第2話
セト歴723年10月23日、今日は旅立ちの日だ。俺こと東森黒矢はライト家の長男、アドレイ・ライトとして異世界に転生し今年で16になる。16歳になればおおむね身体ができあがるため冒険者学校に通えるようになるのだ。
ただし、優秀なスキルを持つ一部の子供は10歳の時点で冒険者パーティに勧誘されてそこで英才教育を受けるらしい。
「アドレイ、本当に行っちゃうの?」
「俺もう16だよ? 流石に学校くらい行かせてよ」
「学校くらい」というのは、俺も10歳のスキル鑑定のときにいくつかの冒険者パーティから勧誘されたのだが、両親がやたら心配していたので全部断ったのだ。五ツ星パーティからの勧誘もあったので今にして思うと勿体ない気もするが。
「そうね。そりゃあ、まあ確かに手に職付けなきゃいけない年頃だけども。でも覚えておいてね。母さん達は何があってもアンタの味方だから。何か困ったことがあったらすぐに連絡するんだよ」
「はいはい。じゃ、いってきます」
瞬間移動する
俺がテレポートした先はグリフォン馬車の集まるクウト駅だ。別に直接学校まで飛んでも良かったのだが、もしかしたら学校までの道中でこれから同級生になる人たちと知り合えるかもしれないし、一般的な手段で向かうことにした。
クウト駅に着くと、何やら周りが騒がしかった。
「お願いしますわ!馬車の横に貼りつかせて頂くだけでよろしいんですの!」
「無茶言うなよお嬢ちゃん。そんな事したら一瞬で身体が吹っ飛んじまうよ」
「……あの、何かあったんですか?」
俺が訪ねると、口論していたおじさんと少女が一斉にこちらを向いた。少女の方は美しい銀髪に整った顔をしていて服も高級そうな物を着ていた。しかし、何故か全身がボロボロで靴は泥だらけだった。
「聞いてくれよ兄ちゃん、この嬢ちゃんがよぉ、金もねぇのに乗せてくれってうるせぇんだよ」
「馬車の中に入れて頂かなくても結構ですの。勝手に馬車の端を掴んで引きずられて行きますので気になさらないで下さいまし!」
「無茶言うなよぉ!」
この場合、正しいのはおじさんだが女の子の方は何かありそうだ。
「えっと、何か事情があるんじゃないですか?」
「その、お恥ずかしい話、私は貴族だったんですけども家を追い出されてしまいまして。家の圧力で就職もままならないんですわ。貴族からの圧力を受けない就職先となると、もう冒険者になるしかありませんの。この駅からなら学費もかからず全寮制の冒険者学校に行けますから、どうにか乗せて頂きたいんですわ」
「ああ。なら俺と同じ行き先ですね。じゃ俺がこの人の分も運賃出しますよ」
「いっ、いいんですの!?」
……正直、貴族からの圧力とやらは恐いがここで見捨てるのも夢見が悪い。
「まあ、これから同級生になるかも知れない人ですし、困ったときはお互い様ってことで……」
「恩に着ますわ!私、ホワイト・メアリーと申しますの。入学したらよろしくお願い致しますわ」
「え、ああ。同級生になれたらよろしくお願いします。まあお互い入学試験に受かるかは分かりませんけどね」
「……入学、試験?」
ホワイトさんの顔が固まった。
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「つ、着いてしまいましたわ……試験の用意何もしていませんわ……」
「だ、大丈夫ですよ。試験は複数人で協力する物が多いらしいので俺が手伝います」
「そんな……これ以上ご迷惑おかけできませんわ」
道中、ずっと絶望し続けるホワイトさんを慰める作業が続いていた。まあ、具体的な試験内容は秘匿されているので俺も大した準備はできていないのだが。
「じゃあ、まあ行きましょう。なるようにしかなりませんって」
「はい……覚悟決めましたわ」
目的地は駅から歩いて五分。バラン王国内で最も伝統ある冒険者学校、パンゲア学園。その入学試験は冒険者学校で最も厳しく合格出来るのはおよそ10人に1人と言われている。代わりに入学後のサポートは手厚く学費も完全無料。卒業生には史上最高の冒険者と名高いエラン・ユートピアを始めとして錚々たる名前が並ぶ。
学園の敷地内に足を踏み入れると、数え切れないほどの視線が自分に向けられるのを感じた。値踏みされている。俺の方も分析系のスキルをいくつか発動して周囲の人間の実力を測ったが、並々ならぬ実力者がひしめいている。
「ちゅうもーーーーく」
お立ち台の上に立っていた黒いローブに身を包んだ男が声を上げた。
「えー、皆さん。この度はパンゲア学園入学試験にお集まり頂き誠にありがとうございます。私、試験の総監督を務めさせて頂きますロール・ユーロールと申します」
ロール・ユーロール、名前は聞いたことがある。現役は引退しているものの数多くのダンジョンを踏破した一流の冒険者だったはずだ。
「では、スケジュールはテキパキと進めましょう。一次試験は2人1組で挑戦して頂きます。皆様この場でコンビを組み、こちらのワープゲートから模擬ダンジョンに飛んで頂きます。一次試験はその模擬ダンジョンを踏破するだけのシンプルな内容となっております。では、第一次試験開始」
