第42話 奥の間
俺とイヨによる
俺達は異空間への穴を閉じる。この函に大量の濁流を供給し続けていたあの穴もいつの間にか閉じていた。
この函は再び密室と化したのだ。
「魔法組の考えは?」
キコの問いにモーリーが応じる。
「2つ考えられるね。1つは魔素の供給が尽きるまで解除されない――ただこれは魔素の自動供給機能がなければ考えにくい。既に先客がここで同じ目に遭っているからね」
「自動供給なんてできるのかい?」
「滅多にお目にかかれる魔道具ではないけれど、ないことはないよ。ボクは見たことないけどさ。ただ、その魔道具を使っても自然界から自動供給できる量は極僅かだから、そんな代物を態々造ってまで……ってのはどうかな?」
「じゃ、もう1つは?」
「一定の条件を満たしたら解除される――ってところだね。一番考えられるのは一定時間が経過したら……かな?」
そこで俺も話に加わる。
「これだけ硬質化した魔素を維持するんだ。生半可な魔素じゃないだろう?だとすると長時間は考えにくいな。多分濁流を排出していた穴を閉じてから確実に溺死するくらいの時間を設定してあるんじゃないか?」
「ボクもそう思うよ。ライホー」
「それならそろそろなんじゃない?」
すると、まるでイヨの声が聞こえていたかのように、硬質化された魔素の壁は突如として解除された。
よく見ると周囲には排水溝と思しき水路と穴があった。水責めに使った水は、本来ここから排水される設計になっているようだ。
俺達がいる場所は、再び妙な魔素が部屋全体を取り囲む以前の状態に戻っている。
流石にホッと一息ついた俺達は、部屋の先の扉を見遣る。
「あそこが最後みたいだな。あの部屋以外に俺の気配察知に引っかかるものはこのフロアにはないぜ」
「鍵とかかかっているのかなぁ?あの扉」
「イヨ、頼んだよ。ライホーはサポートして。妙な気配があったら即離脱ね」
イヨはこのパーティーの中衛、斥候職として罠の解除を行っている。その流れでこうした扉の解錠も彼女の役目なのだ。
どちらかといえば、森の中での罠の設置や発見、解除の方を彼女は得手としており、こういった扉の解錠は不得手である。おそらくサーギルに任せた方が早いのだろうが、なるべくギルドの介入を排除するためにも、イヨは苦手な解錠に挑む。
暫しの間苦戦しつつも30分程で鍵を開けると、苦手な作業をそれなりに順調に熟すことができたためか、イヨは珍しくフンスッ!と胸を張ってみせた。
……が、残酷なようだがその胸に膨らみはほとんど見受けられなかった。
■■■■■
「いよいよだね。でも最後の最後に、もひとつ罠が仕掛けられていることだって考えられる。細心の注意を払っていこう!」
俺達はキコの掛け声とともに遂に最奥の間へと踏み込む。
意外なことに扉の先には一片の骨もなかった。
「遺骨がないとは意外だねぇ」
最初にそう呟いたのはキコであった。
俺達もここには立て籠もった領主一族の遺骸があるものと思い込んでいた。それが何一つ見当たらない。
「ここに立て籠もるを善しとしかなかったか、あるいはその暇すらなく攻め滅ぼされたか……ってところかな?」
キコの科白に皆が同意する。
だとするとここは真っ新な処女地である。しかも旧領主の終の隠れ家。一体どれほどのお宝があるか想像もつかない。
まず目を引くのは壁に掛けられた武器や防具の類である。
素人目に見ても価値のありそうな武具が並ぶ。一部には錆が浮き、あるいは朽ちかけている物もあったが、それ以外のモノに劣化はほぼ見受けられない。
よく見るとそれぞれの武具は微量の魔素に包まれており、武具が掛けられている壁には極小の魔法陣が配されている。そして魔法陣の外周には魔核が填められており、そこから魔素の供給を受けているようだ。
――なるほど、この魔法陣は武具の劣化を防ぐためのものか……
――劣化している武具は魔核が尽きて魔素の供給が切れたって感じだな。
他にも色々と高価そうな収納箱が目に付くが、まずは武器と防具から吟味する。
「この革鎧、ライホーさんのと同じくワイバーン製じゃないですか?」
アケフが俺に語り掛ける。するとイギーもアケフに話す。
「こっちのはミスリル混の鋼の大盾か?アケフの剣と同素材であろう」
「この鎚矛には魔核が嵌められているね。魔法の増強効果がありそうだからボクが欲しいな」
皆がそれぞれに物色を始めるが、キコがそれを制す。
「分配は全てのお宝を洗い出してからだよ。まずはここに全て並べて」
俺達は皆で手分けして武具類と収納箱のお宝を部屋の床に並べるが、アケフとイギーとモーリーの3人は、それぞれお気に入りの武具をさりげなく自身の前に置いていた。額に手を当てて呆れた表情を浮かべたキコであったが、改めて毅然とした表情で皆に宣言する。
「まず皆に言っておくよ。このお宝の取り扱いはライホーの意見を優先する。全ての占有権があるとまでは言わないが、まぁ半分はライホーの手柄だよ」
あれほど物欲しそうな表情を浮かべていた3人も黙って頷く。そしてキコは俺に訊ねる。
「だからライホー、まずはあんたの考えを訊きたい。あんたはこのお宝どうしたい?」
皆の視線が一斉に俺に集まる。俺は一人一人を見渡すと徐に口を開いた。
「武器と防具はパーティーの強化に充てるべきだ。武具の適正に応じて各々のメンバーに分配すればいい。で、残ったお宝を武具の分配がなかったメンバーに多めに渡して調整――ってところか?無論、俺の分も皆と均等でいい」
「ありがとう、ライホー。やっぱアンタをパーティーに誘ってよかったよ」
キコは心底嬉しい……といった表情で俺に語り掛ける。
「パーティーの強化は結局自分のためになるからな。俺だって独りじゃこの部屋には辿り着けないぜ。皆がいたからこそだろ?武具の分配はキコが戦力の最適化の観点で判断してくれ」
俺がそう言うと、キコは武具とメンバーを見渡しながら考え始めた。が、俺はそこで少し付け加える。
「あと――乱取り自由とは言うものの、これほどのお宝ともなればギルド経由で少しは伯爵家にも回した方がいいだろうな」
この言葉にサーギルは目を見開く。
「ライホー、あんた若いくせして世故に長けているな。そうしてくれるとギルドとしても助かるぜ」
「あぁ、建前は乱取り自由でも伯爵家からすれば面白くないだろう。そこに大量にある魔核を無償で納めればいいだろ?ギルド経由にすればギルドの顔も立つだろうし、いざとなればギルドの後ろ盾も期待できるからな」
「満点だよ。ライホー」
そう言うとサーギルは俺にウインクを送ってきた。
イラネー、おっさんからのウインク、イラネー!
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