第3話
アドレイさんとワープゲートをくぐると、洞窟の入り口に着いた。
「これを踏破すればいいってことですわね?」
「そうだと思います」
ここまで運賃を出してもらった上にコンビも組んで貰っておんぶに抱っこ状態。流石にこの辺から私も動かないと人間として終わる!
「アドレイさん、ちょっとそこをどいて下さいまし」
私がスキルを発動すると、地面から雪で出来たゴーレムが湧いて出てきた。私のスキルはスノウゴーレムを好きなだけ生み出すことが出来る。一定時間で溶けて消えてしまうが、雪で出来ているとは思えない頑丈さを誇る。大量のゴーレムを使った人海戦術でこのダンジョンをゴリ押しでクリアしてやる!
「スノウゴーレムを生み出すスキルですか」
「ええ。数も無制限ですわ。この方々を使ってダンジョンの罠もモンスターもゴリ押しで突破してしまおうと思いますの。ああ、それとアドレイさんのスキルも問題なければ教えて下さいまし」
「俺のはスキルを生み出すスキルです」
「なるほど。スキルを……は?」
一瞬、思考が止まる。
「えっ、それは自分のスキルを好きなだけ増やせるという認識でよろしくって?」
「はい。今は37万9212個のスキルを持っています」
「さんじゅうななまん……安○院さんか何かですの?」
思わず元の世界で好きだった漫画のキャラが口を突いて飛び出す。伝わらないネタを口走ったことを反省していると、アドレイさんの様子がおかしいことに気付く。
「えっ安○院さんってあの?」
「えっ」
「えっ?」
二人の間に沈黙が訪れる。
「もしかして、地球……というか日本の方だったりいたしますの?」
「……ホワイトさんも?」
もしかして、もしかしてだがこのアドレイさんと言う方は日本から異世界に転生して「スキルを生み出すスキル」で無双して俺TSUEEEEEして美少女ハーレムで追放したパーティにざまあ展開かましちゃったりして、それに比べて私は、私は……。
「ズルですわーーーーーーー!!!!!!!」
「うん。まあ、それはそう」
「アドレイさんの奴がアリなら私だってもっと早めに悪役令嬢に転生して!!破滅ルートを回避して!!アンドレ王子の寵愛を一身に受けたかったですわああああ!!」
「アンドレ王子?あのセクハラロリコン中年の?」
「……えっ、アンドレ王子が? それマジですの?」
「うん。ステルス系のスキルを作ったときに王宮覗きに行ったからまず間違いない」
「……セーフですわあああああああああああ!!!!」
「何が!?」
新しい愛を探しにいきますわあああああ!!!!……まあ、それはそれとして。
「っていうか37万個もスキルがあるなら試験用のダンジョンなんて余裕じゃないですの。早く行きませんこと?」
「ああ、まあ、はい。さっきの会話中に中のモンスターも罠も全部吹っ飛ばしといたので洞窟の奥まで歩いて往復するだけで一次試験終わりですね」
「こいつ本気でずっこいですわ……」
────────────────────────────────
「こいつはアルビノリザードです!口だけでなく尻尾の先端からも火を放つので気をつけて下さい!」
「了解でーす。よろしくお願いします、『黒縫い針』!!」
ルナさんが影に向けて突きを放つと、アルビノリザードはその巨体からは想像も付かない俊敏さで飛び退いて躱した。野生の勘か何かでルナさんの能力に気付いたのだろうか。なら、今度は僕の番だ。
カバンから吹き矢を取り出しアルビノリザードに向かって毒針を放つ。毒針一発の値段は僕の一日分の給料に相当する。世知辛い。
アルビノリザードは針を視認すると頬を大きく膨らませた。
「火を噴く前兆です!バリアお願いします」
「OK。よろしくお願いします、『シルバーフォートレス』!!」
シルバーフォートレスの力が解放されました
ルナさんのバリアで炎をしのぐ。一般的なダンジョンなら折り返し地点に着くぐらいは進んだが、ここまで僕はずっと彼女に頼りっぱなしだった。僕が手伝えるのはモンスターの知識や罠の解除くらいのものだ。
「埒があきませんね。黒縫い針さえ当たればどうとでも調理出来るんですけど」
「……ごめんなさい。僕にもっと力があればこんなに苦戦することは無かったのに」
「何言ってるんですか?トーマスさんは十分力になってくれてるじゃ無いですか」
「僕以外のホワイトサウンドのメンバーなら、アルビノリザードに手こずることはありませんでした。六年もあそこにいて、僕は何をやっていたんだか……」
ルナさんは、少し黙って僕を見つめると手を差し伸べてきた。
「ナイフ、貸して下さい」
「はい?」
「貸して下さい。あと、ナイフの名前も教えて下さい」
突然のことで戸惑ったが、きっと何か考えがあるのだろう。普段使っているナイフを手渡した。
「名前は、『レッドビー』です」
「宣誓、僕たち、私たちは慣れ親しんだ相棒と共に、全力を尽くして戦うことを誓います。よろしくお願いします、『レッドビー』!!」
レッドビーの力が解放されました
ルナさんが何か呟くと、レッドビーの刃から炎が吹き出した。
「これが私の能力です。道具の真の能力を解放します」
「凄いですね。僕なんかのスキルと違って、実用的で……」
「ただし、何でも強く出来る訳ではありません。長年愛用された道具には魂が宿ります。その魂に働きかけて、真の力を解放させて貰うんです。このナイフ、よく研がれています。試験前だからって慌てて磨いだようなナイフだったら、私のスキルは発動しません。ナイフだけじゃないです。貴方の持っている道具は、全て万全の状態に整備されています」
「それは。雑用だったから道具の整備は仕事みたいなもので」
「モンスターの知識、罠の解除にしてもそうです。それらの知識は貴方が6年間の積み重ねで得た物じゃ無いんですか」
「……」
「今は及ばなくても、貴方には6年間の積み重ねがあります。それに、これから学校で得る経験も合わせて、ゆっくり越えていけばいいじゃないですか。その為に学校があるんですから、多分。だから、これは貴方の力です。」
そう言って、僕にレッドビーを返してくれた。いつの間にかアルビノリザードは火炎放射をやめ、こちらの様子を伺っている。
「……ルナさん、バリアを解除して下さい。さっさと一次試験を突破して、この学校に入学しましょう!!」
「もちろんです」
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