第1話 幼馴染で親友はお金持ち


 授業を終え、現在一人暮らしで大学近くに住んでいる優里と別れ家に帰る。「ちょっと色々準備があるから20時くらいにゆっくり来てね!」などと言っていたのできっと部屋の片付けでもするのだろう。


 

 生まれた時からの付き合いである優里とは、家が隣同士だったことからこれまでずっとの縁だったが、なぜか実家を出ることを強く熱望していた優里は、父親の反対を押し切り大学生活スタートと共に一人暮らしを満喫していた。

 ネット事業で稼いだお金があるとかで仕送りを拒否しようとしていたが、優里パパの「そんなの寂しいから嫌だ」という一言で一般大学生の一人暮らし用アパートではなく、防犯・防音対策完璧な高級マンションに住まわされ家賃を出してもらっている。

 蝶よ花よと育ててきた一人娘が居なくなってしまうことへの最後の抵抗だったのだろう。

 優里は「大学生で30万円の家賃なんて聞いた事ないよ」と呆れていたが、本当にその通りだと思う。

 ちなみに優里パパは普通の会社員だが、優里ママは有名化粧品会社の社長さんである。アイドル時代には私をCMで初めて起用してくれた大恩ある会社だ。

 

 私の家は元々貧乏で、病がちでずっと入院している母を父と二人で支えて暮らしていたが、その父を事故で亡くしてからはさらに生活が苦しくなり、アイドルを始めた。

 中学生ながら自分の顔が世間的に可愛いという自覚はあったので、アイドルとして稼いで母を助ける、という信念のもとがむしゃらに生きてきて、6年をかけようやく世界一のアイドルの景色を見ることができた。

 人気が出た大きなきっかけは、優里ママゴリ推しCM抜擢なので、本当に頭が上がらない。

 有名になり、テレビの出演が増えるにつれ病院に通える数は少し減ってしまった。もう長くないと言われ、訪れる度にやつれていく母を見るのは辛かったが、その分沢山の笑顔を病室のテレビから届けられると信じて歌って踊り続けた。


 最期に母は「ありがとう、京香。京香が毎日テレビで活躍してたから、お母さんどんな時も京香の姿を見れて幸せだった。おかげで天国のお父さんにも笑顔で報告できるよ。やっぱりうちの娘は世界一可愛い、ってね」と笑顔で言った。


 お別れの後沢山泣いたけど、優里が優しく、それでいて強く、ずっと手を握ってくれていた。


 落ち着いた頃、これまでの頑張りが間違っていなかった、母を幸せに出来たんだ。それなら満足。と、清々しい気持ちで高校卒業と同時にアイドルを引退した。

 両親の遺してくれたお金に手をつける気にはなんとなくなれなかったので、今はアイドル時代の貯金を切り崩しながら暮らしている。

 料理が苦手な私の為に、一人娘が家を出て寂しい優里パパが時々夕食を作って分けてくれる。

 会う度に「優里は寂しくて家に帰りたがってるんじゃないか?」と聞いてくるが、残念ながらまだそんな様子はない。


 そんなこともあり、生まれた時からの幼馴染で、どんな時でも支えてくれた優里を含む岸宮家とは今でも仲が良い。


 

 それにしても改めて考えると、優里ママが社長さんということは、


「ふふ、優里が社長令嬢…か」


 今頃大急ぎで洗濯物を畳んでいるであろう親友の姿を想像し、頬が緩む。

 すでに何度も優里の家には足を運んでいるが、毎回大急ぎで何かを片しているみたいなので、私が部屋に入る頃にはいつも綺麗だ。

 本来は結構散らかっているのかもしれない。


 「少し見てみたいかも」


 今の私はニヤリ、という効果音がよく似合う顔になっている事だろう。

 時刻は17時。解散してから30分も経っていない。まだ片付け始めるには早いはずだ。

 

 乗っていた電車を降りてホーム向かいにちょうど止まっていた方に乗り換える。

 ここまでの帰宅時間が無駄になってしまったが、それ以上に優里の素の部屋を見たいのだから仕方ない。

 電車は走り出したのに私は座ったまま。

 それがもどかしいと感じるくらいには、私は浮かれているみたいだ。



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