第7話 竜騎士の乙女

「知っているも何もマーロ帝国の動乱期に突如として現れ幾人もの相手を一太刀で複数同時に斬り伏せ。その姿は修羅か羅刹の如く。そして動乱の終結と共に姿を消した人斬り半治郎。私の爺様がよく話してくれたぞ?」


「え?!本当ですか?!僕の祖父の事を知っているんですか?」


「って事は少年。君は人斬り半治郎の孫という訳か?」


「はい。そうです。」


「……似てないぞ?」


「僕は父方じゃなくて母方に似たので……。」


ユーリさんは不思議そうに僕の顔をジックリと見ながら『やっぱり似てないぞ。』って小さくぼやきながら言う。言うなら、もうちょっと僕に聞こえない声で言って欲しい。


「爺様から聞いた話だが、人斬り半治郎は本当は争いや揉め事をあんまり好まなかったらしい。」


「まぁ、祖父は取り敢えず平和が一番って言うほどの人でしたから。」


「人斬り半治郎は流浪の旅の途中でネールランド連合国を訪れた際、当時、ネールランド連合国とリブテン王国との小競り合いが起きていてた。」


「リブテン王国との小競り合いですか?」


「あぁ。リブテン王国は全世界の覇権を握ろうとしていたのだが、一番の障害はこの世界最大の帝国であるマーロ帝国。マーロ帝国と真正面から戦えば無事では済まないと踏んだリブテン王国はネールランド連合国を配下に置く事を目論んでいた。」


「それはなんでですか?」


「ネールランド連合国はドラゴンの国。ドラゴンは竜使いと呼ばれる竜を操る者と竜騎兵と呼ばれるドラグーンと言う小国ながらも絶大な軍事力を持っていたからだ。」


「つまりドラゴンを配下に置けば容易に事が進めるという事ですか?」


「それだけじゃない。ネールランド連合国はマーロ帝国と地理関係上として近くて軍事拠点に置いても格好の国だからだ。」


「なるほど。そんな中で祖父は流浪の旅をしていたと?」


「そうだ。当時のネールランド連合国はかつてない緊張の最中、のうのうと能天気に旅をする半治郎は当時竜騎兵の隊長をしていた爺様が仲間を引き連れて半治郎を囲んだのだ。」


確かに国同士が戦争をおっ始めようとしている時は普通はその国に立ち寄らないはずだけど、相変わらずと言うかマイペースは昔からなんだなジィジ。


「取り囲んだ半治郎は何だか面倒くさそうな顔をしながら『俺は金なしの無一文だぞ!追い剥ぎならやる相手を間違えたんじゃねぇか?!』って叫んだそうだ。」


「……」


「呆気に取られた爺様はこの人は悪い人じゃなさそうだって思ったらしく、その場を丸く収めようとしたが、数人の部下が納得しなかったらしく、取り抑えようとした瞬間に腰に携えている刀を抜く事なく、素手で逆に複数人を地面に転がり落ちたと言う。爺様曰くその技は人が当たり前に呼吸するかのように自然で楽々と涼しい顔をしながら『ちょっと食いモンくれ。腹が減った。』って言ったそうだ。」


「まさか祖父がそんな事を言うとは……」


「それから爺様は何度も半治郎の使う不思議な技に魅了されたと言う。特に剣術は一太刀で複数を同時に斬り伏せる神速の剣と言っていた。だが、マーロ帝国の動乱が終わった直後に姿を消してしまった事が心残りだったらしい。」


恐らくだけどジィジはマーロ帝国の動乱が終わり自分の役目が終わったと悟ってヒッソリと自分の世界に帰ったのだろう。そして、後世のこの世界では伝説として語り継がれている。

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