第9話 サダミツとトキヒコ、火星基地解放隊に加わる
緑色の光が消えると、サダミツとトキヒコは『タイタン』のブリッジに戻っていた。スクリーンには土星ではなく、火星と木星を隔てるアステロイドベルトが映っている。艇内は生命維持モードになっているようで非常灯が点っているだけだ。
(本当に火星近くまで送ってくれたのか)
ノチィヒ星人の科学力に内心感心しながら、サダミツはブリッジの計器に近づこうと歩き出す。その時突然、足下で女性の悲鳴が上がった。
「ウワッ!」
思わず後ずさったサダミツをヘッドライトを付けた顔が見つめる。後ろからのぞき込んだトキヒコが驚きの声を上げた。
「メグメグ!」
「トキヒコ!」
勢いよく立ち上がったのは黒い縮れ毛の女性、メグミ・マーガレット・カワナだ。
「捕虜だった君がどうしてここに」
トキヒコの問いにメグミは早口で説明を始めた。
「ケルブ先輩が差し入れに紛れて私を逃がしてくれて、緊急脱出用ポッドに隠れてました。代わりに『タイタン』のサポートロボットが捕虜になってます」
「ここで何をしてたんだ」
サダミツの問いにメグミは手に持っていた工具ツールを見せた。
「燃料計の接続を回復させるんです。先輩にやり方を教わったんですがやっぱり難しくて」
サダミツはうなずくとメグミに手を差し出した。
「ツールを貸してくれないか。君は明かりを頼む」
サダミツは燃料計のカバーを開け、作業を始めた。
「俺は船長だ。『タイタン』のトラブル箇所は大体把握してる。もちろんケルブもだ」
「ケルブ先輩は僕を気絶させてここに運びこんだ後、わざとトラブルを起こして燃料切れになるよう仕組んだんですね」
関心するトキヒコにかまわず作業を続けるサダミツは、燃料計カバーの裏に紙切れが差し込まれているのに気づいて引っ張り出した。
「ン?」
広げた紙切れを見たサダミツは、うなずくと制服のポケットに紙切れを突っ込んだ。
「でも、いきなりブリッジが緑色に光って、光が消えたらトキヒコ君たちがいたんでびっくりしちゃった。一体どこにいたの」
メグミの問いにトキヒコは一瞬考えてから答えた。
「ちょっと外で捜し物をしてました。このベンダントが光ったときはいいことがあるんですよ。ご先祖から受け継がれた宝物です」
その時、ブリッジから新たなメッセージが流れた。
『残存燃料が60%に回復しました。生命維持モードから復帰します』
非常灯が消え、明かりがブリッジに戻ってきた。メグミがヘッドライトを消す。
「良かった。これで一安心ね」
サダミツはポケットの紙切れを取り出すと二人に話しかけた。
「本部への暗号通信用コードだ。ケルブは司令官からこれを聞いて『改革隊』の動向を本部に伝えてたんだろう」
「僕や先輩の動きもみんな筒抜けだったんですね」
トキヒコは苦々しく笑った。
「そういえばケルブ先輩が『今日15時にくる補給艇に合わせて本部が火星基地奪還作戦を決行すると伝えてくれ』と。後、これを返すって」
メグミは腰のポーチからサダミツとトキヒコのレーザーガンを取り出し、二人に渡した。
「ケルブが回収しといてくれたんだな。よし、我々も本部に連絡を取って作戦に加わるぞ」
「ではもうこれは邪魔ですね」
トキヒコは『改革隊』隊員の印である腕章をもぎとるように外す。サダミツも腕章を外してポケットにねじ込んだ。
サダミツはパイロットシートに座ると暗号通信用コードを使って本部に通信を送った。
「こちら哨戒艇『タイタン』、キョウゴク船長以下2名、火星基地からの脱出に成功しました。これから人質救出に合流します」
「了解、14時55分に火星基地奪還作戦を開始するので後方援護を頼む」
自分の腕時計を見たトキヒコは声を上げた。
「先輩、もう14時15分ですよ!」
サダミツはパイロットシートに座ると現在の座標を特定し、火星基地との距離を測定した。そのまま二人に指示を出す。
「ここから30分以内で基地に向かう。カワナ隊員はサポートロボット用の固定シートに座れ。トリイ隊員はレーザー砲で障害物を排除してくれ」
「了解です。メグメグ、僕の腕前を見てて下さいよ」
(シミュレーターではトキヒコに負けたが、ここで挽回だ)
得意げなトキヒコの声を聞きながら、サダミツは操縦桿を握った。
「タイタン」は火星基地への最短ルートを突っ走った。トキヒコは進路を妨げる隕石やデブリなどを的確に排除していく。サダミツは操縦をしながらも、火星基地へ向かうエラミスグループの補給船がいないかレーダーを気にしていた。
(エラミスグループの船だし、護衛用にレーザーガンくらいはあるだろう。出くわしてエラミス副長に気づかれたらまずいな)
前部モニターに火星基地が見えてきたところでサダミツは「タイタン」を待機モードにした。本部からの奪還部隊はまだワーブしてきてないようだ。メグミが時計を見る。
「現在14時40分よ。さすがね」
感心するメグミにトキヒコは胸を張った。
「僕とキョウゴク先輩がコンビを組めば何でも出来ますよ」
「先輩後輩コンビか。私もケルブ先輩と……」
メグミが言いかけた時だ。突然基地のそばにワープアウトしてきた宇宙船がモニターに映った。
「無茶なワープだ。本部の先遣隊か?」
あきれながらつぶやいたサダミツは、次の瞬間叫んだ。
「いや、エラミスグループの船だ! 予定より早く動いてるぞ」
「先輩、急ぎましょう!」
トキヒコの声を遮るようにサダミツは指示を出した。
「カワナ隊員、本部に通信を入れてくれ。俺たちであの船を引き留めるぞ」
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