第8話  決闘

それなりの準備をしていたら、決闘の時間になった。細かなルールや決まりは中立である委員長が決めたらしい。そうは言っても決めたのは決闘の場所だけであって、ルールなどはこの国の決闘の法式にのっとるらしい。


決闘のルールは

・相手を殺してはならない

・武器は木刀あるいはそれに準ずるものとする

・相手が降参する、もしくは気を失うと勝負を終える。ただし、圧倒的な差がある場合は例外的に勝負を終わらせる時がある


だいたいこんな感じである。ルールもあるので決闘場のようなところもあり、それなりの人がいた。まあクラスメイトも4分の1ぐらいいた。全員出ない理由は、僕がパーティー会場を出た後で、優斗が成瀬と決闘をすることになったかららしい。その理由が僕と関係あるらしいのであまり強くは言えないが、タイミングが悪いと思う。あいつと決闘の時間が被ったせいで僕の応援はほとんどいなかった。相川さんも辻堂さんもそのほかの人も当たり前のようにあっちの会場に行った。だから、僕の応援はシャーリー姫とアンナさんだけだった。少し複雑な心情になった。


「なんで、俺様の圧倒的蹂躙に、俺様の戦いでここまで人が少ないのだ。」

月野の野郎はそんな風に叫んでいた。


深く息を吸って、決闘開始の位置に向かった。手が少し震えていた。やっぱり、実感がなくても死にかけた恐怖は凄まじいものらしい。


「寺坂 徹、ここに来たことは誉めてやろう。はは、だがそれだけだ、才能と力の差を見せつけてやろう。」

才能と力の差は、間違えなくあるだろう。スキルも負けているし、実際負けて……


「うるさいわよ。徹が勝つんだから、何が才能よ、力よ。それに、徹、何をボーっと突っ立てるの?言い返せ、言い返すんだぞ徹。」

シャーリー様のそんなガヤで少し緊張がほぐれた。なんであそこまで僕の信用度が高いか知らないが、まあでもその彼女の言葉は力になった。


「才能と力の差って、そのスキルはこの世界に来て誰から貰ったもので君の力じゃない。それを自慢するのか?」

そんな風に笑顔で月野に反論した。まあそれは僕も同じだけど。このスキルは、僕の力ではなくてたまたま貰ったもの、それをどう使うかで僕の価値を出すしかない。


「では時間になったので、決闘を始めても良いですか?」

そう審判を務める初老の男性が呟いた。


「早く始めろよ。」


「もちろんです」



「ただいまから、寺坂 徹と月野はじめの決闘を始める。では、いざ尋常に始め」

その言葉で戦いの火ぶたは切られた。僕が正面から勝つのは不可能である。どんなふうに戦っても多分勝率は悪い、だから低い一つの作戦にすべてをかけるしかない。

僕は戦いの合図とともに後方に下がって月野と距離を取った。


「やっぱりビビってるじゃないか。寺坂 徹。それに馬鹿か俺の能力は遠距離戦でも強いんだよ。深淵の常闇よ 無数になりて敵を殲滅せよ。」

イタいセリフとともに月野の周りに大きな闇の球体が生じて、それが無数の小さな球体になり僕に向かって飛来してきた。まあ、この攻撃は知っているし、対策済みだ。


距離を取るのをやめてスキルを使い木刀を構えた。割と距離があれば飛んでくる球体も剣ではじける程度の速度になる。それに昨日練習で投げてもらった球体のほうが余裕で剛速球だからこっちのほうがマシだ。それでも少ししんどいが、攻撃を直に受けることなく、全ての攻撃を木刀で弾いた。


「あああああ、格下の癖に選ばれし俺様の能力を防ぎやがってぇえぇえ、だが、攻撃が当たるの時間の問題だ。俺の闇の強度でやがてその木刀は砕ける。」

そういうと月野は闇を一度自らの場所に集めて、先ほどよりひと回り大きな球体を作り再び僕に向けて攻撃を開始した。攻撃力は増したがその分、数が減ったので好都合だった。


それに僕の作戦が上手くいく確率が上がった。

僕はさきほどと同じように攻撃を防いだ。むしろさっきより的が大きくなり、数が減ったので楽になった。それに僕の持っている木刀にヒビすら入らなかった。


「あああ、何故だ。何故、何故、俺様の攻撃でその木刀を折れない?どんな不正をしている、貴様。」

そう月野はイライラしながら叫んだ。


「不正?それは、ただ君の攻撃力が足りないんじゃないか?選ばれし、月野くん。最大限の攻撃でもしてみればいいじゃないか。」

まあ、木刀が折れないのは、相手の攻撃力が高いのではなくて、僕のスキルのおかげである。僕の保存は、戦闘に使えないあんまり役に立たない能力だと思っていたが、違った。保存の適用範囲は不明だが、木刀の状態を維持すること程度は出来た。簡単に言えば、魔力が続く限り保存された僕の木刀は折れない。それに僕魔力は無限だ。僕のスキル二つは奇跡的に嚙み合って折れない木刀が完成した。


「寺坂 徹ぅうう。ぶっ殺してやる。ぶっ殺してやる。俺の最大の一撃で」

そう短気な月野は予定通り叫んだ。そして挑発に乗った。僕を攻撃した闇は月野の周りに戻り、更に月野の周りから黒色の何かが溢れだし、それが全て一つに集まっていき、かなり大きな球体になり、そして急速に縮まり、ドッチボール程度のサイズの黒色の球体が月野の右手の前に誕生した。


