第87話 vs最弱モンスター その2
「ときにオヤジ、そこに転がっているガラクタは売りモンなのかい?」
俺が指差した先には、商品としては卸せない特殊な形状の試作品や半人前の弟子達の手による打ち損ないが
「あぁ、駆け出しの冒険者や物好きな連中が気紛れで買ってくれるから、捨てるよりは……ってんで、安値で出しているのさ」
俺は自然なテイを装い、その中から鈍く黒光りする一振りの剣を掴むと、オヤジに訊ねる。
「コイツもかい?鋼の剣と比べると若干落ちるが、ガラクタって言うには随分とマシなレベルだと思うぜ?」
「あぁ、そいつか。そいつは俺達鍛冶師が一度は犯しちまう失敗作さ」
随分と意味深な科白を吐いたドワーフ親父に言わせると、こいつはミスリル混の鋼の剣、その成れの果てなんだそうだ。
更に詳しく訊いてみると、ミスリルの混合割合を高め過ぎた結果、通常の鋼の剣よりも切れ味や硬度が落ちてしまった
以前も述べたように、ミスリル混の武器には大きなメリットがある反面、ミスリルの混合割合が3割を超えてしてしまうと、却って武器としての質が落ちてしまうデメリットもある。
そしてそのギリギリのラインを攻めた結果の屍――それがコレなんだそうだ。
こっそりステータス画面で確認したところ、ミスリルの混合割合は32%と若干オーバーしている。そしてその僅か2%のせいで、攻撃力の方はドワーフオヤジが打った他の鋼100%の剣と比べて1ポイントほど低下していた。
加えて、通常のミスリル混の剣であれば、魔力浸透で攻撃力を嵩上げする特殊効果も付与されるのだが、どうやらこの状態になってしまうとそれすらもないようだ。
これではホントにただの劣化鋼の剣である。
だが――、コイツの電気伝導率は高そうだ……俺の期待は高まるばかりだった。
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種 別 片手剣(ミスリル混(劣化))
材 質 鋼6.8、ミスリル3.2
特殊能力 なし
能力変動 なし
【基礎値】 【現在値】
品 質 10 10
攻 撃 11 11
防 御 0 0
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「鋳潰して、またミスリルと鋼に分離できないのか?」
逸る気持ちを抑え、そんな問いを繰り出した俺に、ドワーフ親父は無念そうに首を横に振る。
「この鈍く黒光りした姿になっちまうともうムリなんだ。だから鋼の剣より少し値引きして、こうして物好きが買ってくれるのを待っているってわけさ。けれど――この色合いは出来損ないの証だからな。そのイメージが強過ぎて値引いてもなかなか買い手がつかなくてよ」
なるほどねぇ。それじゃ俺が遠慮なくその物好きってヤツになってやろうじゃないか――
■■■■■
そんなわけで、格安でミスリル混の剣(劣化版)を手に入れた俺は、早速雷魔法との相性を検証すべく、意気揚々と王都を出て、ゴブリンを求め近場の森へと分け入った……ってわけである。
最早、今の俺には魔物を使って人体?実験をすることに何の忌避感もない。
前世だって多くの動物実験の果てに新たな発見があり、例えばそれが新薬の開発などに繋がっていたのだ。
どのみち、害獣として駆除対象であるゴブリンが相手なら、本人?の同意を得ずに治験くらいしたって構わないだろう。そもそも意思疎通ができない時点で同意もクソもないわけなんで、まぁ勝手にやらせてもらうとするか……
森に分け入ってしばらくすると俺の魔素察知が三つの塊を捉える。
纏う魔素の大きさからしてゴブリンクラス。
俺はイヨとアケフに手を出さないよう告げる。三対三では下手をすると逃げ出されるおそれがあるからだ。特にアケフのような強者のオーラを纏う者がいればなおのことだ。
是非とも俺単体を見て、舐めプモードに入ってくれると嬉しいのだが……
それにしても――だ。
転移当初、二体のゴブリンを相手に必死になって逃げ回っていた頃が懐かしい。
あの頃と比べれば、能力値は向上しているが、それはせいぜい数ポイント。それよりも体捌きなど技術、そして何よりも覚悟や心構えといった部分の伸びが大きいのだろう。
枯れ残った下草を踏み分けつつ、俺は独りで魔素の塊へと近付く。
そして対峙した三体のゴブリンを冷静に見据えると、なるべくダメージを与えることなく彼らを生け捕りにする方法を考え始めたのであった。
□□□
「ゲッ、ゲゲッ!?」
「ゲ、ゲゲ――ゲゥ!!」
「ゲッ、ゲッツ!」
木の幹に縛られ、拘束されたゴブリン共が思い思いの叫び声を上げる。
なんか最後のはどっかで聞いたことがある言葉だったが……
まぁ、それはさて置き。
今更ゴブリン三体程度に後れを取る俺ではない。無駄な戦闘描写で紙幅を稼ごう?なんてセコイ真似はすまい。戦闘場面はバッサリと端折らせてもらうので悪しからず。
そして、今――
俺の前にはほぼ無傷で捕らえたゴブリンが三体並んでいる。いよいよ
仕方ないか。俺だって忌避感こそないものの、何も好き好んでやろうってわけではない。この
ウソジャナイヨ!特にイヨさんにおかれては是非とも誤解のないよう願いたいものだ。
それじゃ二人は少し離れて待っていてくれ――そう言って気乗りしていない様子のイヨとアケフを遠ざけると、独りになった俺は瞳に恐怖の色を湛えたゴブリン達と対峙したのだった。
◆◆◆ ここからはしばらく音声だけでお楽しみください ◆◆◆
直接こうしたらどうなるんだ?オラッ!
「ゲ、ゲゲゲゥ!ギャウ!!!」
なるほど、なるほど、結構効くな。そうすると剣を使ったらどうなる?
「ギャン!ゲゲ――ゲゥ!ギャー!」
少し落ちるか……でも、こっちの剣なら相当効くだろ?そりゃ!!
「グゲッ!ゲゲゲ――!!」
クックック……そうかそうか、思ったとおりだ。んじゃ、こうすりゃ更に……ドラァ!!!
「ゲッツ!ゲッツ!!ゲッツ!!!」
なんか一体だけ別種族が紛れ込んでいるんじゃないのか?
よく見ると「やや茶色がかった黄緑色」がゴブリン一般の肌色であるはずが、その一体だけは妙に「黄色」が色濃く出ており、立ち居振る舞いからは何故かダンディーさが滲み出ている。
まぁ、今はそんなことはいいか……
□□□
それから約10分。
一通りの検証を終えた俺は、せめて最後は苦しまずに逝けるよう……って、散々拷問紛いのコトをしておいて今更だが、それでも一息で止めを刺して彼らの生を終わらせた。
まぁなんだ、やらない善よりやゐ偽善――ってな名言も前世にはあったしな。
あれ?これって、こういうときに使う言葉でよかったんだっけか?なんかビミョーに違う気もするが、まぁいいだろう。
こうしてゴブリンを使っての治験から多くの収穫を得た俺は、返り血をたっぷりと浴びた革鎧や血糊がベットリと付いた剣を清浄魔法で浄化すると、何事もなかったかのようにイヨとアケフの元へと戻ったのであった。
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