第97話 武具庫
冒険者ギルドに出向いてから数日後。
今、俺達がいるのはコペルニク侯爵家本邸に隣接する武具庫だ。
武具庫とはいうものの、そこは侯爵家が秘蔵する貴重な武具だけを収めた保管庫だった。そこで俺達は王都行の追加報酬である白金貨三十枚分の武具を受領することになっていた。
侯爵家側は騎士団副団長サブリナ=ダーリングを筆頭に、侯爵家お抱えの鑑定士と本邸執事長の三人が、俺達ハイロード側はパーティーのフルメンバーで臨んでいる。
国王とコペルニク侯爵からの追加報酬三十枚の内訳は、俺とアケフが各々十枚、モーリーが五枚、そして俺達に使用権が与えられたパーティー分が五枚である。
武具の選定に当たっては、その枚数を一応の目安としつつもあまり拘り過ぎず、トータルでの戦力の最大化を優先すること、そして場合によってはキコ達の武具も対象にすることをあらかじめ決めていた。
武具庫とは思えぬ豪奢な意匠が施された重厚な扉に執事長が手をかける。
彼が押し開いた扉の先には、古城の隠し部屋同様、劣化防止の魔法陣と魔核によって保護された煌びやかな武具が整然と並んでいた。
暫くの間、その光景に目を奪われた俺達であったが、キコとイヨはすぐにウインドショッピングを楽しむかのように陳列された武具をあれやこれやと冷やかし始めた。イギーはそんな二人に黙って付き従う。この三人は自分達の武具を選ぶわけではないので、基本お客さんだ。
だが、俺達の方は真剣である。
俺達はまず武器を吟味する。
既にミスリル混の武器を所持しているアケフとモーリーは、当然のことながらより高いクラスの得物を欲していた。が、どうやらここにあるものはミスリルクラスが上限であるようで、残念ながらイヨが持つアダマンタイトクラスはなかった。
それでも滅多に市場には出回らないミスリル混の得物がこれだけ取り揃えられているのは壮観の一言で、キコ達はそれらを前に随分と盛り上がっていた。
結局、武器は諦め、ターゲットを防具へと切り替えたアケフとモーリーは、そこから然程時間をかけることなく目ぼしいモノを見付けたようだ。
アケフはワイバーン革の防具一式のうち、兜と籠手、そして半長靴の三点を選ぶ。本来は鎧も含めて一式となるセット物だが、元々アケフはワイバーンの革鎧を有しており、鎧は不要とのことだ。
俺のステータス画面によると、侯爵家の秘蔵品の方がアケフの革鎧より1ポイントほど防御値が高かったのだが、流石にそのためだけで鎧を新調するのは勿体ないし、そもそもポイント差は俺以外には分からないことである。また、鎧まで替えるとなると本来のアケフの持ち分である白金貨十枚を大きく超過してしまうということもあり、彼は鎧を除く三点、白金貨にして九枚分の防具を選んだ。
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種 別 兜
材 質 竜属ワイバーン種の革10
特殊能力 火耐性高
能力変動 なし
【基礎値】 【現在値】
品 質 10 10
攻 撃 0 0
防 御 13 13
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種 別 籠手
材 質 竜属ワイバーン種の革10
特殊能力 火耐性高
能力変動 なし
【基礎値】 【現在値】
品 質 10 10
攻 撃 0 0
防 御 13 13
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種 別 半長靴
材 質 竜属ワイバーン種の革10
特殊能力 火耐性高
能力変動 なし
【基礎値】 【現在値】
品 質 10 10
攻 撃 0 0
防 御 13 13
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モーリーが選んだのはミスリル混の鎖帷子であった。
これは魔力浸透によりイギーの大盾と同程度の防御値を叩き出せる優れもので、ミスリルの混合割合の上限を極めた逸品であった。フード付きで頭部まで保護できるところも何気にポイントが高い。
これ一点で白金貨にして七枚と、本来の彼の持ち分である五枚を超過してしまうのだが、そこは当初の取り決めのとおりである。
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種 別 鎖帷子(フード付き)
材 質 鋼7、ミスリル3
特殊能力 魔力浸透で防御+9
能力変動 敏捷-1
【基礎値】 【現在値】
品 質 10 10
攻 撃 0 0
防 御 10 10
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こうして比較的速やかに選ぶことができた二人と比べ、俺の方はどうにも決め手に欠いた。
と言うのも、流石に侯爵家の武具庫とあって、王都の店頭でもお目にかかれないワイバーン革やミスリルを使用した防具が当然のように陳列されていたのだが、いずれも俺がポンコツ神から支給されたものと同レベル帯であったためだ。
侯爵家の――伯爵家だったころに集めたものとはいえ、侯爵家の秘蔵品と言えどもこの辺りが限界のようだ。
改めて考えると、俺ってかなり高レベルの防具でスタートしてたんだなと思う。ほんの少しだけポンコツ神に感謝しておくか……
一方で武器の方はポンコツ神が呉れなかったミスリル混の得物がゴロゴロしていたが、雷魔法の件もあり、当面俺はミスリル混の剣(劣化版)をメインウエポンに据えることにしている。
加えて、以前イヨにも話したとおり、俺の拙い剣技は刃毀れ、歪み何でもござれとばかりに武器を使い潰すことを前提にしたものだ。とてもではないが侯爵家秘蔵の名剣をそこまで粗雑に扱うわけにはいかない。
さて、どうしたもんかな……
ぼんやりとそんなことを考えながら武具庫を巡っていたとき、とある外套が俺の目に止まった。
ぱっと見はフード付きのタイトな外套。女性の膝上辺りまでをカバーする着丈で、腰元はベルトで締めるタイプだ。よく見ると同素材の手套とセットのようだ。
インディゴグレーの地味な色合いで然程目立たないためか、その外套は武具庫の片隅に忘れ去られたかのようにひっそりと掛けられていた。
俺は早速ステータス画面を開く。
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種 別 外套(フード付き)
材 質 虫属蜘蛛蠱種の糸10
特殊能力 麻痺耐性高、毒耐性高
能力変動 なし
【基礎値】 【現在値】
品 質 10 10
攻 撃 0 0
防 御 9 9
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種 別 手套
材 質 虫属蜘蛛蠱種の糸10
特殊能力 麻痺耐性高、毒耐性高
能力変動 なし
【基礎値】 【現在値】
品 質 10 10
攻 撃 0 0
防 御 9 9
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ほぅ、これは……
蜘蛛蠱の糸なんて初めて聞いたぞ。蜘蛛と名が付くからには、おそらくそのモンスターは糸を吐くのだろう。そしてこの外套と手套はその糸を紡いで織られたものだと推測される。
生地は軽くしなやかでありつつも強靭で、一般的な革鎧以上の防御値を誇っていた。加えて、麻痺耐性と毒耐性の特殊能力まで付与されているのだ。
流石にワイバーン革には遥かに及ばないものの、この防御値の防具で敏捷値にマイナス補正がかからないのは大きい。
こいつは掘り出し物だ。
俺にはワイバーンの革鎧があるから必要ないが、イヨあたりにはぴったりの防具だと思う。
――俺の報酬分ってことにして、イヨにあげちゃおうかなぁ……
暫し逡巡した俺であったが、武具庫内をもう二巡ほどして他に目ぼしいモノがないことを確認すると、俺はイヨのためにその外套を手に取ったのであった。
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