第25話 強欲2
「では」
その強欲野郎が呟いた瞬間、僕は壁にぶち当たっていた。腹部に穴が開いたぐらいの痛みが走った。青年をなんて呼ぶか迷うが、強欲でこれからは統一しよう。
「………ふう」
痛みに耐えつつ考えた。勝てる気はしない。まず動きが見えない。速さは多分、アンナさん以上。まあアンナさんの方が速ければ、それはそれでおかしいと思う。
「何故だ?何故俺の攻撃が効いていない?これは、分身ではなく本体でやってくれば良かったか?」
ただ、負ける気もしない。強欲は首を傾げていた。まあ、強欲を倒せなくても、とりあえず負けはしないから聞ける限りの事を聞き出そう。このクラスの強い人物ならこの世界の重要な何かに関わっている気がする。それにこの圧倒的な雰囲気は、僕をここに飛ばした、青年に似ている。だから、まあとりあえず、どうにか話をしよう。
「どうやってここに来たんですか?」
そう僕は強欲に尋ねた。
「あっ?普通にダンジョンを上から順にクリアしてきた。ここに面白いやつがいると聞いたからな、まあ多分、お前のことだろう。」
そう強欲は笑った。僕がここにいるというのを知っているのは、多分僕をここに追いやった人物。あの不気味な青年ぐらいだ。
「誰から聞いたんですか?それは、誰から聞いたんですか?」
気が付けばそう叫んでいた。
「あぁあ?新人の嫉妬の野郎が………そんなことは、どうでもよい。なぜ俺の攻撃が効かない?俺の攻撃は、この世界でも、他の世界を含めても最高峰だぞ。俺が分身で手加減をしていても無傷は異常だ。なぜだ、俺の力は絶対的。」
どうやら、序盤の村の村人がラスボスに挑んでいるのと同じ状態らしい。
新人の嫉妬………「案外戻って来るのが早かったね。ああ、嫉妬する。」僕をここに追いやった不気味な青年のそんなセリフを思い出した。今ここにいる強欲の人と恐らく僕を飛ばした人物は知り合いか。
でも、なんで僕を追撃するような真似をする。そもそも、なぜ僕が生きている前提なんだ?分からない?意味が分からない。この人物は間違えなく敵で、僕をここに飛ばした青年も敵だが………目的が意図が意味がさっぱり分からなかった。この人たちは何なんだ?
考えろ、僕。思い出せ、不気味な青年の発言を…………確か、青年は正体を訪ねた時に「私は、まあ君と君らと似たようなものだ。」そう言った。似たようなもの……
そういえば、さっきの強欲の発言。「この世界でも、他の世界を含めても最高峰だぞ」まるで、他の世界を知っているような発言。似たようなもの…………まさか。
「科学って知っていますか?」
いろいろ考えた結果そんな素っ頓狂な質問になってしまった。でもこれは大事な質問だ。
強欲は首をかしげてこちらを睨んだ。それから不敵に笑みを浮かべた。
「科学、俺は、嫌いだよ。……なるほど、なるほどな、お前異世界から来たのか。ああ、なるほど、これは、俺の力の糧としてはちょうどいい。お前を殺すことは、俺らに力をくれた人のメンツを立てることになる。ははははは。なるほど、嫉妬のやろうなかなか良いことを教えてくれた。」
僕をここに飛ばした青年も、今目の前にいる強欲も、だいたい400年前にこの世界にやってきた異世界の勇者だ。なんで400年生きているのかは不明だが、それは良く分からないが、まあ、知り合いに400歳は超えてるエルフいるし関係ないか。いろいろ謎はあるが、少なくとも帰るためのきっかけは掴めそうだ。
「僕は死なない。でもとりあえず話し合いとか出来ませんか?」
まあ、話せば分かるかもしれない。
「はぁあ?」
その強欲の言葉とともにもう一度壁に衝突していた。ああ、これは会話成り立たないやつだ。知ってたけど。とりあえず、情報を集めることは諦めよう。
見えないけどひとまず剣を構えた。絶対に僕から攻撃しても当たらないと思う。それなら殴られて痛みを感じた瞬間に思いっきり剣を振ればよい。
「ふう。」
深く息を吸った。
「俺の攻撃がなぜ通じない。まあ、良い。………『強欲』」
そう強欲が強欲と叫んだ。怖いんだけど。何?
