02 〈ブクマ〉がない奴は死ね




「……と、とりあえず、〈ブクマ〉? とか言うのを集めないといけないらしいな。よし!」


こんな時こそ、ユニーク・スキル〈黄金の理解力〉の出番だ。

〈24601〉はぐっと拳を握るが、先ほどのような超理解は発動しなかった。ユニーク・スキルにはどうやら発動条件があるらしい。


「あれ……おかしいな。……ダメだ。無理っぽい」


 〈24601〉は諦めて別の方法を探ることにした。

 おそらく、〈ブクマ〉とは、ステータスの『ユーザー情報』にあった、総ブックマーク数のことだろう。それがないと死んでしまうらしい。


「意味がわからんけど、とにかく、やるしかない!」


 〈24601〉は町に繰り出した。

 道行く〈市民ユーザー〉たちに片っ端から話しかけ、「ブクマを下さい!」と頼むが、なぜかみな無視され、素通りされてしまう。どうにか頼もうと、身体を掴もうとするが、〈市民ユーザー〉たちはすり抜けてまったく通用しなかった。

 では、〈創作者クリエーター〉はどうかと言うと、


「おいおいおい、こいつ、ブクマ0だぞ!」

「うわっ、正真正銘の底辺じゃん! ガチの底辺初めてみた!」

「ぎゃははははっ! ダサーい! ちょっと、ブクマない奴が話しかけないでくれる?」


 彼らは彼らで相手にしてくれなかった。


「どうなってるんだ、これは……」


 〈24601〉は途方に暮れ、町の中心の広場のベンチに腰かけた。広場には【異世界区画⑥:『転移』と『転生』は明確にわけるのがマナーです。みんなで楽しいナロウライフを!】と看板が出ている。

 広場はお祭りの時のように出店のようなテントが並び、同じ〈創作者クリエーター〉らしい男たちが客引きを行っていた。その前を大勢の〈市民ユーザー〉たちが行き来している。

 よくよく様子を観察していると、〈市民ユーザー〉たちはテントの前に貼りだされたタイトルに誘われるまま、そのテントに立ち止まったり、入ったりを繰り返している。そのほとんどは一分と立たずに出てくるが、中には入ったきり出てこず、出る際に〈創作者クリエーター〉となにかやり取りをしている者もいた。

 〈24601〉はそれを見ながら、ブクマとは〈市民ユーザー〉同士のなんらかのやり取りではないかと思い当たり、ベンチを立って手近な〈創作者クリエーター〉に話しかけてみることにした。


