第70話 逆に考えるんだ Ver. ライホー
決勝の相手は女剣士。
名はリョクジュといい、Aランク冒険者である。この貴族家同士のトーナメントでは常連らしい。
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名前 リョクジュ
種族 人属
性別 女
年齢 33
魔法 生活魔法、空間魔法
【基礎値】 【現在値】
体力 11 9
魔力 8 6
筋力 9 8
敏捷 14 13
知力 9 8
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合計 51 44
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あっ、
俺が彼女のステータスを見たとき先ず思ったことは、Aランクの前衛職としてはかなり筋力面で物足りなさを感じる……ということである。だが、それでAランクということは、逆に筋力に頼らない彼女の剣技の冴えを証明するものかもしれない。
彼女はサブリナと同じ細剣使いである。
細剣はその特質上、男性と比較して筋力に劣る女性が用いることが多い。
リョクジュはその高い敏捷性と剣技を活かして敵の急所を一突き――といった、然程筋力を必要としない対人戦を得意とするタイプではないか。そのとき俺はそう予想した。
そもそもキコのように女性であるにも関わらず通常の片手剣どころか、あんな大剣を振り回して固いオーガの皮膚さえも切り裂く豪傑はなかなかいないのだ。それ一つとってもキコの特異な才能が際立つが、あくまでも彼女は特別である。これで男性だったらどれほどの戦士になっていたか……と思うと、怖いくらいである。
それはそれとして。
やはり男性と比較すれば非力であることが多い女性は、剣士であっても軽めの剣を取りまわすことが多い。俺のような片手剣と小盾、あるいはサブリナやリョクジュのような細剣を得物とすることが一般的であった。
リョクジュは試合用に先端を潰した細剣でアケフの隙を突く。
巧みに急所を狙う精緻な突きと基本に忠実な高い剣技。そこに細剣ならではの軽い取り回しに裏打ちされた素早い動きまで加わり、アケフは終始翻弄されていた。
あの2回戦の相手とは違う。まずは高度な剣技が彼女のベースとしてあり、その上にスパイスのように散りばめられた想定外の動きがあるのだ。それでもアケフがなんとか対応できているのは、おそらく俺との稽古の賜物だろう。
もっと感謝していいんやで。お師匠。
……さて、リョクジュはキセガイ公爵家お抱えの冒険者である。
キセガイ公爵家とバウム侯爵家は準決勝で当たり、キセガイ公爵家が勝利を収めていた。お互いに決勝で当たることを想定してトーナメント表の場所を選ぶものとばかり思っていたが、爵位の関係で後から選んだバウム侯爵家としては、少しでもダメージが少ない万全な状態で当たることを優先したのだろう。両家は準決勝で当たり、結果してバウム侯爵家の望みは叶わず、キセガイ公爵家が決勝に駒を進めたのであった。
なお、この試合に先立って行われた3位決定戦では、アケフが準決勝でなんとか下したあの強豪を相手に、辛くもバウム侯爵家の冒険者が勝利している。
コペルニク伯爵はこの試合の優勝者に王が声掛けするときが一番危険……ってなことを言っていた。王による声掛けは、3位の者までに行われることが常のようだが、これでキセガイ公爵家とバウム侯爵家双方の冒険者がその栄誉を賜ることは確定してしまった。はぁ、胃が痛む……
そんな俺の胃痛とは別に試合は進んでいった。
全体的にはアケフが押されっ放しで、なんとか踏み止まっているといった情勢であるが、彼女の細剣捌きは見事の一言。細剣とは言えそれなりの重さの鋼の塊を易々と操ってアケフを追い詰めている。ステータス画面で見る筋力値は然程ではないのだが、剣の取り回しからはそれ以上の筋力を感じる。流石Aランク冒険者だ。
まぁ、敗れても2位は確定している。であれば俺達も王からお言葉を賜ることはできる。
もう負けてもいいんじゃね?アケフが怪我をせず終わってくれるのが一番だよな……
俺はそんな消極的な結論に達するが、アケフはそれでは納得できないようだ。
剣術では若干劣ることを自覚していた彼は、遂に切り札を切る。
切り札なんてこんな衆人環視の中で切るモンじゃないだろ?ましてや必ずしも勝たなくてもいい相手なんだしさぁ――俺はそう思ったが、アケフは絶対に勝ちたいようだ。
2番じゃダメなんです!――彼からはそんな覚悟が伝わってくる。
多分だけれど、既にアケフには「
■■■■■
逆に考えるんだ――
俺は某英国紳士の科白をドヤって引用する。
――なにアケフ?土魔法の威力が上がらない?
――アケフ、それは無理矢理上げようとするからだよ。
――逆に考えるんだ。「威力は下がってもいいさ」と考えるんだ。
ここはいつものお師匠の道場。
魔法の天才パープルから教えを請い、ようやく少しだけ土魔法を使うことができるようになったアケフであったが、もとよりお師匠からは剣をメインでって釘を刺されている。そんなこともあり、あまり魔法の修行に時間を割くことはできない。
それでも――やっぱ使えるようになったら使いたくなるのが魔法ってモンだ。しかも、大人びているとはいえ、アケフはまだ10代後半の男の子なんだし……
だが、残念ながらアケフの魔法の天稟は、剣のそれには遠く及ばなかった。
彼が全力で魔力を練って最大火力で発動しても、空中に飛礫を1、2顕現させ、人が投げるのと同程度のスピードで射出するのがせいぜいである。
それでも並の相手であれば牽制としては充分に効果的だし、実際、それに続いて繰り出されるアケフの剣技との組み合わせには俺も梃子摺らされたものだ。だが俺レベルの相手ならばまだしも、正直なところお師匠やキコレベルの相手には、軌道が見え見えで然して威力もないこの程度の魔法攻撃では軽くいなされるだけで、牽制効果も然程高くはないだろう。
それに……だ。
「これって石を拾って投げた方が早いんじゃね?」
俺の揶揄いにアケフが珍しくムキになって反論してくる。
「常に石が落ちているとは限りませんよ!それに魔法なら拾う動作もしなくてすむでしょ?」
「いや、でも……魔法を練る時間の方がかかってるじゃん?」
「かもしれませんけど!!…………あぁ、もうっ!ライホーさん。僕の魔法、もっと強化できませんかね?」
あっ、アケフの泣きが入ってしまった――が、安心してほしい。
ここで冒頭の俺のドヤりが入る。
まさかこの俺がヅョーヅ=ヅョースターよろしく、あの名言を吐く日がくるとはねぇ……
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