気づき傷つき...
「失恋しちゃった感じかな〜。はは」
『あの人と付き合いたい。』
「...でもまだ、...大丈夫だと思う。」
「?」
僕は一体、何を言っているのだろうか。
「だってまだ付き合ってる訳でもないし。彼も、気になってるだけでまだなんの進展もないんだと思うよ。」
「なるほど!」
先程見せた彼女の作り笑顔が、やたら嬉しそうな表情になる。この選択があっているとは思わないが、彼女が楽しそうならそれでいいかと思ってしまった。
「とりあえず、高田くんとの繋がりを作ろうか。」
「うん!」
元気の良い返事が返ってきた。
こんな恋愛相談なんかしていなかったら今ももう少し落ち着いた彼女と会話ができていたかもしれない。
しかし、核心に触れてしまった僕には、教室にいる時よりも濃い黒髪を向けられている気がした。
樺沢さんと作戦会議をした後。彼女を高田くんの心の中に入れるべく、早くも昼休みに作戦を実行した。
その作戦とは、
「うぉぉぉぉー!!うぁあ!!!」
先生に頼まれた書類運搬中に、彼の前で盛大に転ぶというものだった。クラスが別の人に関わりを持つための一番ベタな方法だ。高田自身、優しいから絶対に助けるはずだ。
「大丈夫ですか!?」
「ァ、アリガトウゴザイマス!」
彼女と彼の手が同じ書類の上で重なり、二人して、あっ! と言う。
その光景は傍から見ていてニヤニヤしてしまうほどのラブコメだった。
「これ何処に運ぶの?」
「エット、リカジュンビシツッテ、イッテマシタ。」
しまった! 彼女がシャイなのを忘れていた。
「リカジュン...、理科準備室か!」
「!?」
「あ〜、手伝うよ! 早く行こうぜ!」
「///」
高田くんの後ろについて歩く樺沢さん。これから仲が悪くなるはずがないだろうと言わんばかりに見えた。
数日後、あれ以来一切会っておらず、名前すら教えていないらしい。なんてことだ! 先が思いやられる。
次の作戦をを考えねばならないと思うが、どうしたものかと悩んでいると以外にも彼女は積極的だった。
彼女は当たって砕けろ方針が割と気に入ったようで、とりあえず彼の前で何がする。と言うのを試す事にしたらしい。ついため息が出てまう。
僕はそのやり方をあえて否定した。
「そんな事したら気が付けばドジっ子扱いで、妹みたいに見られちゃうんじゃないかな? それに、それじゃ時間がない。」
「時間が無いか〜。」
今のは肝を冷やした。つい滑らせたその言葉を彼女が繰り返したから余計に驚く。
「何か考えある?」
「・・・」
結局、彼女は高田くん前でイベント次々に発生させては僕との反省会。次の案を考え、話し合ってはあーじゃないこーじゃないと言い合っていた。
ある時僕は気づいた。それは樺沢さんの影の声が聞こえてから、三ヶ月が経とうとしていた時だった。
彼女の影は未だに『あの人と付き合いたい。』と呟いている。
願いが叶えられていないのと同時に、彼女が死んでいないということに疑問を持った。
どうゆう事だ? 今まで聞こえた影の声の持ち主は聞こえてから、数日後に亡くなっていた。一ヶ月すら持たないことが多かった。
なのに彼女は三ヶ月生き続けている。
彼女と死んだ人は何が違う?...
僕は一つの結論を導き出した。それは、
「影の願いが叶うと死ぬ。」
というものだった。
あのサッカー少年も、あのサラリーマンも、あのパチンコ中毒者も、全部僕が殺したのか?
頭の中は願いを叶えた人の顔でいっぱいになった。僕が首を絞めているとも知らずに彼らは一生忘れないとでも言うようにお礼を言った。
彼らの感謝を裏切ったのか? 頭が痛くなる。冷静ではいられなくなる。自分でもそれがわかる程度に変化は大きい。しかし冷静ではいられない。
脳裏に樺沢さんのことがよぎる。
彼女は今日も高田くんに向かってイベントを起こしていた。着実に仲が良くなるのがわかっていた。
どっちも好き同士なのだ。当たり前に決まっている。
待って! それ以上先に行かないで、手を伸ばした僕は......
間に合ってはいなかった。
なぜなら、高田が彼女に好きです。と言ってしまったからだ。その言葉はまるで自然に放たれたかのように聞こえた。
それは二人の手が重なったタイミングだった。
こうやって、恋に落ちるんだ。という場面を目の当たりにした。
...『あの人と付き合いたい。』
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