第6話

望んだ速度で動ける白金プラチナスキル【ハヤブサ】を発動しました

全身がオリハルコン並みの硬度になるゴールドスキル【オリハルケイア】を発動しました

未来予知する白金プラチナスキル【サードアイ】を発動しました


「じゃあ次マッハ5行ってみましょうか」


「ガァッ、ハァ、クァア……」


 ブラドは既に地面に膝をつき、息も絶え絶えといった様子である。しかし、アドレイに手を緩める気は無かった。いくつかのスキルが効かない理由がが未だに分かっていないのが一つ。もう一つは人間なら既に100回は死んでいてもおかしくないダメージを受けて尚、彼が立ち上がってくる点である。


 宣言通りマッハ5で跳び、そのまま顔面に膝蹴りを見舞う。ブラドは力なく転がっていったが、まだ動いている。


「お前……お前あまり調子に乗るなよ」


原初オリジンスキル【血染めの蝙蝠】を発動しました


 周囲に撒き散らされた血液が宙を舞い、巨大な槍を形作る。


「マッハ20」


 瞬く間に血の槍は砕かれ、同時にブラドの身体は宙を舞っていた。そう、彼のスキルは恐らく血液の操作。しかしそれではスキルが効かないこととタフネスの説明がつかない。


「どうしたもんか……」


────────────────────────────────


「うぇええええん楽しいよぉ!楽しいよぉ!そこそこ強い人との戦い楽しいよぉ!!もう僕あんな化け物どもと関わりたくないよぉ!!」


「誰がそこそこですか!誰が!!」


 フルミルは泣きながらも的確なコンビネーションでルナを追い詰めていた。ルナも白兵戦の心得が無いわけではないが、一度距離をつめられれば格闘に特化したフルミルに分がある。


「よろしくお願いします、『シルバーフォートレス』!!」


 フルミルの拳がバリアに直撃する。


「痛ぁ!?」


「よろしくお願いします、『白鷺』!!」


 光の矢がフルミルの足下に突き刺さり、起爆する。このコンボで、ルナは何度か距離を取ることに成功していた。問題はここからだった。


 爆発を回避するために跳び上がったフルミルが中々落ちてこない。戦いの中でルナはなんとなく彼女のスキルを理解してきた。彼女は、自分の体重を操作できるのだ。


 体重を軽くして跳び上がり、重くなって踏み潰しにかかる。直撃したら間違いなく死んでしまう。


「よっこらしょぉ!!」


 間抜けなかけ声と共にフルミルが落下してくる。彼女が着地した地面からは爆音と共に土煙が舞い、まるで爆弾でも落とされたようだった。


「そこ!!」


 着地した直後のフルミルを光の矢が襲う。しかし、彼女は軽やかに飛び去り躱してしまった。


「無駄無駄ぁ!着地直後なら体重が重くて動きづらいと思ったのかもしれないけど、僕のスキル操作練度はそんなもんじゃないよぉ!」


 空中で勝ち誇るフルミルを置いて、ルナは一目散に駆けだした。


「それも無駄だよぉ!」


 すっかり自尊心を取り戻して調子に乗ったフルミルは、空中で自分の服を鳥の羽のように羽ばたかせてルナを追った。 


「そこだぁ!!」


 ルナが立ち止まったのは、森の中では珍しく開けた空間だった。フルミルにとって、遮る木がないとなれば踏み潰すのに好都合だ。大喜びでルナの頭上に陣取った。


 そこで、フルミルはある違和感に気付いた。この空間は、木が生えていなかったわけじゃ無い。切り倒されているだけだ。そもそも、なんで彼女は明らかに私に都合の良い場所で止まったんだ?


「もう遅いです」


 フルミルは、自分の身体が動かなくなっているのに気付いた。彼女は知るよしも無いが、当然黒縫い針の能力である。


 何度も空中に跳び上がるフルミルを仕留めるのに、黒縫い針の能力を使うのはルナも真っ先に思いついた。しかし、森の中では木陰が邪魔になってフルミルの影を捉えられなかったのである。


 そこでトーマスとホワイトのスノウゴーレムに協力してもらい、森の中に空きスペースを作ってもらったのだ。


「さて、止めたは良いですけど、これ、どうします?」


「僕、麻痺毒ありますよ」


「おー、ナイスです」


 吹き矢で麻痺毒を打ち込まれたフルミルは、黒縫い針の能力を解除されて力なく地面に落ちてきた。


「なんだろう……負けたのに納得してる僕がいる。そうだよね、これが正しいバトルだよね。怪物に圧倒されたのは負けにカウントしなくていいよね」


「なんか知りませんけど、苦労してるんですね」


 それを聞くと、フルミルは鼻で笑った。


「他人事みたいにいうけどね、君たちも部外者じゃ無いよ。君たちのお仲間も常識外れに強かったけどね、最後に勝つのはブラドだよ。そして彼が到着したら、始まるのは一方的な蹂躙だ」


「アドレイさんが負けるって言うんですの? それは無いと思いますわ」


「分かってないなぁ、ブラドは本物の怪物なんだ。アレ・・はスキルがどうとかの問題じゃ無いんだよ。スキルなんかよりもっとこの世界の深くに根ざした存在……」


「ただいまー」


「あ、おかえりですわー」


「とんでもなくタフだったからとりあえず封印してきた。あ、それと俺のせいで試験に落ちられると申し訳ないから封印は24時間で解けるようにしたよ。この水晶から出てくるから渡しとくね」


 水晶を目の前に置いたアドレイを、フルミルはとんでもない顔で見つめていた。


「え、どうかしました?」


「……ば」


「ば?」


「化け物だああああああ!!!!化け物化け物化け物化け物、化け物おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


「シンプルに悪口……!!」

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