思考の日々

 僕は、家にある本を適当に読んだ。

 樺沢さんの気持ちを知るために...、能力の意義を見つけるために...。


 しかし、成果は得られなかった。

 折角早起きをしたのに無駄になってしまった。


 学校に着くと樺沢さんの髪は薄くピンクがかっているようないないような、それとも錯覚してるだけなのか、だんだん分からなくなってきていた。


『あの人と付き合いたい。』


 聞きたくない、とまでは言わないが気持ちとしては複雑だ。...少し期待したくなる。


 意識してしまい、彼女のことを何度も見てしまう。そしてこんな時に限って、誰かが僕の視線を察知しているのだ。


「おぉ〜!陰之宮かげのみやく〜ん!もしかして樺沢さんのこと好きなのぉ〜?」笑


 挑発をしてきたこいつは、僕の中学からの話し相手で、ことある事に暇を潰しに来る。普段話しかけてくれる人は、この人しか居ないぐらいには重宝している人物だ。


「どうした?」と淡白な反応を見せると、「うぉ〜! 逆に怖い!」なんておちょくるような反応を見せる。


「陰之宮、前より少し明るくなった気がするから、何かあったのかなって思って声掛けただけ。まぁあんま変わって無さそうだけど。」笑


 「なんだそれ?」と鼻で笑たら彼は授業が始まるからと言って去っていった。


今日は頭がもやもやしてテンションが低いと言うのに...。




 休み時間になり、樺沢さんが非常階段に出た。僕はそれを窓から見て彼女の髪色が朝見た時と変わらないことを知ってしょげるが諦めて彼女に話しかける。


「樺沢さん、こんにちは。」


「こんにちは♪ 陰之宮さん。どうかした?」


 ニコッとした彼女の顔がどう変わってしまうのかわからない分、緊張で胃が熱を帯びる。


「好きな人、...いるの?」


「え!? なんで知ってるの?」


 意外とあっさりした反応だった。


「分かっちゃったか〜。そうだよね。...私、隣のクラスの高田くんが好きなの。」


 高田...あ〜あのスポーツ万能で有名な彼か。


「やっぱりそうだったんだね。でも彼のどこが好きになったの?」


 まるで知っていたような口調で僕は話をする。


「一目惚れだったのかな?」


 僕と一緒だ、気が合うね!なんて思わない。皮肉な事に同じ理由なんだと思う。


「話したことないけど、人目見た時に私は彼が好きなんだなって思った。だから彼が好き。」


 彼女の言葉に偽りがないのは最初からわかっていた。しかし、直接聞くと結構来るものがある。僕はそれを誤魔化すために提案をした。


「うん。...じゃぁ、僕が君たちが付き合えるように手伝ってあげるよ。」


 彼女はなにか言いたげにした気もするが、僕の提案に乗ってくれた。


 時々。今までは本当に時々話すだけだった僕達。つい声をかける時も月に一回あるかないか。それもそもそもストーカー行為みたいで気が進まなかった。


 なのに気づけば話をもちかけることが出来ている。話が上手いこと進んでいるこの状況に、僕は僕自身を嫌いになりそうだった。




 今朝表紙につられて読んだ本が「恋愛マスター完全解説」という本だったことを思い出す。


 そこには最初は互いを知ることと書いてあったのを思い出したので、僕は早速高田くんに声をかけた。


 僕自身も彼と話したことなんてなかったけれど、樺沢さんはシャイだから、予め僕が調べておく必要があると思った。


 昔に読んだスポーツ紙の知識がここで役立つとは思ってもみなかったが、スポーツ好きという印象を彼に与えることが出来たのではと思う。


 他にも彼についての話を聞こうとは思ったが、さすがに会話が得意では無い僕に、話しかける行為は、こう何度もできるような行動ではなかった。




 帰り道。影の声が聞こえる。それは、僕の手には余る内容で、疲れていた僕はその言葉を切り捨てた。


 人助けと言えど、僕自身が壊れてしまっては仕方ないよね。という言い訳をいい事に、それから数日、僕は高田くんと仲良くなれるように行動をした。


 彼女の願いだけを叶えるために。




 事はいい方向に進み、僕と高田くんは授業外でよく話すようになっていた。分かったことは彼は普通に良い奴であるということ。そして、彼も樺沢さんのことが気になっているという事。


 確信した。僕の立ち回りは終わったと。


 樺沢さんに、「高田くんも君の事を気にしているから告白すれば成功すると思うよ。」と言えばこの影の問題も解決するだろうと。


 次の日。僕は樺沢さんに声をかけた。いつもの非常階段で。


「やっほ。」


 僕が今日ここに来ることを知っていたように髪の色の変化を見せない彼女。


 僕は息を“スー”と深く吸い、落ち着いた心で彼女に伝えた。


「高田くん。気になる子がいるんだって。」


「!」


 その言葉は嘘では無い。しかし話の流れ上、彼女にはに聞こえていただろう。僕は「樺沢さんが気になっている」という内容を避けて話していたのだ。


「そっか〜、もしかして私、失恋しちゃった感じかな〜。はは」


 いつにも増してぎこちない笑顔。いつもなら僕にとっては嬉しい表情だが、さすがにそうは思えなかった。

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