第9話 始まり1

「おはようございます、徹様。シャーリー様なら今日は恥ずかしいから帰るって言って部屋に帰っていきましたよ。」

目が覚めると部屋のベットにいた。前にも似たようなことがあったが、今回は勝利しているからな。まあシャーリー様がいないのは良かった。普通に余裕で恥ずかしい。それに簡単にシャーリー様に治療を依頼していた僕が恥ずかしい。


「そうですか。」


「それにしても、顔が真っ赤ですね、徹様。大丈夫ですか?」

えっ、マジ。えっ。


「ああ、嘘ですよ。徹様。」

アンナさんはニヤッと笑った。性格が悪いと思った。


「…………そういえば優斗の神崎 優斗の試合がどうなったか知っていますか?」


「ああ、それなら、勝ったそうですよ。さっき来ましたよこの部屋に、神崎様と他数名で、徹様の意識がなかったので帰られましたが。あとはアルベルトがやってきて、『卑怯と言われても勝ちは勝ちだ。よくやった。後、パーティーのことがあるから気をつけるように』と言い残して帰りました。」

ああ、優斗は僕よりやはり余裕で元気だったんだな。流石というか。アルベルト?呼び捨てああ、同じぐらいの年齢なのか。


「アルベルトさんと知り合いなんですか?」


「知り合い……まあ騎士団に勧誘する人とそれを断る人って関係です。私はメイドが気に入っているので」


なるほど、彼女の言葉を聞いて食い気味に

「騎士団の方が向いてると思います。」

そう言っていた。


「……なるほど、徹様。明日から食事が要らないと考えても良いのですね。」

アンナさんは笑いながらそう言った。


「それは、困るので、前言撤回させてもらいます。まあ、とりあえず優斗のところに行こうと思います。」

月野に勝ったのは良いが特に何かが解決したわけじゃない。とりあえず、この国はきな臭いのでどうにか逃げる方法を探さないといけない、良い人もいるが、もうそういう問題じゃない気がしてきた。ああ、でもシャーリー様には、いろいろお礼とかまあいろいろあるしな…………でも逃げる方法を考えておいて損はない。


「では、お供したいと思います。まあいろいろ今は危険なので。」

確かにそうだった。それで、アンナさんと優斗の部屋に向かったのだが……





はぐれた、何故か、はぐれた。意味不明である。

「「なんで、はぐれるなんて事があるのだろう」」

呟いた言葉が重なり正面を見ると優斗がいた。なんか結果オーライだった。


「あっ、ちょうど良かった。優斗」


優斗はニヤッと笑い

「徹、お前大丈夫なのか?皇女とキスをして、ロリコン疑惑が出てるぞ。それに相川さんになんて説明するんだよ。」


コイツ……まあでもいろいろずれていた、相川さんとかいう優斗のヒロインには、もう遠く遥か昔に優斗のおかげで……失恋していた。主人公の友人には玉砕する権利すらないのだ。だから説明など不要だった。それにもう吹っ切れたし、いろいろ。

ロリコン疑惑に関してはなんでこいつ知ってるんだよ。アンナさんか?アンナさんな気がしてきたぞ。


「うるさい」

めんどうなのでそう言った。


「拗ねるなよ。まあでも勝利おめでとう、徹。どうやって勝ったかは知らないけど、勝利おめでとう。」


「それは、君もだろ。まあ、ちょうど優斗を探していたんだよ。」


「奇遇だな、俺もだよ。とりあえず、この国から逃げる方法を考えておこうって、準備をしておこうっていう話を俺は、徹としたくて、まあいろいろ決め手があるけど、徹は気がついているか?クラスメイトが一人消えた。」


同じことを考えていたらしい。それにしてもクラスメイトが消えた?、消えた。そういえば今日の試合、月野 はじめとの試合の時、彼と仲が良かった、元の世界で仲が良かった八雲 昴がいなかった。


「八雲 昴のこと?」


「………知っていたのか?徹。そうパーティーの前から、誰も会った人がいない、ついでに言えば、彼のメイドをしていた人もいない。消えた。」


そういえば、そういえばだ。

「めちゃくちゃスキルが弱いとか、雑魚とかを月野に言われていた。いや、でもだからなんで消える?それにメイドさんもいなくなるのがよく意味が分からない。」


「でもこの国に間違えなく、黒幕か、何かは分からないけど。俺らの敵がいる。それで、まずは計画と仲間集めだ。」

そういって優斗が壁に手を当てると壁の一部が凹んだ。

そして、壁の一部が開き道が現れた。うん?


