第57話 和解
「上の命令で仕方なく……ってか?だが力量を測るにしても他のやり方もあったんじゃないのか?そもそも具体的な方法はあんたが考えたんだろう?」
「お主らに訊ねて素直に教えてくれるものならそうするさ。だがそうじゃないだろう?私も期限が定められていてね。これが一番手っ取り早かったんだよ」
――
――――
――――――
俺とサブリナの間に剣呑な空気が流れる。
そこに大方の事情を把握したキコが割って入った。
「ふんっ、そういうことかい。アタシらも舐められたモンだね」
彼女はまずそう言うと、大きく息を吐き出し、務めて冷静な口調で語り出す。
「白金貨10枚、即金だ。ダーリング殿、それで手を打とう。こちらの手の内を晒した上、依頼外であれだけの数の賊を討伐したんだ。じゃなきゃアタシらはここで降りるよ。ライホー、アンタもそれで収めな!」
「白金貨10枚か……少しばかり過大な気もするが、その程度ならば払えなくもない。分かった、こちらとしてもそれで異存はない。お主らを試したことについては改めて謝罪しよう」
流石はキコだ。
結局のところ、最終的には逆らえない相手なのだ。ならば取れるときに取っておこうという彼女の臨機応変の対応には舌を巻く。
俺が最初に怒りをぶちまけたことで、逆に彼女が冷静でいられたであろうことを差し引いても、俺の27歳のときではとてもできない見事な手管で彼女は白金貨10枚をせしめてみせた。
「ほれ、ライホー。ダーリング殿が改めて謝罪してくれたぞ。アンタも無礼な言葉遣いを彼女に謝罪しな!」
最後には半分茶化す形で俺がサブリナに謝罪する場まで設けてくれたキコは、やはりできるリーダーであった。
□□□
――いい啖呵だったよ、ライホー!
サブリナから距離をとってパーティーで集まると、開口一番キコが俺に語り掛ける。
「ボクはハラハラしたよ。心臓に悪いね」
「奴らに舐められないためにもあのくらいの啖呵は必要よ。無論、冷静さを欠いて斬り合いにまでなっちゃマズイけどね」
「俺だって流石にそこまでする気はないぜ、キコ。多分、誰かが止めに入ってくれると期待して、言いたいことを言わせてもらっただけさ」
「だけどライホー、あまり無茶しないでよ?」
「何言ってるのよ、イヨ。お陰で白金貨10枚よ。パープルとライホーには悪いけれど、いい臨時収入だわ」
そう言ってキコは、俺とパープルに白金貨を2枚、自分を含む残りの5人には1枚ずつを配った。
――パープルとライホーは切り札を見られたからね。
俺とパープルの取り分が多かった理由を説明したキコは、残り1枚の白金貨は王都の高級店で飲み明かす軍資金にしよう――そう続けた。
契約上は飲食を含む王都での滞在費は伯爵家が負担してくれることになっているが、流石に贅沢過ぎるものは自己負担となる。
伯爵家から離れてパーティーだけで自由に過ごす時間も必要ってことだ。
□□□
――しかしお主らは強いなぁ
しれっとそんなことを宣ったのは騎士団の副団長サブリナ=ダーリングだ。
俺達を罠にかけて力量を見定めたのはついさっきのことである。よくもまぁしゃあしゃあとそんな科白が出てくるもんだ。
「今回はこちらにも運があったと思う。パープルの魔法が見事に決まったんでね。街道上に賊が固まっていたから……かな?」
キコは冷静に分析を述べる。
「確かにそうだ。が、あの魔法の威力が素晴らしかったのも事実だ。あと……ライホーのあの魔法も。賊が得物を取り落としていたのは分かったが、あれはどんな魔法なんだい?」
図々しく訊ねてくるサブリナに、俺は前世での必殺技「慇懃無礼」を繰り出すことにした。
「魔法の情報は軽々に申し上げるわけにはまいりません。平に御容赦くださいダーリング殿。ただ……お知りになりたいのであれば、また白金貨10枚で何か謀をなされてはいかがですか?」
「ははっ、これは手厳しいねぇ。もうこれ以上の詮索はしないから、君とはここでしっかりと和解したいのだが、どうだろう?」
「ライホー!」
キコが俺にそれを促す。
「あまりにも遠慮会釈ない問いかけだったもので、少し大人気ない物言いになってしまいました。申し訳ありません。私としても是非ダーリング殿とは昵懇にしていただければ……と」
「まだ少し棘があるようだけれど、まぁいいさ。これからはよろしくね、ライホー殿。それにしても怒っていないときの君の物言いは貴族染みているなぁ。随分と高度な教育を受けているようだが――って、また詮索をしてしまった。すまないね」
俺が少し顔を顰めると、それに気付いたサブリナが苦笑を浮かべて謝罪するが、謝罪もそこそこに、だがね――と続ける。
「それだけ君は謎多い存在なんだよ。そこは自覚しておいた方がいい。伯爵様も我らが団長も君には興味津々なんだからさ」
■■■■■
その後の旅路は快調に進んだ。
2度ほど森から迷い出た魔物と遭遇することもあったが、いずれもゴブリンレベルの魔物で大した脅威にはならない。基本的に主要街道は安全なのだ。
領都コペルニクを発って5日目、俺達は隣領である子爵家の領都に達していた。
この子爵家はコペルニク伯爵家の寄子であるという。2日後にここへ到着する予定の伯爵は、この街で休息を兼ねて1日歓待を受けてから再び王都に向けて発つとのことで、俺達もここで1日の休息が与えられた。
ここに来るまでに通過してきた宿場町は、基本的には宿泊と補給のための場所であった。寂れてはいないものの取り立てて栄えているわけでもない。うち1か所は冒険者ギルドもあってそこそこの繁栄を見せてはいたが、それでも子爵家の領都とは比べるべくもない。
俺達は休日の1日間、この街のギルドを訪れた後、武具屋や雑貨屋などを散策し、夜はこの街一番の名店と噂される飲み屋で臨時報酬の一部を使って大いに飲み明かしたのであった。
なお、この日もイヨは酔った勢いで俺に迫ってきた……が、今はどう考えてもダメだ。ヤッたりしたら、明日お股が痛くて歩けなくなるぞ、お前。
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