第5話 ジャッキー・ゾリッパー

それにジィジが言っていた『人は時には挫折や不運な出来事に遭遇する事もある。不運や挫折して、そこから這い上がれる人こそ強くなれるし優しくなれる』って。


「そういや、アイリさん。少し反り腰で首もストレートネックっぽかったな。いけない、いけない。つい職業病が。」


僕は急いでメモと地図を頼りにエルザさんの自宅に向かう事にする。外は日が暮れ始めて空は茜色の夕暮れ時になっている。


市街の店は明かりを付けて所々でお店終いを始めていると後ろから『坊や?』って聞いた事ある声に僕は振り向くと化粧っ気もなく古びた服を着て紙袋に荷物を抱えた紛れもなくエルザさんだった。


「奇遇ね坊や。こんなところで何をしてるの?」



お店に居る時のエルザさんとは違い、何処にでも居そうな優しいお姉さんって感じのエルザさん。こんなにも印象が違うのか。


「あの実はちょうど僕もエルザさんを探していまして。」


「あら、私と一晩寝たくなったの?」


「ち、違います!」


僕は頰を膨らませながら顔が熱くなり意地悪な事を言うエルザさんにポカポカと叩く。


「ごめんね。それでどうしたの?」


「警察から貴女を守るように言われて僕が貴女を影から護衛します。」


「ありがとう。坊や。」


エルザさんは何か安堵を浮かべた様子でホッコリとした表情をしている。ジャッキー・ゾリッパーの魔の手がまだ終わってないからプライベートでも気が抜けないんだろう。


夕陽が沈み辺りはすっかりと明るくなり気温も少しずつ下がり始め少し肌寒くなっていく。


僕とエルザさんは並ぶように歩いているが僕は近くにジャッキー・ゾリッパーと思われる怪しい奴が居ないか周りを見渡す。


もう日が沈んで暗くなっているし、人も段々と居なくなっていくし、街から外れて灯りも段々と無くなって月明かりだけが頼りになっていくのが分かる。


「ねぇ、坊や。」


「え?あ、はい!どうしました?」


「なんで坊やはそこまで私の事を守ってくれるのかしら?」


「それは約束したからですよ。」


「約束?」


「言ったじゃないですか。貴女を絶対に守るって。」


「え?あ……」


「それにジィジじゃなくて祖父が言ってました。男が約束をしたなら死んでも守れって。特に女の子と約束したなら尚更、約束をしたなら破る男は男の風上にも置けないって。」


「口約束だから守るわけがないって思ってた。」


「え?」


「男って口ばっかりで、その場、その場で出来もしない約束ばかり口にしてた。今までの男達は甘い雰囲気に任せて口ばっかり……でも、坊やは違った。」


「……」


「坊やはこんな汚れ仕事をしている女のために守ろうとしてくれてる。だから……」


「……」


「坊やだけは信じてみたい。」


「何があったんですか?」


エルザさんは何か思い詰めた顔をしている言いたいんだけど他人には言えない事があるんだろう。それは、言えば周りの人間達が離れて行くほどの言えない事。


「私……」


「はい……」


「おろしたの……」


「……え?」


「男の間に出来た子供を……お腹に居た子供を堕ろしたの……」

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