第13話 アフターフォロー大切!
あんなに頑張ってプレゼンしたと言うのに、無事に済んだ達成感でその後にすべきことをすっかり忘れていた。買い物とスキル上げについて助言を貰ったリグマのことは何度も思い出していたし、何か未知のものを食べるたびにマールのことを思い出していたくせに、だ。
どうもおおらかな性格になったせいで、大切なことも忘れがちな気がする。と、のんきなことを考えている場合じゃない。未読放置していたメッセージはリグマに村長、そしてもちろんマールからだった。
心を痛めつつメッセージを開くと、村長からは村で相談した結果として移住を許可するとの連絡が届いていた。慌ててリグマのメッセージを開くと、その後楽器や書術用品が買えたかの確認だった。
そのやさしさに感謝しつつ、遊びほうけていた自分を恥じるミーヤだった。しかしまだ本命が控えている。ミーヤはおそるおそるマールからのメッセージを開いた。
『ミーヤ、お元気ですか?
あなたが旅に出てしまってから寂しい毎日を過ごしています。
せめてたまには連絡をください。
毎日どう過ごしているのか、元気にしているのか心配です。
ちゃんと食べていますか? お酒を飲みすぎていませんか? 朝はちゃんと起きられていますか?
なんでも構いません、元気であれば何か一言でもいいのでメッセージを下さい。
あなたの親友、マールより』
そのメッセージを見た瞬間、ミーヤの瞳から涙が溢れ出し、自分で止めることが出来なくなってしまった。もしかしたら怒っているかも、なんて甘い考えは吹っ飛んでしまい、自分の身勝手でマールを心配させてしまったことが、楔のように心へ強い痛みを打ちこんでいく。
『ああ、マール、私の大切な人、心配かけてごめんなさい。
今すぐにでも会いに行きたい。
でもそれはできないのよ、私は村のためになれるよう頑張るって決めたから。
そのことが良いわけではないと証明するためにも頑張るわ!』
心の中で叫ぶように誓いを立てるミーヤだったが、そんなことよりも早く関係各所へ連絡しなければならない。
取り急ぎマールへは謝罪の言葉と、現在元気にしていること、おいしいものが沢山あったことを伝え、帰ったらたくさんお話しようと伝えた。するとマールからはすぐに返信があり、会える日を楽しみに待っていると言う。それを見たミーヤは再び泣き出してしまった。
次は村長だ。まずは移住に賛成してくれたことに対しお礼を述べ、次に先方へ連絡すると伝えた。あわせて、綿花の栽培や羊乳製品製造の可否について連絡しておく。
最後はリグマへ連絡を入れ、カナイ村への移住が可能となったことを伝えた。すぐにお礼のメッセージが来たが、後片付けや移動の準備でかなりの時間がかかるらしい。そのことを村長へも伝えておいた。
「ふう、まったく我ながら手際が悪いから大変だわ……
もうちょっとマメに見ておかないとダメね……」
独り言のつもりで反省を呟いたところ、レナージュが慰めてくれた。そして次に向かうのは細工屋だ、と意気込んで楽器屋を後にした。
「ねえミーヤ? もしあの、シャワー? とドライヤー? が作れたらどうするの?」
「どうするってどういう意味?
もちろんいつでも使えるように持ち歩くわよ?」
「そうじゃないってば。
完成したらなかなかすごい発明品なのよ?
それが細工屋からほかに漏れるかもしれないでしょ?」
「別にそんなの構わないんじゃなくて?
アイデア商品だけど特別なものでもないわけだしね」
「あなたったら、お金遣い荒いわりに儲ける方はからっきしよ!
細工屋と交渉してアイデア料を貰うとかさ、独占販売する契約するとかあるでしょうに」
「そんなことできるの?
契約なんていっても口約束でしょ?
