第5話 ジャッキー・ゾリッパー

「エルザさん。貴女はもう充分に苦しんだ。心がズタズタに引き裂かれ振り返る事も甘える事も立ち止まる事を許されない貴女は必死に自分と向き合ってるじゃないですか?」


「でも……」


「自分を助けたり許せるのは自分だけですよ。エルザさん。甘えとか開き直りとかではなく、自分を許してあげてください。」


「うん……ありがとう……ありがとう……」


エルザさんはずっと心の中に溜め込んでいた悲しみや悔しさと押し潰されそうな罪悪感を全て涙で洗い流すように泣いていた。


僕はそっと寄り添う事しか出来ないけど、全部助けられるヒーローじゃないけど立てそうにないなら肩を貸すくらいなら出来る。


「大丈夫です。今は沢山、泣いて良いですから。」


「うん……」


「泣く事は悪い事じゃないので泣いた後には笑顔になりましょう?」


「うん……ありがとう。」


涙の後に目は真っ赤に腫れているが今のエルザの顔には憑き物が落ちたように心の底から晴々とした何処にでもいる優しくて笑顔の似合うお姉ちゃんだ。


「ねぇ、坊や。ううん、トラ君。」


エルザさんは僕の事を坊やではなく、トラ君って言いなおす。なんでトラ君なんだろう?


「もうトラ君ったら、分かりやす過ぎよ。」


「でも、どうしてトラ君なんですか?」


「泰虎だから、トラ君。いつまでも私を何回も泣かせた男の子にいつまでも坊やはダメかな?ってね。」


「え?あっ……ぼ、ぼ、僕は決して泣かせるつもりじゃ……」


「でも、トラ君なら許してあげる。だって……」


「だって?」


「もう!トラ君は鈍チンなんだらっ!そう言うのは男から言って欲しいの。」


エルザさんはプイってそっぽを向きながら歩き始めるけど僕が何で急に不機嫌になるのかが分からない……


女の人って不思議な人達なんだなぁ……



「まずはトラ君には女心をわかって……」


するとエルザさんの背後から人とは思えないグロテスクな仮面にシルクハットを被り背丈と同じくらいにあるマントの音がダガーのナイフを逆手に持ちエルザさんに襲い掛かろうとする。


「シュリンゲジ-縮地-。」


僕はスキルを唱えて高速移動でエルザさんを襲おうとする奴の背後に回り込み掌底で古武術の技の一つである【鎧通し】を使い奴の体勢を崩す。


「え?なに?」


「エルザさん大丈夫ですか?」


「え?うん。それにアイツ。」


僕はすぐにエルザの元に駆け寄って相手との距離を置く。


「グフフ。私の名前はジャッキー・ゾリッパー。切り裂きジャッキー。エルザ・トライド今日こそお前を殺して引き裂いてやろう。」


「そうはさせない!悪いけどお前は警察にお縄になってもらう。」


「またしても私の邪魔をするかガキ。」


「邪魔?まさか店からナイフを投げたのはお前だったのか?!」


「グフフ。そんなの決まってるじゃないか。それにしてもガキ。貴様さえ居なければ事が楽に終わるのに。私は勘の良いガキは嫌いだよ。」


するとジャッキー・ゾリッパーはシルクハットから自分と同じ背丈があると思われる大きなハサミを取り出して構える。

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