スキル 闇 (スキル辞典より)

自動防衛、自動攻撃する闇の力を得る。闇は魔力によって作り出されて、最大魔力量以上の闇は作り出せない。闇の性質は不明だが、引力を持つもの、超質量をもつものが確認されている。


「俺の全エネルギーで作り出した闇の凝縮、力だ。死ね。寺坂徹」

その言葉とともにその球体は僕に向かって飛んできた。さて、かけを始めよう。一世一代の大勝負。吉と出るか凶と出るか。


僕は……飛んでくる闇をよける事なく受け止めることにした。

真正面から飛んでくる塊は、僕の腹部に直撃した。今までに感じたことがない痛みが走った。それでも、僕はその球体を捉えた。その闇の塊に触れた。


「馬鹿か、寺坂徹。馬鹿か。避けずにはははっは」

そんな月野の笑い声が聞こえたが、ほとんど予定どおりだった。ここまでダメージを食らうのは想定外だったが。


この触れている闇をこの形で保存する。

そう心の中でいうと『スキルが発動しました』そんなアナウンスのようなものが頭に流れた。一つ目の賭けに勝った。

これで、僕の攻撃できるターンだ。残った体力と気力をすべて振り絞って、ニヤリと笑い


「この程度か?」

そう笑った。


「貴様ぁあ、もう一度、もう一度だ。」

そう月野が言って闇を自分の手に引き戻そうとしたので、僕はその闇を掴み続けた。『距離を縮めるのが問題ですね。』、なんて昨日アンナさんに言われたが、これで近くに行ける。


「何?……」

ただ、想定外だったのか月野は呟いた。ある程度近づいたところで手を話して、完全に停止している月野の腹部に思いっきり木刀を振るった。こいつがあほで全魔力で闇の塊を作っていることを信じて。


僕の木刀は、月野の左腹部に当たった。

「貴様ぁあああ」

そんな嗚咽を含む声を上げながら月野は体制を崩した。その隙に月野の持っていた木刀を奪い取り、一度距離を取った。そして、ふらつく月野に向かって


「さあ、ここからだ。」

そういって右手でもう一度剣を振るった。ここからはアドリブだ。作戦などない、相手の防御力は低くなったが、攻撃力はあがった。でもここまで繋がった。だから絶対に勝つ。


僕の右手で振るった剣は闇の塊に防がれた。

「不意打ちの一撃ぐらいでどうした?こんなことはもう二度とない。まぐれで喜ぶな雑魚が。押し返してやるよ。」

凄まじい力で押す闇に僕は右手のすべての力を使って応戦した。このままだと右手がダメになるかもしれない


「くっ……」


月野はニヤリと笑い。

「分裂しろ闇、そしてそのボロボロの雑魚を叩き潰せ」

そう叫んだ。しかし、闇は分裂しなかった。スキル『保存』ありがとう。混乱している月野に対して僕は冷静に考えて、右手の剣を手放した。押し合いで拮抗していた闇の塊と僕の右手の木刀は僕が力を入れなくなったことで、闇は遥か上空に飛んで行った。


「何故だ?」

そう叫んでいる、月野の左腹部めがけて奪い取った木刀を木刀が折れるほどの勢いで振るった。その時に左手も多分、力を入れすぎてダメになったそれでもまだ、月野は倒れなかった。でもまだ、まだ右手も左手も力が入らなくても


「僕の勝ちだ。月野 はじめ。最大級の攻撃を僕も君にしてあげるよ。」

そう言って、僕は思いっきり、相手の生物学上男性で人間である生き物の恐らく最大の弱点に向かって、右足で蹴りを入れた。明らかに顔色が悪くなった月野はそのまま倒れた。薄れる意識の中で、卑怯とかそんな声も聞こえたが、勝てばなんでも良いのだ。

ただ、意識がまだ少し残っていたのか、僕の背中に目掛けて、黒色の塊が戻ってきて直撃した。


「ふぅ」

すさまじい痛みを何とか耐えて、

「審判、これは」


そう言うと審判は声を上げて

「勝者 寺坂 徹。」

勝った、相手のおかげとか運とかそういうのもあるけど、勝ちは、勝ちだろう。勝った。勝ったぞ。ああ、でももう無理。体が限界っぽい、そのまま僕も後ろに倒れた。ああ、痛い、痛すぎて良くわからないぐらい痛い。


「徹。徹……無理しすぎだぞ…………恥ずかしいけど今からスキルで回復を……ああ、まだ徹の意識あるし。」

それは姫の声だった。どうやら倒れたから駆け寄って来てくれたらしい。


「意識あって悪かったですね。」


「……ああ、もうしょうがないぞ。これは、私のスキルの発動条件だからな。だからな、それと私は、今の期間なら徹がロリコンでも良いぞ。」

意味の分からないことをシャーリー様は呟いた。


「何を」

痛みに耐えながらそう言いかけると僕の唇に彼女の唇が触れた。

………………下手したらファーストキスだった。いやもしかしたら二回目か。いろいろと繋がった。痛みは徐々に消えていき、傷は無くなった。顔は赤くなった。


真っ赤になったシャーリー様は、こっちを見て

「ああああ」

そう叫びながら僕のみぞおち当たりを殴った。あっやばいぞ。そのまま僕の意識がなくなっていた。多分今回の勝者はシャーリー様なのかもしれない。それと、ロリコンになりそうだった。

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