第8話 サダミツとトキヒコ、ノチィヒ星人と出会う
気がつくとサダミツとトキヒコは、緑色の光に包まれた空間にいた。
「ここは?」
目を凝らすサダミツの前にはシールドのような透明な仕切りがあった。その向こうに数人の人影が見える。
仕切りが開くと、緑色の肌をした人間型の生物が入ってきた。性別があるのかは分からないが、宇宙服のようなスーツを着ている。生物はトキヒコを見つめると、右手の中指にはめた赤い石の付いた指輪をトキヒコに伸ばした。途端にトキヒコの額が光り始める。
「ようやく会えました。あなたがケセルの子孫ですね。私はケセルを保護していた研究所員の子孫、ラヤニです」
翻訳機を通しているのだろうか、スーツのスピーカーから声が聞こえる。
「僕はトキヒコ・トリイ、隣は先輩のサダミツ・キョウゴクです」
トキヒコは右手を開くと緑色の石を見せた。
「あなた方がノチィヒ星人ですか。『ケセル』は僕たちの星、地球の事ですよね」
「ケセルから話を聞いていたようですね」
(そうか、『ケセル』っていうのはさらわれたご先祖の向こうでの名前だ)
サダミツはトキヒコに見せてもらった
ラヤニは指輪から記録映像のような物を映しながら話し出した。
「私たちはかつて様々な知的生物のいる惑星に行き、生体研究兼私たちがいずれ正式に接触する際のメッセンジャーとするため、ノチィヒの研究所で異星人の子どもたちを保護していました。しかし、その後政府が変わり、異星人との接触を禁止したのです。研究員は子どもたちの記憶を消し、それぞれの故郷に戻しました。その際、追跡するためのマーカーを遺伝子に埋め込んだのです。その起動キーがあなたが持っている石でした」
「でも、調べたらただのガラス石だと言われましたよ」
トキヒコは石をつまみ上げる。ラヤニはその石を見つめながら答えた。
「ケセルは何らかの理由で起動キーを体内に吸収しマーカーを停止させたようですね。しかし、宇宙に出れば強制的に再起動するようになっていました。我々は異星人との接触が再開される日のために、マーカーが子孫に受け継がれていると信じて探知を続けていました」
「そうだったんですね。では何故ケセル、いえ士さんを選んだのですか」
「我々の円盤を目撃したためと記録にはありました」
トキヒコは石を握りしめるとラヤニを見つめ、厳しい口調で言った。
「偶然とはいえ、子どもの彼を故郷から連れ去り、過去を奪ったことは許されない事です。それに関してどう思っているんですか」
サダミツは普段のほほんとしたトキヒコの意外な一面を見た気がした。
(トキヒコ、お前が宇宙人に会いたかったのはこの問いのためだったのか)
ラヤニは記録映像を止めるとトキヒコの前で両手を広げた。
「これが我々の謝罪の仕草です。このような事が二度と起きないよう、政府は異星人との接触を現在まで禁じています」
トキヒコは微笑むとラヤニの右手を握りしめた。
「あなたの謝罪の気持ちは伝わりました。これが地球の和解の仕草です」
「俺も一つ聞きたいことがある。ノチィヒ星の太陽は、緑色と赤の連星なのか」
サダミツは引っかかっていた疑問をラヤニに切り出した。
「先輩も連星の夢を見たのですか」
トキヒコが驚いてサダミツを見る。ラヤニは指輪からサダミツが見た連星の映像を宙に映し出した。
「その通りです。その夢は我々がケセルの子孫に送ったメッセージです」
「では何故、子孫でない俺が夢を見たんだ」
サダミツの問いに、ラヤニはイメージを消してから答えた。
「ケセルを故郷に戻す際、成長した彼に合わせて、かつての現地調査で生体データを取った複数のケセル人の記憶を埋め込みました。もしかしたら、あなたの先祖がその中にいたのかもしれません」
「確かにケセル、いや
サダミツはうなずいた。
話を聞き終えたトキヒコは真剣な眼差しで口を開いた。
「それで、あなた方は僕たちをメッセンジャーにしたいのですか」
「残念ながら政府は今も異星人との接触を許可していません。この訪問は我々の独断です。現在我々の太陽は衰え始め、ノチィヒ星人も全盛期より停滞し、種としての終わりが始まっているという学者もいます。現在自分の太陽系まで活動圏を広げているケセル人が、いずれは外宇宙に進出する日が来るでしょう。その時が来たらぜひノチィヒ星を訪ね、あなた方のような若い種族に我々の技術や知識を受け取ってもらいたいのです」
ラヤニは指輪をトキヒコの前に差し示した。
「その石を見せて下さい」
トキヒコは緑色の石を手のひらにのせて差し出した。ラヤニは指輪をその石に当てる。石は緑色に一瞬輝き、元に戻った。
「この指輪に入っているノチィヒ星のデータをコピーしました。額に当てればデータを取り込めますが、判断はあなたに任せます」
「分かりました」
「それと、あなたにはこれを」
ラヤニは指輪を外すとサダミツに差し出した。
「トキヒコと同じマーカーの役割をこの石がします。ケセルの技術で中に入ったデータを解析できれば、ノチィヒ星に行く道も開かれるでしょう。あなた方か、あなた方の子孫が私たちの星を訪ねる日が来ることを楽しみにしています」
サダミツは指輪を受け取り、自分の中指にはめた。
「期待にこたえられるかは分からないが努力しよう。その前に、まずは太陽系の平和を守らないといけない。あなたに一つ頼みたいことがあるんだ」
「何でしょうか」
「我々の乗っている哨戒艇は現在遭難中だ。我々の基地がある第四惑星近くまで船ごとワープさせることはできないだろうか」
「先輩!」
トキヒコの顔色が変わった。あわててサダミツの袖を引っ張るが、サダミツはその手を遮った。
「分かりました。我々はもうノチィヒ星に戻らなければいけません。最後にあなたの希望をかなえてから旅立ちましょう」
ラヤニは仕切りの向こうに消えた。トキヒコは困ったようにサダミツを見上げる。
「僕が先輩を『タイタン』に運び込む時、ケルブさんが『整備はバッチリしとくぜ』とウインクしたんです。もしかして何か仕掛けがあるのでは」
サダミツの脳裏に、いつものケルブのウインクする姿が浮かんだ。
「ああ、『タイタン』の機器を一番知っているのは奴だ。どうやら俺もだまされたようだな」
再び緑色の光が二人を包み込んだ。
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