「「えっ、隠し通路?」」

声がそろった。進んだら絶対にやばい、絶対にやばいでも、


「進もう、徹。やばくなったら全力で逃げよう。」


「了解。」

隠し通路は、暗くてよく見えなかったが、ほこりっぽくなかったので、多分、今も使用されている。しばらく進むと明かりがついた部屋のような場所が見えた。それと声が聞こえた。


僕らは息を殺して、近づいた。

そして、部屋のような場所の中を覗いた。

部屋の中を見た感想はあまりこういう表現が適切ではないが、気持ち悪かった。それと殺意が沸いた。

拷問部屋のような場所に、顔は見えないが、男性が一人立っており、それと無駄に際どい恰好をした女性が一人座っていた、手術台のような場所に何か異形の化け物が縛られていた。よく見ると女性が座っていたのは人間の少女だった。


その光景を見て、僕は怒りを必死に抑え込んだ。絶対に何かがあるのでそれを聞かないといけないからだ。それに隣で怒りを抑え込むために拳を強く握って血を流して我慢している優斗を見て、それで堪えた。それで、中で行われている話に聞き耳を立てた。


「やはり、君は趣味が悪いな。人間椅子にするとか?その少女は死んでいるのか?」

男性がそう言った。


「殺してませんよ、生きてます。あなたから貰ったメイドさんに私のスキルで姿が変わまでの変化をうけるか?私の所有物になるのどちらが良いか尋ねたら、椅子にでもなんでもなるって言ったから椅子にしているだけです。」

そう女性はつぶやいた。その声は聞き覚えが何故かあった。


「それが趣味が悪いと言っているのだ。」

男性の声的に結構年齢が上なのだろうか?


「そんなことを言ったら、皇帝陛下も趣味が悪いじゃないですか。エル教なんていうインチキ宗教を使って、国民の一部の潜在意識を操っているじゃないですか?真っ白な経典に暗示の仕掛けをして」

宗教も偽物で…………皇帝陛下だと…………ダメだ、この国はダメだ。


「皇帝陛下と私を呼ぶな。誰が聞いているかわからないではないか。それに私の方は、強制しているわけではないから、暗示も効かない人もいるからな。君のクラスメイトにも暗示が効かなかった奴がいるではないか。」

クラスメイト…………こんな人いたか?まあ、完全にこの国が終わっていることが分かった。


「まあ、誰かが聞いていたら私のおもちゃが増えるので嬉しいですけど。暗示が効かなかったのは、多分、神崎 優斗君と寺坂 徹君ですね。無視して大丈夫なんですか?陛下?」


「神崎 優斗はどうにかしないといけない。ただ一筋縄ではいかないからな。寺坂 徹は適当に殺せるだろ。」

…………まずい、本当にまずい。笑えない。


「でも寺坂 徹君は、陛下の娘の第3皇女のお気に入りですよ。殺せるんですか?」


「問題ない、あいつは失敗作だ。役立たずだ。」

皇帝陛下はそういった。役立たず。短気はダメだと分かっていても、命の恩人だからシャーリー様は


「適当に殺してみろよ。」

そんな風に表に出て思わず啖呵を切ってしまった。


「…………なぜ、ここを寺坂 徹がいる。殺さなければならないな。やれるか?結崎 心」


「もちろんです、皇帝陛下。私の可愛いおもちゃで、ぶっ殺してあげますよ。死体は私がもらいますからね。それで、寺坂さん、こんな所で何をしているんですか?」

ああ、分かった。今の言葉ですべて分かった。結崎 心と呼ばれる無駄にきわどい服を着た人は、いつもと正反対の見た目で最初分からなかったが、僕らのクラスの委員長の名前だった。


彼女が手を叩くと異形の化け物が起き上がった。それは人のように二足歩行で歩くが、肌が紫色の化け物だった。


いろいろ、考えないといけない事もある、今はそんなことより…………まずい、本当にまずい。どうする、どうする、考えろ。

「2人のうち1人でも逃げたほうがいいんじゃないですか?このままだと共倒れになると思いますよ。」

そう目の前の二人にバレないように、目の前の二人に告げるように優斗に言った。


そして、一瞬のいろいろ悩んでから優斗は、無言でうなづいた。共倒れだけは避けなければならなかった。


皇帝陛下は笑いながら

「調子に乗るな、雑魚が。ははは、まあちょうど良かった。すぐに走って逃げられるほうが厄介だったからな。」


皇帝陛下の強さは不明だが、しかし何か暗示をする手段があるのだから、強いことは間違えなかった。

委員長の強さは不明だが、まあ身体能力は僕より下だろう。

でもまあ、1番の問題はあの化け物である。あれは明らかにまずい。


ふう、整理しよう。今の僕の最大の目的は優斗を逃がすこと。そのための時間を稼ぐこと。次に、アンナさんかシャーリー様に危険を伝えて逃げてもらうこと。これは、もしかしたら優斗が後でしてくれるかも知れない。3つ目は、なるべく死なないことだ。死なないことに損はない。


はぁあ、まあでも僕みたいな奴が世界で爪痕を残すには、主人公の為に死ぬぐらいかもしれないし。ここで死ぬことにたくさんの後悔はあるが…………ああいや、こんなことを思わずに、死ぬ気で時間を稼ぎながら、死ぬ気で逃げればいいんだ。


「そうですね。委員長、いろいろあって迷ってしまって、何処に僕が向かえば良いか分かりますか?」

そういって笑って見せることにした。

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