姉…」
どこぞのイケメンかと問いたくなるカッコいい登場で、リスナーを貴様らと呼ぶ我らがナイトさんと、「ふん!」が挨拶と認知され始めた愛され
メアちゃんは初期からのツンデレキャラがいき過ぎて、只の逆張りキッズとして愛されている。
それでもライブスターズ全体で二番目のチャンネル登録者数を誇り、200万人を越えている。皆、幼い生意気な女の子を愛でることが大好きなようだ。
そんなメアちゃんが最も輝く瞬間が、今のようにナイトさんに分からせられる時らしく、二人のコンビは「ナイトメア」と称され、たまにするコラボ配信では同時視聴数がすごい事になるのだとか。
本人達はお互いを天敵として認識している。騎士と盗賊だからそりゃそうか。
そんな二人を微笑んで見ながらお礼を言うセイラさんから「まずは一曲目!」という声が聞こえ、曲が流れ始める。
三期生の知識は全てりくちゃんの受け売りだ。
私の隣でりくちゃんが一つ一つ丁寧な解説を入れてくれるので、ライブスターズ初心者の私にはありがたい。
当の本人は満面の笑顔で話していて、本当にグループのことが大好きなんだなぁと感じる。
画面に視線を戻すと、楽しそうに踊る三期生全員の姿がある。
三期生のオリジナルソングらしく、それぞれのソロパートでは他の四人が引き立てるように後ろに下がったりしていた。
運動神経抜群で完璧なナイトさんと、指の先までキレがあるムーンさん。
短い手足のせいで、きちんと踊れているのに「可愛いねぇ」という感想しか出ないメアちゃん。
明らかにダンスがワンテンポ遅れているセイラさんと、動きがそもそもおかしなスミレさん。
一人一人の踊りに個性があって見ていて飽きない。
運動神経と引き換えに音感をどこかに置いてきたナイトさんと、歌声にも何故かキレを感じるムーンさん。
生意気な顔のせいで、きちんと歌えているのに煽っているのかと感じるメアちゃん。
間違いなく歌手になれる圧倒的な歌声のセイラさんと、やたらと切なく聞こえる繊細な歌声を持つスミレさん。
目に見える情報と耳から得られる情報のギャップが凄まじく、逆に楽しくなってくる。
ライブスターズの中で最もチャンネル登録者数が多く、人気があるのがこの三期生だというのがよく分かる一曲目だった。
とりあえず曲の合間のMCタイムに、全員分のチャンネル登録を済ませる。
たった一曲でファンになってしまった。
「やっぱり皆、キラキラしています!!可愛いですね!!京香ちゃんもそう思いませんか!!」
「あ、はい。私もそう思いました。なんだかとっても楽しそうで…見ているこっちまで楽しくなっちゃうというか…」
「そうなんです!!見ていて楽しくなるアイドル!!まさに京香ちゃんみたいですね!!」
相変わらず元気な声のりくちゃんが急に褒めてくるものだから、なんというか、照れる。
そんな笑顔のりくちゃんを見て、ふと疑問が浮かんだ。
「りくちゃんは、後輩に登録者数を抜かれたりするの、悔しくないの?」
後悔する、とはこのことだ。傷付いてしまうかもしれない、軽率だった、と気付いたのは既に言い終えた後で、すぐに謝ろうとりくちゃんに体を向ける。
「私は皆に元気を与えたいです!!その為にvtuberとしてアイドルになって、一人より二人、二人よりそれ以上!という考えでライブスターズの結成に携わりました!!ライブスターズは私にとって宝物で、皆で頑張れば一人でも多くの人に元気を与えることができる!!なので悔しいとは思いません!!」
謝ろうと口を開きかけた私よりも早く、りくちゃんは元気に答えてくれる。
「ですが!!私はライブスターズ皆の先輩ですので!!ダンスと歌では誰にも負けないようにこうして毎日レッスンをしています!!歌もダンスやトーク力、私はどれも一番ではないかもしれないけど、ライブスターズの皆にも元気を与えるような、そんな先輩でいたいですから!!」
…きっと、この人は、光だ。
ライブスターズ、彼女達が愛されるのは、このリーダーの存在無くしてあり得なかっただろう。
私も、こんな風に輝けていただろうか?
ソロで活動していた私には、グループの後輩という存在はいなかったけど、同じアイドルとして、皆に元気を与える存在に。
やりたい事が、見つかった気がした。
「りくちゃん…私決めました。もう一度アイドルとしてライブスターズに入ります。入りたい、ではなく入ります。オーディションとかってありますか」
「えぇぇええええええ!?京香ちゃんが入ってくれるんですか!!それはとっても嬉しいです!!オーディションは凄い倍率ですけどあります!!いつでも開催してますから!!応募しましょう!!楽しみです!!」
驚き方も元気なりくちゃんに、決意表明をする。
一度は引退したアイドル。
姫野京香というアイドルは幕を閉じ、vtuberとして新しい私でもう一度勝負しよう。
「あ、それからこれ誰にも言わないでくださいね?私、プリンセス・ナイトの友人なんですけど、コネで入ったなんて絶対に言われたくないですから」
「分かりました!!…って、えぇええええ!?ナイトちゃんの友人って京香ちゃんだったんですか!?しかもナイトちゃん、vtuberしてるのバレてるじゃないですかぁ!!」
またも元気な驚き顔のりくちゃん。綺麗なお姉さんだけど本当にコロコロ表情が変わって魅力的だ。
「はい、知ったのは本当につい最近なのでまだvtuberについても詳しくないのですが、これから勉強していこうと思います。オーディションに合格するまではナイトさんにも言わないと決めました。受かったらすぐにりくちゃんに会いに行きますから、楽しみに待っててください!」
こうして私のこれからやる事が決まった。
オーディションの倍率が凄いらしいけれど、これでも元アイドル。テレビ番組などオーディション経験は千を越える。
帰ったら早速作戦を練ろう。
合格した後の優里の顔を想像するだけで、やる気が何倍にも膨れ上がる気がした。
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