破られたらそれでおしまいじゃないの」
公正証書でも作る風習でもあれば別だが、犯罪者もほぼ野放しなこの世界にそんなものがあるとは思えない。どちらかと言えば魔法みたいなもので、契約に強制力を持たせるようなものがあるというならまだわかる。
「結局そこなのよねえ。
細工屋を抱えている商人との結びつきでもあればいいんだけど、あいにくそんなものは無いし……
まずは商人長へ相談してみようか」
「お抱え細工屋いるかもしれない?」
「いい考えだけど、キャラバンの買取品から考えると抱えているのは農耕関連だと思うのよね。
換金所にも関わっていないから錬金術でもないだろうし。
でも知り合いは絶対いるから相談する価値はあると思うよ」
「なるほど、そういう考え方もありだね!
じゃあ商人長へ連絡してみて、時間が開いてるならたずねてみようか。
フルルがいるかもしれないしさ」
決まりね! となぜかノリノリでハイタッチをした二人は商人長へメッセージを送り返信を待った。
しかしなかなか返信が帰ってこないのでフルルへも送ってみる。するとこちらはすぐに帰ってきて、商人長が不在であることを教えてくれた。どうやら商人組合の会合で出かけているらしい。
「残念だけど細工屋は明日にするか、商人長への繋ぎを諦めて頼んでしまうかどちらかね」
「私はすぐに作ってもらっていいと思うよ。
だって結局は召喚術が使えないと意味の無いものでしょ?
マナだって限りがあるしさ」
「でも召喚術に限らず、最低限でいいならすぐに使えるようになるのよ?
神柱へお願いすればいいだけだからね」
「そんなことできるの!? じゃあ私は神術覚えようかしら。
ランク1の回復(ヒール)が使えるだけでも役に立つよね?」
ミーヤはワクワクしながらレナージュへ相談した。しまし世の中そんなに甘くないことを思い知らされることになる。
「そううまくはいかないんだってば。
今現在の熟練度合計が高ければ高いほど、高額な寄付が必要になるのよ?
ミーヤは合計300以上あるから四百万ゴードルかかるわね」
「えっ! ちょっと高すぎない?
それで神術はどのくらい使えるの?」
「たったの10だけだから割に合わないでしょ?
でも合計熟練度100以下の人なら千ゴードル、200以下でも二万で済むからね。
ちなみに400以上なら…… 五千万なのよ!
でも街に住んでるだけで、スキルを使った仕事をしていない人なら安く済む可能性が高いわ」
「なんだか神様って強欲ねえ。
ということは、ある程度頑張ってきた人は、生き方を早々変えられないってことでしょ?
それもなんだか理不尽ねえ」
「まあそれで便利で安全に暮らしてきているのだからね。
最初にいただいた恩恵を大切にして生きるのが本来の姿なのよ」
世の中の理とはそういうものなのかもしれない。ただしミーヤの場合は自分で選んだスキルなので事情は少し違うのだけど、以前スキルの組み合わせをヘンテコ呼ばわりされたので内緒にしておきたい。
「それで? 結局細工屋の話とどう繋がるわけ?
細工彫金スキルを覚えるのは大変ってこと?」
「違うわよ! もう、ミーヤったら!
召喚術が誰でも使えるようになったら、アレが誰でも簡単に使えちゃうでしょ?
そうしたら欲しがる人が多くなると思わない?
つまり細工屋だけが儲かるってことよ!!」
ここまで言われてようやく理解できたミーヤは、生まれて初めて頭の上にエクスクラメーションマークが[!]ポンっと飛び出した気分になった。もしくは電球でもいいが。
まあそんなことはどうでも良くて、確かに細工屋だけが大儲けしたのでは癪だ。でもそんなに売れるのだろうか。むしろ作ってもらうのにいくらくらいかかるかが心配になってきた。
「もう考えてても仕方ないし、細工屋へ行って口約束でいいから相談してみようよ。
作ってもらうことになってみたら、結構高くて売れないってなるかもしれないしね」
「まあそういう考え方もあるかあ。
時間ももったいないし、まずは行ってみようか」
こうして二人はようやく細工屋へ向かうのだった。
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