第17話 エルフと訓練と 2
訓練を初めて2ヶ月が経過した。
「もう無理だよ。徹さん。諦めなって、それより魔法の勉強しましょ。」
重たい岩を持ち上げるなんて無理だった。でも
「魔法の方が余裕で無理なんで、なんというか理解が出来ないんですよ、全く。」
別にルナさんの説明が悪いわけではなくて、内容が難しすぎる事もないと思うのだが、魔法の話そのものが良くわからないというか、多分、魔法とスキルを同時に使えないし、上手く理解も出来ないのだ。
「私は、君の行動がずっと理解できてないよ。なんか重たい岩を持ち上げようとしたり、いきなり結界の外に出て、それでクマに結局ボコボコにされたり、何がしたいんですか?」
後者は、しびれを切らして、もしかしたらクマ倒せるかな?って思って戦いに行って返り討ちにあっただけである。まあ数匹は倒せたので成長はしているはずだ。
「僕が今したいことは、このダンジョンから出ることです。今すぐには無理なので訓練しているんです。」
それが今の僕の最大の行動目的だった。
「無理です。無理。私が二人いても多分無理なんですよ。私より弱い君が少し強くなったとしても無理ですよ。」
ルナさんは諦めていた。でもダンジョンから出たくないわけではない気がする。それに無理なのは僕が一番分かっていた。
「無理でもしないといけないんですよ。僕は外に出たいんですよ。ルナさんだって、外に出たいんじゃないですか?」
そういうと彼女は少し不機嫌な顔になった。
「出たいですよ。400年ぐらい、ずっと、ここにおいていかれた時からずっと、でも無理なんですよ。…………じゃあ私も徹さんの修行手伝ってあげますよ。」
そんな言葉とともに彼女の周りに無数の火の球体が浮かんだ。
「…………ここら辺ボロボロになりますよ。」
魔法の中身は全く理解で来ていないが、魔法の方がスキルより強い気がしてならない。
「心配ご無用です。大丈夫です。後で直すので」
ルナさんはニコッと笑った。なるほど、無限ダッシュが始まりそうだった。てかこれはもうルナさんのストレス発散だと思う。僕がどんな攻撃でも意味をなさないから、だからやりたい放題に訓練に付き合うといって攻撃をしてくる。
無数の火の球が僕めがけて飛んできた。まあ、これが真っすぐ一定の軌道で動くならまだよい。ルナさんがすごいのか、魔法がすごいのか分からないが、追尾機能がついている。着弾するか、消えるまで永久に追いかけてくる。多分、自分を保存して無敵状態じゃないと100回は死んでると思う。
「訓練にしては殺意が高すぎると思いますよ。全然関係ないで、熱っっ……関係ないですけど、魔法って技名とかないですか?」
数個の火の球を食らいつつそんな世間話をした。まあ、ルナさんがこんなに殺意が高い攻撃をされるのは、前に同じような状況で手加減したルナさんの魔法を全部よけて、それで煽りまくったせいだと思う。そりゃ、魔法大好きでそれを煽られたら次は本気出してくるよな。
「技名ですか?魔法を使うときにそれを言う必要ってありますか?考えるの面倒です。それに、ただ普通に、そこまで対してすごいことをしているわけじゃないので、普通の魔法なので、名前って言われても」
ルナさんにとってこの魔法は、多分、ただ剣を振るの同じなのだろう。まあ、確かに………名前なんてなくてもいいのか?でも
「名前あったほうがかっこよくないですか?」
魔法はなんかかっこいい名前があったほうが良いと思う。だって、魔法だよ。僕には全く理解も出来ないから、ルナさんの話は聞きたくないし、それは勘弁させてもらいたいが、魔法を見るときは話が違う。魔法はやっぱりかっこよくあってほしい。隠れた異世界へのあこがれが、押し込めていた感情が少し出てきてしまった。
「………………… 炎魔法 徹滅却」
ルナさんはそう言って右手に巨大な火の球を作り出した。大きさは半径5メートルはあるかもしれない。魔法の名前はあるが、なんというか酷いと思った。
「流石にやりすぎだと思いますよ。」
そういってよけようと走ろうとしたが、完全に角に追い込まれていた。魔法の攻撃で誘導されてるじゃん。アレ?じゃあこれ避けれないじゃん。確かにダメージはない肉体的なダメージはない。でも熱いことは、熱いからな。
「…………ごめんなさい、やりすぎました。」
ルナさんはそういうとその魔法を僕ではなく、天井に向かって放った。いや…………
「天井崩れますよ。」
その僕の言葉の通り、天井に軽く、くぼみが出来てそれでその周りの欠片がルナめがけて降ってきた。
「魔法で打ち返すので……」
その時、ルナさんはつまずいてこけた。まずい、このままだと上から降ってくる岩で…………、今僕と彼女の距離はかなりある。今の僕の走るスピードで間に合うわけがない。でも、次の瞬間、思いっきり地面を蹴っていた。ただ、ひたすらに、死ぬ気で走った必死に動いた。
そして気が付けば、気が付けば、こけたルナさんを抱えていた。
その時に、ズドンという鈍い音とともに岩の塊がさっきまでルナさんがいた場所に降り注ぎ、土埃がたった。
とりあえず、自身でも状況が飲み込めないが、抱えていたルナさんを降ろして、しばらく二人とも黙っていた。
「…………ごめんなさい、徹さん。ありがとうございます。ごめんなさい、ごめんなさい。」
しばらくしてルナさんが弱弱しくそう謝った。
「……まあ、誰もケガをしなかったですし。結果、オーライですよ。僕も一つ、コツをつかめたので。」
多分、さっきの動きは身体能力を引き出せていた。これが一回出来たことは大きい。感覚は何となくだが、つかめた。
「でも……」
それは、そうか、僕に魔法で攻撃をしなければ、こんなことにはなっていないから。
「それなら、ちゃんと本気で、このダンジョンから出るの手伝ってください。無理とか言わないで、それこそ、僕一人では絶対に無理なんで、助けてください。」
ルナさんは強かった。間違えなく、強かった。僕よりも強い人が一緒のほうがダンジョンをクリアしやすいだろう。
「………分かりました。約束します。徹さんの訓練も真剣に協力します。それに私もダンジョンをクリアしたら少し行きたいところがあるので。そこまで協力しましょう。」
ルナさんはそう少しの覚悟を持って言っているように見えた。
「じゃあ、とりあえず、このボロボロになった空間をどうにかしてくれませんか?」
そう言って僕はひとまず笑いを浮かべた。
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