何も起きなかった。怖いんだけど、何?
「えっと、はい?」
その間に耐えることが出来ずに呟いた。
「何故だ?何故、大罪の力が通用しない。ああ、もう面倒だ。ダメージが通じるまで攻撃するだけだ。」
そう言って強欲はひたすら僕を殴り始めた。反撃する隙なんてない。なにこれ?どうするの、全く見えないが、ひたすらボコボコにされているのか。痛みはあるから、そうなんだろうな。それで、さっき分身って言ってたよな。確か分身はスキルで見た記憶がある。
スキル 分身 スキル辞典より
魔力を使い自身を分割する能力。魔力量と耐久値以外は本体と同等のスペックである。耐久性と魔力量は分身の数が増えれば低下する。
本人の技量が高ければかなり有用なスキルである。
つまり、攻撃を当てるか、魔力をなくせばこの人物は消えると。攻撃を当てるのは不可能だから、魔力がなくなるのを待つしかない。この動きで多少は消費しているだろうけど。多分他のスキルを使わせる方がまだ現実的か。
攻撃を食らいながら叫んだ。
「どうやら、殴るしか出来ないらしいですね。強欲の先輩は、欲深い癖に馬鹿の一つ覚えみたいに行動することしか出来ないんですね。」
その言葉を聞いた強欲は動きを止めた。
「あまり、舐めるなよ。ガキが、俺の力を強欲の力を見せてやるよ。それでお前を殺して、俺の力の糧にしてやるよ。」
次の瞬間、僕の全身は燃えていた。
その次の瞬間、僕の全身は凍えていた。
その次の瞬間、僕の全身は電撃で覆われていた。
その次の瞬間、僕は大きな岩に潰されていた。
その次の瞬間、何ともなかった。
「あん?、なるほど、貴様には通じない能力があるのか。まあ良い、いくらでも攻撃手段はあるからな、さあ、まずは壊れないサンドバックにでもなってもらう。」
強欲はそう叫んだ。
おかしい、明らかにスキル4つ以上使ってる。おかしい、なんだ、チートかよ。まあそれはこちらもそうか。
長き戦いが幕を開けた。
大量の様々な、多種多様な、異常に多い方法で攻撃を受けながら、反撃を試みてみてカウンターを食らいつつ、凄い時間が流れた。
今まで全く目で終えてなかった、強欲の動きが目が慣れたのか、自分の目のポテンシャルを引き出せるようになったのか、どちらかは定かでないが、動きを多少見えるようになった。それまでになるぐらいの時間が経過した。魔力量が多すぎるだろ、マジで。
突然、攻撃が止まった。それで、強欲は口を開いた。
「用事が出来たのでお開きだ。お前名前を何という?」
「えっ、寺坂 徹です。」
そういうと強欲は笑いながら
「俺の名前は、確か川野 レイジだったと思う。次は次に会うときは、分身などでなく本体でお前をキッチリ殺して、俺の力の糧にしてやる。」
そういった。どうやら、見逃してくれるらしい。
「一生、会わなくてもいいですから、そんなことより、どうしてあなたは400年生きてるんですか?」
一か八か尋ねてみると、
強欲は、笑った。
「強欲だな。ははは、教えてやるよ。それは封印されていたからだ。」
そう言い残して強欲は消えた。よしこれで、次の階層に進める。
「ギャア、グァアアア」
ドラゴンの声が聞こえた。復活している。ああ、そうか、このドラゴン倒さないといけないのか。
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