第107話 三つ持ち
「ライホー、彼女の部屋だけど、ウキラさんに頼んでくれない?」
アナスタシアのパーティー加入が決まり、俺達はそれを祝した宴を催すため、ウキラの宿の食事処へと河岸を変えることにした。加えて俺はパーティーの定宿であるウキラの宿、その空き部屋を確認する役目をキコから仰せつかった。
「あぁ、分かった。任せておけ。なに、空いてなきゃモーリーに出てってもらうさ」
えっ?ボクが?ってな表情を浮かべたモーリーに構うことなく、俺は一足先にウキラの宿へと急ぐ。
結果、幸いにも部屋は空いており、これで宿の一人部屋は六室のうち五室がハイロードの面々で埋められることになった。追い出されずによかったな、モーリー。
その後、食事処に集った俺達は改めて杯を固めた後、ギルドの食事処では話せない機微な会話を交わす。
実質的にウキラの宿は俺達ハイロードのパーティーハウスと化している。
食事処も風呂の提供日こそ盛況だが、それ以外では宿泊客やお師匠の弟子達を除けば普段はチラホラといったところだ。風呂の提供日でもない今日は、身内同然であるお師匠の弟子達のほかに客はおらず、俺達の貸し切り状態となっていた。その弟子達にしても心得たもので、さり気なく俺達から離れたテーブルに集って盛り上がっている。
そんなワケで俺は遠慮会釈なく語りかける。
「ところでアナスタシア……って、ちょっと長いな。これからはアナでいいか?」
戦闘中など迅速な意思疎通が求められる場面では、呼称も短い方がいい。俺の言葉の意図をキコがそう補足し、アナスタシアも頷いた。
じゃ、改めて――と切り出した俺は彼女に訊く。
「アナ、使える魔法は?もちろん答えられる範囲で構わないんだが、教えてもらえると助かる」
無論、俺はステータス画面で分かるのだが、一応本人の口からも聞いておかないとな……
------------------------
名前 アナスタシア(F、魔導師、
種族 人属
性別 女
年齢 16
魔法 生活魔法、火魔法、土魔法、無属性魔法
(基礎値) (現 在)(武具反映)
体力 6 3 6
魔力 12 8 12
筋力 5 4 5
敏捷 7 6 7
知力 13 11 13
------------------------
合計 43 32 43
------------------------
彼女、何気に三つ持ちか。こりゃマジモンのエリートだわ。
そしてお初にお目にかかる無属性魔法。
俺が転移前、ポンコツ神がいたあの空間で得た情報によれば、無属性魔法はその名のとおり属性に縛られない魔力そのものを行使する魔法らしい。が、その魔法は属性効果が乗らないため総じて威力は低く、属性魔法と同等の威力を出そうとすると魔力消費が増嵩してしまい、とても使い物にはならない……ってな感じだった。
まぁ、
いずれにせよ、その無属性魔法を差し引いても二つ持ち。最低でもパープル並みであることは変わらないんだから大したもんだよ。
加えて、この歳にして彼女の能力値は冒険者平均の四十を超えているのだ。アケフが十五の頃もこんな感じだった。この先どこまで伸びるか想像もつかんな。
そんな彼女に俺如きが魔法を教えるなんて恐れ多い気もするが、土魔法を使えるってんならアケフには教えなかったアレ、教えてみるかな。
■■■■■
翌日。俺達はお師匠の道場にいた。
お師匠は、剣技を修めるわけでもないアナスタシアが道場を使うことを快く認めてくれた。お師匠の判断基準には明らかに容姿が占める割合が大きいようだ。
まぁ、そんなお師匠の思想信条はどうでもいいか。
俺が彼女に訊きたかったのは無属性魔法について、である……と思っていたんだが、昨晩に引き続き改めて彼女に確認したところ、彼女は自身が使える魔法を「火」と「土」だと明かしたのだ。
教会が魔法鑑定のために使用する謎の魔道具は、適性がある魔法属性を可視化するものである。もう何年も前のことになるが、アケフを連れて彼の魔法を調べてもらった際、土魔法に適性があるアケフの魔力からは微量の「土」が現れた。
興味本位を装いながらアナスタシアに訊いたところ、彼女の場合はアケフと同じく「土」が、そしてそれに加えて「火」が生じたらしい。どうやら二つ持ちの場合は同時に発現するようだ。
そしてここからは推測になるのだが、おそらくそこにはただの魔力も存在していたのではないか。だがそれはもともと可視化できるものではないうえ、顕現化された土と火に紛れて見逃されてしまったんだろう。
無論、アナスタシアが俺達に無属性魔法のことを秘匿している可能性も考えられるが、彼女は俺に師事するためここにいるのだ。だとすれば、そんな彼女が自身の魔法属性を俺に隠すとは思えない。
俺はイヨの袖を引き、さり気なくその場を離れた。
□□□
無属性魔法って?――少し遅れて後を追ってきたイヨが、俺の問いに小声で返す。
やはりそうか。たまたまイヨが知らないだけという可能性も残されているが、おそらくはそうではなく、俺の重力魔法と同じでこの世界では無属性魔法というもの自体が認知されていない可能性が高い。
「じゃあ、その無属性魔法……ってのも使えるんだ?彼女」
「あぁ、そうみたいだな」
「私、それって初めて聞くんだけれど、どんな魔法なの?」
「俺のステータス画面ではそこまで分からないんだ。ただ、想像するに魔力を火や水に変化させるのではなく、魔力そのものとして使う魔法じゃないかな?いずれにせよ、この件は話の出し方に一工夫いる。俺のステータス画面のことは明かさずに聞き出さなきゃならないからな。イヨも上手く話を合わせてくれ」
うん――と頷いたイヨと連れ立って皆のもとへと戻った俺達に、デートは終わったのかい?――とモーリーが冷やかし、釣られてキコが哄笑する。
いや、まぁ……ちょっと気になることがあってな。イヨに確認していたんだ――
そう切り出してから俺は続ける。
「アナ、お前さんは知らないだろうが、俺にはちょっと特殊な力があってな。この話はそこそこ知られているから明かすんだが、
聞けば墓場まで持っていってもらうことになるし、無暗に話せばお前さん自身がすぐにでも墓場に直行することになるぜ――そう軽く脅した俺に、彼女は覚悟を決めた表情で頷く。
「分かった。まぁお前さんも魔法属性を明かしてくれたんだ。俺も多少は明かさなきゃ不公平だろうしな。でな、その力なんだが――俺は気配察知の力の応用で相手の強さをある程度読み取ることができるんだ」
あぁ、あのゴーレム戦のときのヤツ……とキコが呟き、えっ、そんなコトあったっけ?とモーリーが囁いている。ゴーレム戦以降、モーリーの前でその力を使っていないとはいえ、もう少し覚えていてほしいぞ。モーリーよ。
そんな中、アナはちょっと何言っているのか分からないです――ってな表情を醸し出していた。なので俺は、相手の筋力や素早さが大体分かるんだよ――と補足してから続ける。
「そして俺のこの力は相手が持つ魔法にも有効なんだ」
このことも他のメンバーにとっては既知のことである。元々、アケフの魔法を教会で鑑定してもらったとき、彼とお師匠にはチロっと明かしていたからな。
「無論、完全に分かるってわけじゃないんだが、アナからは三つの魔法の気配がする。お前さん、多分三つ持ちだぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます