影の声の主

あの場面で、割り込めるほど僕は野暮ではなかった。幸い、彼らにはまだ見えない場所で、僕は話を聞いていた。


あれからずっと識別することの出来ない彼女の髪色は僕に寂しさを残す。


僕はそっとその場を後にした。


「ごぉっほ、ぉっほごぉっほ、、、はぁ、はぁ、スーーーーはぁー。」


呼吸が乱れて、戻らない。心拍が早まる。視界がグラつき、直に白く飛び始めた。頭が、ホワホワして、僕は教室の机でうつ伏せになって意識を失った。




気がつけば白い空間にただ一人いた。床もないし、声も響かない。まるで、そこのない水の中にいるみたいなのに、息苦しくもない。


全てが非現実的で、死後の世界と錯覚してしまいそうになる。


「お前がさとし殺したんだ!」


あ゛ぁ!


いきなり聞こえたその女性の声は、大きな針となって、僕の右肩を貫いた。


「お前がうちの社員を!」


あ゛あぁ!!


会社員の男性が同様に右腿ももを貫く。


「お父さんを!」

浩太ひろたさんを返して!」


幼い女の子とそのお母さんの声が左脇腹と左耳を...


それから次々に刺さり続けてくる言葉はりは僕に罰を与え続けた。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんな...」




“...宮くん、...之宮くん、.....陰之宮 たけるくん! ”


目を覚ますと、樺沢さんと保健室の先生がいた。


目を覚ました僕を見て先生は少し安心したのか、樺沢さんに声をかけ部屋を出ていく。


部屋を出ていった先生を見送った樺沢さんは僕を心配そうに眺めていた。僕のおでこに手を伸ばし、濡れタオルを冷やしてくれる。


『あの人と付き合いたい。』


「なんで?」


「何が?」


「いや、なんでもない。」


「ふぅ〜ん。...私、高田くんに告白されたんだ。」


「え、あ〜うん。...良かったね。」


「断ったの。」


その一言を聞いた時、やっぱり何を考えているか分からない人だと思った。


「私、いつの間にか、あなたを好きになってたみたい。」


彼女の顔は、桜桃サクランボのように赤くなっていた。


僕はこの子には似合わないと思った。こんなに自由で綺麗な子には、人殺しなんて...


彼女に僕は告げた。今までのこと事を告げた。


彼女をずっと見ていたことも。影のことも。僕が殺してしまった人達のことも。全て話した。


彼女に嫌われるために。


しかし彼女はそんな僕を拒絶してはくれなかった。


むしろ僕のことを持ち上げてばかり。


「君のおかげで」とか、「救った」とか、「悔いなく」とか、「君のせいじゃない」とか。


気がつけば僕たちは泣いていて。涙を拭き終わった頃には目を腫らしていた。


時間時計を見ると、時刻は6時30分。季節は冬に差しかかる頃。


サンタのために早く寝る太陽。部屋の明かりだけを頼りにする時。


「僕と付き合ってください。」

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