第6話 幼馴染で親友は寝巻きがスウェット
私と交代で優里がお風呂に入った。
バスタオルである程度身体の水分を拭きあげてから「もういいよー」と言って優里を呼んだら、ドアを開けたまま固まってしまっていた。
相変わらず可愛い反応をする。
不法侵入もどきをした時に可愛いと言いすぎると良くないかも、と思ったので心の中に留めておく。
急に我に返った優里が、「うわぁあああああ」と叫びながらお風呂場に突撃した。着ていた服を中で脱いで一瞬ドアを開けて放り投げていたので「変なの〜」と言っておいた。
この家に置いてある私のパジャマに着替えて髪を乾かす。
自分の家にあるドライヤーよりも数段風力の高いそれは、髪の一本一本吹き飛ばすように轟音を上げている。
なんとなく口元に風向を変える。
「われわれは〜」
普通に出来てしまった。
扇風機のように宇宙人っぽくなると思ったけれど、私の喉の宇宙人は風ならなんでも出てくるわけじゃないらしい。
「うぇ!?なに!?京香呼んだ!?」
「呼んでないよ〜」
「も、もう脅かさないでよ…」
全く脅かしたつもりじゃなかったけどなぁ。
あ、でも化粧水とか持ってきてないや。
「やっぱり呼んだ〜、化粧水借りるね?」
「あれ、家から持ってこなかったんだ?いいよー」
そうだった、直接きて不法侵入もどきをしたから家に帰ってないこと知らないんだ。
「うん、優里と同じの使いたくって」
「ふぁああああ!?」
お風呂場から叫び声が聞こえてくる。
お肌のケアをしていた間もお風呂場でブツブツ言っていた。
相変わらず可愛いリアクションの優里を置いて脱衣所を後にする。
寝る前のルーティーンと言えば後は歯磨きくらいだけど、せっかく持ってきたジュースもまだあるし、お菓子もまだ食べ切っていない。
「困ったなぁ」
正直、他の人の家で一人やることなんて特に何もないのでさっさと寝室へと移動する。自分用の枕をクローゼットから出してセットしておく。
それにしても、もう何度も家で泊まっているのに、何故か一緒にお風呂に入らない優里の気持ちはよく分からない。
確かに最近は同性でも身体を見せるのが苦手という人もいるし、そういうものなのかな。
優里の綺麗でカッコいい顔に引き締まった健康的な美脚、そして主張の激しく服の上からでも分かる大きな胸。どこに隠したくなる要素があるのだろう、とも思うけどそこは個人の価値観かもしれない。
持たざる者にはその気持ちが分からないのだ。
親友の一番の理解者でいたい私でも、そこだけは一生相容れないであろう。
まだ少し優里のお風呂はかかりそうなので、ジュースを注いでプリンセス・ナイトさんのUtubeでも見てみることにする。
「えーっと、さっきの配信は…これか」
チャンネルにある最新のライブをタップすると「貴様、ちょっと待て!」と書かれた中世ヨーロッパ風の画面が出てきた。
どうやら配信開始前の待機画面のようだ。しばらく待とう。
待っている間に配信時のコメント欄を開くと
『自分、なんかやっちゃいました?』
というコメントが沢山来ていた。
どういう意味だろう?でもなんだか面白いなぁ、と流れていくコメントを見る。
流れていくコメントの速さに、やっぱり人気配信者なんだ、と感じる。
やがて画面が変わり、クラフトゲームとナイトさんが右下に現れた。
「こんぷり!先に言っておく!今日の配信は20時には絶対に終わる!理由は後で!それじゃあ昨日の続きやっていくぞ!」
凄い勢いで開幕の挨拶をしたナイトさん。コメントを見る限り、こんぷりというのが挨拶なのだろう。こんにちはプリンセスってことかな?響きが可愛いので気に入ってしまった。
それにしてもこれってやっぱり私のせいだよなぁ、と思いながらコメントを見ていると
『どうせ友人』
『友人との結婚報告ですか?ですよね?式には参列します』
『やっと告った!?!?』
などのコメントが多数。
えぇ…そんなに私の話をしてるのね優里さんは。
しかも結婚式だとか告白だとか、突飛なコメントもチラホラ。
流石にツッコミをするのかな、と様子を見る。
「まぁ待て貴様達、勝手に動くな、切るぞ。確かに友人が理由。なんで友人が理由かというのは後で。それから結婚式のやつ、貴様は呼ばないから安心して。やる時は家族だけ呼んでひっそりとやる。最後に告白のやつ、そんな勇気があったらとっくにしている。切るぞ、貴様」
…ほほぅ。
「とにかく時間がない、あと二時間以内にエンダーイヤードラゴンを討伐しなくちゃ…」
ガチャリ、とお風呂場が開く音がする。
イヤフォンをしていなかったので慌てて配信を閉じる。
なんだか落ち着かなくて、コップを手にジュースを喉へと流し込む。
配信を見ていたことは別にバレてもいい気はするけれど、なんとなーく優里にバレたくない気持ちもあって。
そんな曖昧な感情のままボーッとしていると、優里が脱衣所のドアから顔を出す。
「きょ、京香ごめん、お待たせ」
こっちはこっちで何故か落ち着かない様子なので、その姿で逆に冷静になれた。
よし、これからも配信はこっそり見よう。その方が面白そうだ。
「ん〜、優里いなくて寂しかった」
甘えた声で言ってみる。
我ながらあざといと思うが、からかいたくなる優里が悪い。うん、優里のせい。
「あっ…ぐぁっ…あ、甘えん坊かよーはははー」
何かに撃ち抜かれたような反応を見せる優里。冷静を装って言葉を返してくるその真っ赤な顔を見ていると、どうして今まで気付かなかったんだろうなぁ、という感情が出てきた。
「ん、優里にだけだよ、甘えるのは。ほら、髪乾かすの手伝うから肌ケアしちゃいなー」
そう言って脱衣所の前の洗面台に優里を戻す。
また呻き声をあげる優里の少し濡れた髪は、私と同じ匂いだ。優里の家のシャンプーだから当たり前だけど。
その日一緒に食べたお菓子とジュースの味は、なんだかいつもより美味しかった。
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