第8話 幼馴染で親友はお茶目


 家に帰ってから真っ先にお風呂に入る。

 帰り道スキップなんかしなければよかった。優里のせいだ。うんうん。

 ついでにお湯にも浸かりたいなとお風呂場の給湯スイッチをオンにする。

 お湯を張りながらシャワーを浴びるというなんと贅沢なことか。

 偉そうにしてみたが、なんだか虚しいので真剣にシャワーを浴びる。

 そういえば優里のシャンプーいい匂いだったなぁ、パッケージちゃんと見てなかったから今度聞いてみよう。


 明日も日曜日で大学はない。夕方からダンスがあるけれどそれまで暇なので優里を誘ってカラオケに行こうとしたのだが、どうしても外せない用事があるらしい。

 どうしても、とは言いつつ死ぬ気で頭を下げれば行ける。なんて言うものだからまた今度、ということにした。

 カラオケはいつでも行けるけど、優里の用事はかなり大事なものだと思う。

 多分、vtuber関連の。

 

 頭から爪の先まで洗い終えたので浴槽を見てみると、あと少しで良い感じに貯まりそうだ。

 どうせなら浴槽に入りながらナイトさんの「今日の友人集」を見よう。

 聞いていて恥ずかしくなったらお湯に顔を沈めればいい。

 一度お風呂場を出て手を軽く拭く。

 洗濯機の上に置いておいたスマホを取り、念の為購入した海でも使えると話題の防水スマホケースに入れてお風呂場へ戻る。

 お湯はもういい感じだ。



「私の友人はとても可愛い。多分貴様らが想像している何千倍は可愛い。そう言うけどそこそこなんじゃないの?と思ってる奴は出て来い。切ってやる。私がライブスターズに入ったのはその友人に貢ぐ為だ。未来のガチ恋勢には先に謝っておく。すまん、アイドルである前に一人の騎士なんだ。許せ。ちなみに、そんなに好きなのにどうして友人なんですか?という質問は受け付けない。見かけたら切る。…おい、ひよってるんですか?というそこの貴様。…図星だ、ムカついたので切る。これから配信の度に友人のことを話すかもしれないが、話を聞いた貴様らはいずれ友人を好きになってしまうだろう。そいつらは見る目がある。だが切る。引っ込んでろ。それから友人は私がvtuberな事を知らないのでここで好き放題言っているが、万が一バレた場合も貴様らを切る。理由はない。いいか?分かったな?…よし、良い子達だ。大人しくしていれば危害は加えない。あ、私の名前はプリンセス・ナイト。自己紹介が遅くなった」


 ナイトさんの「今日の友人集Part①」を開いた瞬間いきなりのこれだったので思わず動画を止める。

 止めた画面をしっかり見ると初配信と記載されていて、思わず二度見した。

 ナイトさんは自分の名前も言わずに友人の話をし始めたらしい。

 初配信からエンジン全開のナイトさんは「おもしれー女(すぐ切る)」として一躍有名になったらしい。

 vtuber業界、まだまだわからない事だらけだ。

 なんとなくこの切り抜きシリーズは色んな意味で見てはいけない気がしたのでそっとスマホの画面を消す。

 明日は一人カラオケでも良いかなぁ、と考えていると、スマホがメッセージを知らせてきた。優里からだ。

「明日、ダンスって21時くらいまでだったよね?私の用事もそのくらいに終わるから、その後一緒にご飯でも食べない?でも無理そうなら大丈夫だし、多分京香の方が早く終わると思うから疲れて帰りたいってなったら帰っても大丈夫なので!」

 …優里ちゃんは私をなんだと思ってるのかねぇ。

 前半部分だけなら、やったー嬉しい、待ってる。で終わるはずだったのに。

 後半の謎ネガティブ部分も可愛いと言えば可愛いけど、少々私という親友を舐めすぎている。

「死んでも待つ」

 スマホに最初から登録されている赤い顔の怒った絵文字も加えて返信する。

 送った瞬間に既読がついたので、多分開いたまま見ていたのだろう。

「やったー!詳しくは明日連絡するー!」

 返事はすぐに来た。私はアイドル時代に作られた私のスタンプでワクワクしてそうなものを送っておいた。

 もしかしたら他の芸能人は自分のスタンプなんて使わないかもしれないけど、私はなんとなく気に入ったので使っている。

 優里は自分からスタンプを送らないと会話の流れを切るのが苦手タイプと言っていたので、いつものようにスタンプを待つ。

 ピロン、という効果音と共にスタンプが現れた。


「…いや、ナイトさんじゃんか」


 現れたのはライブスターズ三期生のプリンセス・ナイト。先ほどまで動画を見ていたので何も思わず見逃しそうになったが、よく考えると優里さんやらかしてない?大丈夫かな?

 どうやら気付かずメッセージアプリを閉じてしまったみたいだ。特にメッセージの取り消しが起こることもない。

 おっちょこちょい?もしくは何か試すために?

 何故かこのスタンプを眺めている私の方がソワソワと落ち着かなくなっているのでなんとかして欲しい。

 先に私が自分のスタンプを使ったからお返しに、という軽い感じなのだろうけど事故っちゃってるんだよねぇ。

 こういうところも可愛いけど。


 しばらく眺めて変化がないので逆にメッセージを送ることにした。

「可愛い女の子だね、ゆっくり寝なよー?おやすみー」

 これならなんとかなる気がする。ならなくても優里のせいだ。うんうん、珍しく本当に。

 すぐに既読がつく。

 あ、無言でメッセージが取り消された。

 なんだか優里の表情を見てみたかった気もする。


 その後すぐにナイトさんの配信が始まったという通知がバナーに表示されたので開いてみる。

 配信タイトルは「やらかした、くっ殺せ(ついでに告知アリ)」だった。

 明日会うのが今から待ちきれない。


 

 夜、ワクワクして眠れないのは小学校の頃行った遠足の前日以来だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る