第11.5話
「アン・ドゥ・トロワ・ですわ! アン・ドゥ・トロワ・ですわ!」
ホワイトはトーマスから譲り受けた剣を振っていた。彼女は元のホワイトが受けていた剣術指南の記憶を参考に練習していたのだが、貴族だけあって良い先生の指導を受けていたようだった。元のホワイトはまともに指導を聞いていなかったが。
「うん、基本の型は結構サマになってると思います」
「そのかけ声なんとかならない?」
「私のアイデンティティですわ!!」
アドレイの突っ込みをはね除け、ホワイトは一心不乱に剣を振る。スキルの使い方を工夫するというアドレイのアイデアは採用されたものの、それはそれとして最低限の体力と剣の使い方くらいは覚えておいた方がいいとトーマスが助言したのだった。
「しかしアレですわね。こう立派な剣を持たされるとアレやりたくなりますわね。アドレイさんにしか伝わりませんけども」
「ああ、アレね」
アドレイの理解を得ると、ホワイトは嬉しそうに剣を目の前にかざした。
「命を刈り奪る形をしてるだろ? ですわ」
「そっちかぁ。いや、そっちかっていうか剣を使ってやれるネタ多すぎるわ」
「え、何を想像されましたの?」
「アバ○ストラッシュ」
「あー! そっちもいいですわよね」
「僕の知らない話題で盛り上がっている……」
ふて腐れるトーマスに、突然ホワイトは刃を向けた。
「あ、そうそう。トーマスさん! 私ずっと言いたかったことがあったんですけども。トーマスさんはもっと厨二心をくすぐる技名を叫びながら戦うべきですわ!!」
「ちょ、危ない。剣をこっちに向けないで下さい。っていうか技名!? 僕なんかが技名叫んだら恥ずかしいですって」
この世界では技名を叫びながら戦うことは決して珍しくない。ただし、技名を叫ぶのは自分のスキルや流派に対する自信の表れであり、技名を叫んで攻撃したのに全然効かない、なんてことがあったら相当恥ずかしいことだった。技名を叫ぶのは強者の特権である。
「おいおい『測定不能』の冒険者になるんだろ? 俺が一緒に技名考えるからさ」
「それ私も混ぜて下さいまし」
「自分たちが楽しみたいだけですよね!?」
こうしてルナが帰ってくるのを待つ間、トーマスの技名を考えることになった。
「まず基本技は二文字くらいの漢字ですわよね」
「いや、基本技は漢字五文字くらいに英語読みじゃないか? で、強くなるごとに修飾を足していって最終奥義が漢字二文字のシンプルな奴がいいと思う」
「最終奥義こそゴテゴテに盛るべきですわ! トーマスさんの最終奥義の名前も『鏖殺剣零番・無限の煉獄』とかがいいですわ」
「安易に零とかゼロを付ければ強いでしょみたいな風潮、俺はあんまり好きじゃないな。『神凪』とかが良いと思う」
「え、えっと。気持ちは嬉しいんですけど、どっちも他の流派の技名だから僕が叫ぶ訳にはいかないです」
「「ええ……?」」
自分たちで考えた技名ではあるものの、実際にいい歳した冒険者がそんな名前の技を使っているところを想像すると、どうしても受け入れがたいものがあった。
異世界学園記~異世界転生してチートスキルを手に入れた俺と婚約破棄された悪役令嬢とパーティ追放されたハズレスキル使いと力を隠していた聖女の四人で仲良くやる話~ 棘沢忍 @koyoshi0605
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