「あの、すみません」

「おう、いらっしゃい! どうだ、見てってくれよ! チートあり盗賊ありハレンチありの愉快な作品だ!」


 髭だらけの山賊みたいなオッサンは〈24601〉を見て、ニヤリと笑った。


「いや、そうじゃなくて……ブクマが欲しいんです」

「あっ? ブクマが欲しいだと? 意図的な相互ブックマークや評価クラスタは重罪だぞ。わかってんのか?」

「いや、僕、ここに来たばかりでなにもわからなくて……でも、ブクマがないと死ぬって言うし……」

「ああ、その類か」


 オッサンは〈24601〉を見てニヤリと笑うと、そっと耳打ちした。


「いいぜ、くれてやる。俺の言う通りにしな」

「あ、ありがとうございます!」

「ステータス・オープン!」


― ― ―

ユーザー名:〈盗賊男くぁwせdfrtgyふじこlp〉

総ブックマーク数:584人

代表作:『盗賊スキルで異世界最強 ~人から盗んで食べるご飯は超うまいwww~』

【ナロウ・ポイントで応援する】

― ― ―


「今、表示される。【ナロウ・ポイントで応援する】ってのを選択して、持っているだけのナロウ・ポイントをつぎ込むんだ」

「わ、わかりました……」


― ― ―

【1000ナロウ・ポイントで応援しました!】

所持しているナロウ・ポイント:0

― ― ―


「応援、ありがとな! これで掲示板に出せるだけのポイントがたまったぜ……うっししし」

「どうも……。それで、ブクマは……」


 そう言うと、オッサンはわざとらしく首を傾げた。


「はっ、やるわけねぇーだろ、馬鹿が! 大体、てめぇ、セカイ作ってねぇーじゃねぇか!」

「えっ、セカイ……?」

「まずはそこから誰かに教えてもらうんだな! じゃーなー!」


 踵を返し、足早に去っていく男。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

「はっはっはっ、〈ブクマ〉がない奴は死ね! 転移→アクション(文芸)区画!」


 男が唱えた瞬間、その姿は霧散してまった。

 その場に残された〈24601〉は唖然としつつ、力なく崩れ落ちた。


「そ、そんな……」


 ナロウ・ポイントを奪われ、騙されてしまったのだ。

 その内に段々と日が傾き、町が夕日に包まれる。市全体がもっとも活発になる時間帯だ。道行く〈市民ユーザー〉の数は激増したが、それでも有象無象のいち〈創作者クリエーター〉に過ぎない〈24601〉に構ってくれる者はいなかった。

 日は完全に暮れ、日付が変わる時間帯が近づいてくる。一日が終わる時間帯だ。


「誰か……俺に、ブクマを……このままじゃ……」


 その時、ゴーン!ゴーン!と街の中心部にある〈ランキングの塔〉から鐘の音が鳴り響いた。

 それと同時、街の中心部が盛り上がり、〈運営〉が使役する巨人が身を起こす。

 周囲は騒然となるかと思いきや、それは毎日のことらしく、慌てている者は周囲にはいなかった。一部を除いて。


【ナロウの街は、みんなに指示されるブクマ0の街を目指します。ブクマがない物語……読まれない物語は、この町には必要ありません。データ容量を節約するため、セカイごと強制排除いたします】


 街の上空にテキストが浮かび上がり、巨人が掲げる両手にデータ消去のブラックホールが生み出され、ブクマ0だったらしいテントや〈24601〉と同じルーキーの〈創作者クリエーター〉たちが空に舞い上げられていく。


「うわああああああ!」

「助けてええええええ!」

「せっかく書いた物語が……あああっ!」

「読めば、誰かに読まれればああああああああ!


巨人がすべてのテントを巻き上げ、町を破壊(更新)していく。その内、〈24601〉の身体も宙に浮かび上がった。固定されていた近くのベンチに捕まり、必死に削除を避けるために叫ぶ。


「誰か、〈ブクマ〉を! 俺に〈ブクマ〉をください!!」


 その内に両足が浮き上がり、〈運営〉のブラックホールに吸い込まれていく。

 〈24601〉の必死の助けにも、〈市民ユーザー〉は相変わらず素通りするだけで、誰一人として耳を貸す者はいなかった。


「か、身体がちぎれちゃううううう!」

「……ちっ、ルーキーか!」


 通りすがりの、一人以外は。


「おい!」

「あああ、助けてええええ!」

「おい、落ち着け! いいから、言う通りにしろ。【クリエーター・ステータス】の隣にある【新たなセカイを創造する】を押すんだ!」

「わ、わかりました! えと、題名は……」

「後でいくらでも変えられる! 『あああああ』でいいから、適当に打っとけ! 本文テキストも同じだ!」

「はい!」


  〈24601〉が言われた通りにプロフィールを操作すると、通りすがりの〈創作者クリエーター〉は自分の画面を操作して、そのセカイをブックマークした。


―――

【新しい情報:ジョージ・オウルさんが、ブックマークしました】

総ブックマーク数:1

―――


 同時に〈運営〉の削除の対象から外れ、〈24601〉の身体が解放された。


「あ、ありがとうございます! おかげで助かりました!」

「いいってことよ。立てるか?」

「はい。あの、あなたは……」

「俺はジョージ・オウル……このSF区画の外れに棲む、【底辺作家】の一人さ」


 黒いコートに身を包んだ男は言って、「ついてこい」と踵を返した。






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