「えっ?」
俺たちが質問する時間すら無く、試験は始まった。
「えっ、ちょっ、コンビ!誰かコンビ組んで下さい!!」
「自分探知スキル持ちです!戦闘タイプの方お願いします!」
急激に場が騒がしくなる。全員少しでも優秀な相手とコンビを組もうと必死だ。中には突然周囲の受験生を襲って自分の強さをアピールする奴までいる。
「変なトラブル起きなきゃ良いけど……」
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「えっ、ちょっ、コンビ!誰かコンビ組んで下さい!!」
隣にいる男子が必死に叫んでいますが、誰も組もうとはしません。まあ見るからに気弱そうで頼りないタイプですし、アレじゃ中々組めないでしょうね。まあ、一応同じ馬車に乗ってここまで一緒に来た仲ですし、組んであげてもいいでしょうか。
「あのー。私で良ければ組みますけど」
「ほっ、本当ですか!? 僕、トーマス・ブラウンって言います。ほぼ雑用係でしたけど一応ホワイトサウンドにいたので絶対役に立って見せます!!」
トーマスさんがホワイトサウンドの名前を出した瞬間、周りが静まりかえりました。私の記憶違いで無ければ「ホワイトサウンド」は新進気鋭の三ツ星冒険者パーティだったはず。思わぬ当たりを引いたかな?と思ったのも束の間、突然肩を掴まれました。振り返ると、筋骨隆々とした大男が立っています。
「おい兄ちゃん、こんなヒョロッちいお嬢ちゃんなんかじゃなくて俺と組もうぜ」
まあ、こうなりますよね。正直、試験のために用意されるレベルのダンジョンなら私1人でもクリアできる自信があるので、特に腹も立ちませんけど。
「えっと、ごめんなさい。もう約束したので、僕はこちらの方と組みます」
「ああ、そうかい。俺と組めないってんなら……お前はもう敵だなぁ!!」
男は突然トーマスさんに掴みかかりました。しかし、トーマスさんは流れるように男の手首を捕まえると、ひねって地面に押さえつけました。ホワイトサウンドに在籍していたというのは嘘じゃ無さそうです。
「おい、こいつ結構
「今のうちに潰すか。囲め囲め!!」
瞬く間にトーマスさんを受験生達が囲んでいきます。
「えっ、えっ。なんで?」
「……例年、最終試験は受験者同士の戦いって噂があるので、あんまり目立ちすぎるとリンチされますよ」
「そんな!?」
これ、助けた方がいいんでしょうか。別にそこまでする義理はありませんが、まあ袖触れ合うも多少の縁って奴ですか。
「えーっと。そこのお兄さんは私の相棒なので手を出したければ私を倒してから行って下さい」
「テメェみたいなザコ眼中にねぇよ!!」
なんて叫びながら、集団の中の何人かは私の方へ向かってきてくれました。これがツンデレって奴ですか。
「宣誓、僕たち、私たちは慣れ親しんだ相棒と共に、全力を尽くして戦うことを誓います。よろしくお願いします、『黒縫い針』!!」
黒縫い針の力が解放されました
向かってくる連中の足下を片っ端から突き刺していく。
「おいおい、どこ狙ってんだよ……あ?」
「おい……なんか身体が……!!」
私のレイピア『黒縫い針』は相手の影を突くことで金縛りに出来ます。チンピラどもを黒縫い針で片付けた後トーマスさんの方へ向かうと、そこには先ほどまで彼を囲んでいた連中が関節を外されて転がっていました。これ別に私の手助けいらなかったですね。
「ありがとうございます。えっと、お名前を聞いてもいいですか?」
「私はルナ・アルテミスです。最近までバラン王国中央教会で聖女やってました」
「ルナさん、組んでくれてありがとうございます。またさっきみたいな連中が来る前にさっさとダンジョンに入りましょう」
「いやー、それは大丈夫じゃないですかね?」
私が言うのと同時に、会場に轟音が轟きました。
「ほら、もうこの会場にそんなこと出来る人全然残ってませんよ」
私が指さした先では、さっきまで他の受験者を囲んでいた連中が地面に転がっています。死んではいないですよね?多分。
「テメェらごとき何億人いても変わらねぇよ」
先ほどの轟音の原因は恐らくあの人。最強のスキルと名高い雷を操る
「マズい……コイツのもマズい……」
会場を練り歩きながら倒れた受験生に噛みついているのは吸血鬼の末裔ブラド・トラウド。歴とした戸籍もある一市民なのに何度も中央教会に討伐願いが出されるきな臭い人です。
他にも剣術の腕前は既に一流と評される姫騎士クレア・プラウダやらアドドネア地方で幅をきかせている暴走族「レッドコング」の
「凄いなぁ……僕以外の『黄金世代』は」
「ホワイトサウンドに入った時点でトーマスさんも十分勝ち組じゃ無いですか。ほら、そろそろ行きますよ」
何やら無駄に落ち込んでいるトーマスさんを引きずり、私たちは模擬ダンジョンへと向かいました。
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