幼馴染の親友が隠れてvtuberをしてるらしい

不和ニ亜

幼馴染の親友が隠れてvtuberをしてるらしい

プロローグ 幼馴染で親友は可愛い


 大学内の食堂で、姫野ひめの 京香きょうかはテーブルを挟んだ向かいに座る女性を見つめる。


「な、なに?京香」


 前に座る女性は目が合っただけで挙動がおかしくなってしまう不審者、改め岸宮きしみや 優里ゆうり

 京香にとって生まれた時からの幼馴染であり親友だ。

 優里は生物学上女性であることは間違いないのだが、176㎝の身長に黒のスポーティーなショートカット。

 おまけに男性顔負けのイケメンという特徴から、時に男性と間違われる。

 時にというのは、その胸にある主張の激しい膨らみが男性と呼ぶには躊躇われるほど大きなものだからだろう。


「ん、別に。優里は可愛いなと思って」


「んなっ、なぁっ...!きょ、京香の方が可愛いよ…!ほんとに…!」


 顔を真っ赤にして慌てふためきながら反論してくる親友を「ははは、ありがとー」と受け流す。

 一般的には女友達同士のお世辞挨拶としても多く用いられるこの「可愛い」の交換だが、目の前の幼馴染が心の底から本気でそう言っていることを京香は知っている。

 事実、中学高校の期間はアイドルとして活動し、二千年に一人の美少女と騒がれたほど人気を集めていた京香は可愛い。

 可愛いことを自覚し、それを武器に何万人と戦い頂点に立った自負があるからこそ「可愛い」という言葉は事実確認に過ぎないのだ。

 

 では、京香から優里に対しての「可愛い」はお世辞なのかというとそうではない。

 確かに容姿そのものを可愛いと言ったわけではないし、着用している上下紺の有名スポーツメーカーのロゴ入りジャージを見て言った訳でもない。


「優里はさ、リアクションが可愛いんだよ。もっと自覚した方がいいね」


「リ、リアクション!?そんなの言われたことないよ…」


 カッコいい女の子である優里が普段言われ慣れてないであろう「可愛い」をぶつけて素の可愛い反応を観察する。

 これが京香のマイブームだ。


「ふぅ、優里の可愛い赤面も見れたことだしそろそろ授業向かおっかー」


 食べ終えた学生限定300円のランチセットをトレーごとベルトコンベアに流し、食堂のお姉さん達に「ごちそうさまでした」と手を振っておく。


「そりゃ誰だって京香に可愛いなんて言われたら…」


 ボソボソと負け惜しみを呟きながら少し後ろを歩く親友に歩みを合わせる。


「ほら、次はお楽しみの体育でしょ。今日は卓球だって。それにしても大学生になって体育か…元気だよね私達も」


 体育は必修ではない。

 それでもわざわざ選択した理由は単純で、二人とも運動が好きなタイプの女子だからだ。

 京香は引退したアイドル時代の名残か、今でも週二回のダンスと週三回のカラオケは欠かさないし、優里はそのボーイッシュな見た目通り運動神経が抜群である。

 結果的に出席さえしてしまえばほとんど単位を落とすことのない体育は、二人の目論見通り楽しくて楽な最高の授業だった。


「体育…!卓球かぁ、いいね!勝負しよう!」


 先ほどまでボソボソと文句言ってたのに現金だなぁ…、と京香は思いながらも笑顔になった優里を見て少し意地悪を仕掛けてみる。


「それじゃあ私が勝ったら今日は一緒にホラー鑑賞ね。優里が勝ったらなんでも一つお願い叶えてあげるよ」

「!?」


 罰ゲーム、勝負の世界に一つ盛り上げ要素を追加される。

 一見、ホラー映画を観る事と、なんでも一つ願いを叶えるというのは願い次第で釣り合っていないように感じる。

 さらに、どれだけ京香が運動得意だとしても普通の女の子。運動ガチ勢の優里には敵わない。

 その状況でこんな不利な勝負を仕掛けるだろうか?

 京香の仕掛けを読みたい優里であったが「なんでもだよ〜叶えちゃうよ〜」という甘い誘惑に耐えきれず勝負を受けた。


 結果、勝負所で必殺の「優里って可愛い」作戦で勝利を掠め取った京香の方が上手だったということだ。

「やった〜それじゃあ約束通り、夜に優里の家行くからね!」

「うぅ、あんまりホラー得意じゃないのに…」



 体育の後、本日最後の授業を受ける2人。

 本気の勝負に疲れてしまったのか、うとうととしている京香に肩を差し出し頭を乗せてあげる優里。

 やがて眠った親友を見つめる優しく熱のこもった視線に気付く者は誰もいない。

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