3. 対策委員会
というわけで、早速宮殿内の大会議室にやって来た。
既に15人ほどが卓についている。
見渡せば見たことのある面子もちらほらと見受けられた。
まず、チャタグ・ジナ-コーヴァム・オヌーナグ。大魔術師で、おそらく今は軍の魔術師戦士隊の隊長兼宮仕えの薬師をやっているのだろう。でもこいつはどうでもいい。あとでボコボコにする。
チャタグをキッと睨みつけると、笑顔で手を振ってきたので眩暈がした。
で、チャタグの右隣はダ=ルーカン・シャーフ-アンデ・ロンゴユ・ヘブデ。私がいた頃から宮仕えの魔術士兼呪術顧問をやっている。
今はおそらく41歳くらいだろう。白髪の混ざり始めた茶色い顎髭をさすりながらこちらを見ている。
ダ=ルーカンから右隣、3人飛ばしてカルマノグ・イス-マロム・アヤヴァソム。昔は軍で大尉をやってたが、今の階級は知らない。
背丈はそこまでないが怪力で知られていて、鍛錬の時に彼より二回りはでかい男を軽々ぶっ飛ばしていたのを見たことがある。小洒落た口髭を生やして、しゃらくさい髪型をしているのは今も変わらないようだ。いけすかない。
カルマノグの右隣から2人飛ばして、ドグ・ゼー。小人族には珍しく軍で隠密部隊を率いていた。幻惑魔法や暗器の扱いに長け、きな臭い作戦には絶対こいつが参加していた。隠密行動や暗殺における幻惑魔法行使のノウハウについて何回か話を聞いたことがあるが、とても興味深かった。
ドグは隠密行動をしなければならないので、極力目立たないよう髭は剃っていた。だから小人族に特有の顎髭の立派な三つ編みは見ることができない。睨んでいるかのような鋭い目つきでこちらを見ているが、彼曰く生まれつきとのことらしい。
そしてドグの右隣が付呪士兼蛇人薬学顧問のクハ・ツン・ハース=シュル。こいつはあまり自分のことを話さなかったのでよく分からないが、沼の都出身であることだけは聞いた。
蛇人は感情がわかりにくいので、今私の方を見ているシュルがなにを考えているのかは知らない。けど、彼の沼色に輝く鱗は綺麗だと思う。
この5人の他は知らない面子だった。
私が席についてしばらくすると、皇帝が部屋に入って来た。
皇帝は1人の耳長族を連れていた。また見ない顔だ。
「おう、これで面子は揃ってるな」
「はい、陛下。しかし我々の知らぬ顔が2人見えます。紹介していただけますか」
そう声を上げたのは私の知らない虎人の男だった。
私も知らないので、知らない奴は全員自己紹介してほしい。
「待て待て、焦るな。あー、じゃあ、ラリヨグもこちらの方へ来い」
と皇帝が言うと部屋はちょっとざわついた。
「おお、あれが………」
「大魔術師の使命に背き出奔したという………」
「ですが、多大なる利益を帝国にもたらしたのもまた事実であると………」
「いやしかし………」
こういう反応があるから、宮殿に顔を出すのはイヤだったのだが………。
チャタグの方を見ると、あからさまにムッとした顔をしていたので、ちょっと面白かった。
でも全部投げ出して出奔したのは事実で、委員長の件も引き受けたことだし、まあいいか。
「大魔術師をやってます。ラリヨグ・リヤ-エラム・ヴァイユーグと申します。この度陛下の命にて出向し、委員長を務めさせていただくこととなりました。よろしくお願いします」
また一悶着ありそうな雰囲気になったので面倒だなあと思っていると、皇帝が口を開いた。
「あー、賛否はあると思うが、先に言わせてもらうと、本件に関して最も適性があると考えたのでこちらから指名させてもらった。俺が。直々に。異論がある者はいるか?」
すると場はしんと静まり返った。
皇帝陛下にこれだけ圧をかけられて異論出せる奴なんているのだろうか。
「ん、おらんようだな。で、今俺と一緒に入って来たのは魔術都市アルカンのラーシュヌマ殿。都市議会全会一致での介入が決まったらしいので、こちらから委員会の顧問をお願いした。粗相のないように」
は?
何言ってるんだこの人?
多分、皇帝と今紹介があったラーシュヌマ殿以外の全員が私と同じことを考えているだろう。
少し沈黙があった後、私の時とは比にならないほどざわつきはじめた。
「アルカンの………!?」
「では今回の件は………」
「一歩間違えると比喩抜きに…………」
「世界が滅ぶ………」
魔術都市アルカン。
自分たちの領域に閉じこもり魔術の研鑽を積む道を選んだ者たちの場所。
彼らは私たちの暮らす次元とは別の位相に世界を作り、そこに都市を作り上げた。
私は根暗な引きこもりたちの巣だと思ってるが、アルカンに住まう者たちの実力は掛け値なしに本物だ。
一歩踏み込めば魔法の域に到達しうる魔術を行使するような化け物がウヨウヨしている。
制限はあるが時間や空間を操る魔術などは序の口で、物品を基点として過去に戻る術を編み出した者すら居るという。
そもそも彼らの暮らす場所だって魔法のような術の産物なのだから。
そんな彼らが全会一致で今回の件に介入しようとしている。
彼らの時空は、私たちの世界を元としなくては成り立っていられない。
つまり、今回の件は対処に失敗すれば世界が滅ぶことが確定している、想像以上に厄介な案件だったのだ。
「アルカンの介入がある、この点だけで対処しないという選択肢は無い」
ざわめきを遮るように皇帝は言う。
「まずは、相手が「何をしようとしているのか」、ここから詰めていくぞ」
ファサハ救世物語 @yaqut_azraq
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ファサハ救世物語の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます