第38話 遺骸
両断された石ゴーレムは再び動き出すことなく、土ゴーレムと同じく出現したときの魔法陣へと還っていった。
俺がホッと一息つこうとしたとき、キコから鋭い声が飛ぶ。
「皆、気を抜かない!サーギルさんとイヨは他の罠がないか調査を!魔法組はゴーレムの魔法陣の構成を調べて!ライホーは気配察知で周囲を探る!」
「おっ、おう!」
サーギルとイヨが慎重に部屋中を調べ、パープルとモーリーが魔法陣を解析する。
「ほかに罠はないようだぜ。ただ……アレだな、俺達が初めてのお客さんってわけじゃなかったみたいだな」
「魔法陣の方は侵入者を感知して発動するタイプみたいだよ。おそらくだけど、ボクらがこの部屋から出ない限り、再び出現することはなさそうだね」
「このフロアにはもう魔物の気配はない。部屋もここだけみたいだぜ。あの地下2階への階段の入り口からは妙な気配を感じるがな」
俺達はそれぞれキコに報告をする。
「皆、怪我は?イギーは少し傷んだようだけれど……」
「この程度なら問題ない。治すのは街に戻ってからでも構わない」
「そう?モーリーの魔力はいざというときのために温存したいからありがたいんだけれど、絶対に無理はしないでね」
「あぁ」
キコのリーダーシップ、パネェな……
「さて、ライホー。パーティー加入早々あんたのお陰で助かったよ」
「いやいやいや、俺なんかよりお前達だろ?仕留めたのも結局お前達だし……」
「あたしらは自分達の力はよく知っているからこの程度なら想定内よ。でもあんたの魔法がここまで使えるとは思わなかったわ。それにあの強さを見抜く力……っての?スゴイわね!」
「だな。ライホーがいなければ負けていた――とは言わんが、この程度の怪我で済んだとも思えん。俺はとても痛がりなんでな。助かる」
傷を擦りつつイギーが語り掛けてくる。イギーの科白に皆が笑う。
うん?痛がりってのは厳つい風貌と対比したジョークなのか?それともマジだからこそ、その風貌との落差で笑っているのか?どっちにしても分かりずれー身内ジョークだな……
このパーティーについて俺が知らなくてはならないことはまだまだ多いようだ。
「俺の魔法はゴーレムとの相性がよかっただけさ。あまり期待値を上げないでくれよ」
「いーえ、今後もあんたには期待させてもらうよ。それよりもサーギルさん。わ・か・っ・て・い・る・わ・よ・ね・?」
にっこりと微笑みながら、キコは100万以上は確実にあると思しき第2形態の戦闘力でサーギルを威圧した。
「おいおい勘弁してくれよ。俺だってハイロードを敵に回すようなマネはしたかねーよ。ライホーの魔法はギルマスに訊かれても適当に胡麻化しておくさ。ただ――敵の強さを読み取れる件は別にしてもだ、気配察知の範囲や精緻さの方はきっちり報告させてもらうぜ。この隠し部屋の件もあるんでな。俺だってガキの使いじゃないんだ。手ぶらで報告ってわけにはいないからな」
俺達は笑ってサーギルの言葉を是とした。
□□□
「さて、そうしたら次はアレの検証だな。ありゃどう見ても冒険者の成れの果てだぜ」
サーギルは部屋の片隅に蹲る3体の白骨と装備の残骸に目を遣る。
完全にゴーレムに追い詰められた末に命果てた冒険者の遺骨だな――
白骨と共に彼らの装備らしき武器や防具も残されている。あらかたは朽ち果てて使い物にはならないが、硬貨が収められているらしき小袋は回収しておいて損はないだろう。
「サーギルさんはどう見る?」
「多分、俺がガキの頃に聞いた全滅して行方不明になったっていうパーティーだろ。剣とか骨の状態から察するにな」
「すると彼ら……彼女らかもしれないけれど、この隠し部屋の存在にまで辿り着いたってことよね?でも一体どうやって?」
戸惑うキコにイヨが一つの回答を提示する。
「私でも4階層の隠し扉を見つけられたのよ。私レベルの感知能力があれば気付いても不思議じゃないわ」
「でもそれは隠し扉があるって前提で探ったからでしょ?そのためにはライホーの気配察知の力が必要じゃない?」
「まぁ、それはそうだけど……」
「ライホーの力がなきゃイヨほど優れた聴覚があっても難しいんじゃない?」
「……と思う」
「じゃあ、その力があったんだろ?」
キコの意見に俺は反駁する。
「いや、でも……」
「まぁ待て、キコ。可能性の問題さ。ゼロじゃない以上、可能性ってのはあるんだ」
「だけどあんた並の気配察知の力なんて常人には持ち得ないでしょ?同じ気配察知持ちとしてあんた達の見解はどうなの?」
キコの問い掛けにサーギルとアケフが応じる。
「俺はキコに同感だぜ」
「ライホーさん並は多分難しいと思いますけど、僕らよりも上の人は確実にいますよ。なんせ僕自身が未だに伸びてますから」
「マジか!アケフ?おま……ホントスゲェな」
サーギルとアケフの話が脱線しそうになってきたので、俺はそれを引き戻す。
「ある謎の答えを探すときには全ての可能性を想定するんだ。そこから検証を始めて可能性がゼロになったモノを1つづつ消していく。そうして最後に残ったモノがあり得ないほど突飛な答えだったとしても、それこそが謎の答え――だと俺は思うぞ」
「いや、理屈はそうだけど……」
「無論、他の可能性を見落としていれば答えに辿り着かないこともあるだろうし、時間も有限だ。できることは限られるさ。でも俺並の気配察知ができる人間がいないとも限らないだろ?それならとりあえずはその線で動けばいい。別に外したとしても問題ない謎なんだからさ」
「後半は別にしても、前半は随分と含蓄がある言葉ね」
――そりゃまぁ、世紀の名探偵様の一番の名言を
「そんなことよりこの先には進むのか?随分と妙な気配が漂ってくるから、あの先にはきっと別の罠があると思うぜ」
「ライホー、あんたに倣って少し洒落た言い回しをさせてもらえれば、ドラゴンの巣に入らなければ竜の卵は手に入らない――ってことよ」
「まぁ、俺は端から異存はないさ。ほかの皆がよければ進もうぜ」
結局、反対する者は現れず、俺達は地下2階へと続く階段の入り口に歩を進めた。無論、硬貨入りの小袋は回収済みである。
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