第37話 ゴーレム戦(俺もゴーレム戦)
――前方の土ゴーレムは力もあるが意外と素早い!サーギル、あんたくらいには動けるぞ!
――後ろの石ゴーレムはノロマだがベラボーに力が強い!油断するな!
俺が見るところ、後方の石ゴーレムは逃走防止の壁役だろう。故に素早さは不要だ。上層階への階段前に鎮座し、その行く手を阻んでいる。
逆に前方の土ゴーレムは中堅の斥候レベルの素早さに加え、おそらくAランク冒険者の前衛以上の力を持っている。何とかして後方の石ゴーレムを抑えている間に前方の土ゴーレムを仕留めるべきだろう。俺がそう考えた刹那、キコが大声で指示を出す。
「イギーは後ろの石の方を抑えて。補助はライホー!無理はしないで時間稼ぎに専念。残りの全員で前の土を倒すけれど、パープルは指示があるまで安全距離を保って待機!あとサーギルさん、流石にこの状況ならあんたも戦ってくれるんでしょ?牽制程度でも構わないからヨロシクね!」
流石キコ。俺と同じ考えの布陣だ。
即座に俺とイギーは後方の石ゴーレムに向かって駆け出す。
「イギー、俺の魔法であのノロマを更にノロマにする!あんたは着実に時間を稼いでくれ」
言うが早いか、俺は石ゴーレムの片足に向けて強大な重力魔法を発動する。突如片足が重くなった上に左右のバランスも崩れたことで、石ゴーレムの動きは格段に悪くなる。
どうやら通常の生物系の魔物よりも自己調整能力はかなり劣るようだ。所詮は機械仕掛けの人形。想定外の事象への対応力は低いのだろう。
「ほう、大したものだ」
俺の魔法の効果を見たイギーは感嘆の声を上げ、更に続ける。
「この魔法の効果が続く間はコイツは俺だけで止めてみせる!ライホー、お前は皆の方に向かってくれ。今の魔法は向こうでも役に立ちそうだ」
□□□
「加勢に来たぜ。あっちはイギーだけで充分だとよ」
キコはちらりとイギーを見遣るが、石ゴーレムの動きを見てイギーの判断を是としたようだ。
「あの石ゴーレムの動きはあんたの仕業ね?」
「少しだけ魔法を使わせてもらった」
「少しだけ?あれで?」
「まぁな」
「それで、こっちの土ゴーレムにも同じコトができるの?」
「こっちのは素早い。狙いをつけるのに少し時間がかかるかも知れんが、当たれば同じコトになると思うぜ」
ふふん――と、キコは嬉しそうに鼻を鳴らす。
「……なんだよ?」
「いえね、あの魔法といい、さっきの敵の強さを読む力といい、あんたがあたし達にその秘密の力を明かしてくれたことが嬉しいのよ。パーティーメンバーとしての信頼の証よね!」
「んなコトは、この窮地を脱してから言えよ!まずはあの土ゴーレムの足止めを頼むわ。油断するなよ。素早いぜ、ヤツは!」
「はいはい、まさかこのあたしが、冒険者歴3年目のDランクに使われる立場になるとはねぇ」
そう言い捨てたキコは、すでに戦いの火蓋を切っている土ゴーレムとアケフのもとへと駆け出していった。
防御に徹していたアケフを攻め切れていなかったところにキコが加わったことで均衡は崩れる。キコとアケフの猛攻を受けた土ゴーレムは、然してダメージは負っていなかったものの一旦距離を取った。
そして不埒な侵入者である俺達全体を緩慢な動作で見渡すと、突如その緩慢さを捨て去り、キコとアケフの間を素早くすり抜けて猛然とサーギルへと迫った。
キコもアケフも抜けられる際に一太刀ずつ浴びせてはいるものの、土ゴーレムには一切怯むような様子が見受けられない。
やはり純粋な生物とは異なる。先程の石ゴーレムは機械仕掛けであるが故にその弱点に付け込むことができたが、こうした場面では機械仕掛けであるが故に始末に負えない。多少斬り付けたところで、可動部を破壊しなければ気にも留めないで襲いかかってくる。
「ゴメン、抜けられた。ライホー頼む!」
キコの指示に反応した俺は、一直線にサーギルへと迫る土ゴーレムの横から丸小盾越しに体当たりをかました。とてもシールドバッシュと呼べるほど華麗な業ではないが、無様ながらもサーギルへと向かう土ゴーレムの進路を逸らしつつ、キコとアケフが再び戦線に戻るまでの時間を稼ぐことには成功した。
「助かったぜ、ライホー」
「気にするなサーギル。共に戦っているんだ。少なくとも今は仲間同士だろ?」
サーギルが差し出す手を掴んで起き上がった俺が土ゴーレムを見遣ると、キコとアケフが完全に抑え込んでいるところだった。土ゴーレムの足が止まっている。
――今!
俺は威力よりもスピード重視で重力魔法を発動する。
俺の重力魔法は見事に決まり、土ゴーレムはバランスを崩してよろめく。キコはその一瞬の隙を見逃さなかった。彼女の大剣が土ゴーレムの頭を砕く。
すると土ゴーレムはボロボロと崩れて土へと還り、出現したときの魔法陣に再び吸収されていった。
□□□
キコは休む間もなく石ゴーレムを抑えるイギーに大声で訊く。
「そっちはどう?」
「そろっと厳しい!」
イギーは唸るように叫びつつ、石ゴーレムと対峙した経験から、絶望的な分析結果を俺達に伝えてきた。
「あと、剣じゃ分が悪い。コイツにはおそらく刃は立たんぞ!打撃で攻めないとダメージは与えられん」
俺達の中で打撃系の武器を持つのは鎚矛をメインウエポンとするモーリーだけだが、そもそも後衛の治癒師には危険過ぎる上、打撃力自体も充分ではない。そしておそらく、イギーの盾術ですら満足なダメージを与えられないというのに、俺のシールドバッシュもどきの体当たりでも効果はないだろう。
手詰まり感が漂う中、爽やかな笑みを浮かべたアケフが俺に語り掛ける。
「ライホーさん、僕の剣、奴に当たる寸前で重くしてもらえませんか?」
「そりゃ構わんが、いくら重くした剣で叩いても大したダメージは与えられないんじゃないか?」
「僕も剣に魔力を流します。その切れ味と硬度にライホーさんの重さが乗れば斬れます。普段僕と試合しているときと同じくらいまで重くしてください」
そういやアケフの剣はもともとお師匠がこの国の王から下賜されたという業物だったな。魔力に親和性が高いミスリルを鋼に混ぜた逸品で、魔力を通すと切れ味と硬度が格段に上がると聞いている。
それでも――本当に斬れるのか?
斬れなければカウンターを食らうだろう。普通の革鎧を着込んだだけのアケフが筋力30の攻撃をマトモに受ければ下手をすると命に関わる。
「アケフ、行きまーす!」
俺が逡巡する間もなく、アケフは飛び出していく。
「ライホーさん、僕が振り下ろす瞬間に合わせてください!」
石ゴーレムの間近まで迫ったアケフは上段に剣を構え地面を蹴る。アケフから剣に魔力が流れる。俺もギリギリまでアケフに近付き、ここぞ!というタイミングで重力魔法を発動した。
充分な切れ味と硬度、そこに重さを伴ったアケフの剣が石ゴーレムの頭部へと迫る。するとその剣は刃毀れ一つすることなく、石ゴーレムを鮮やかに一刀両断にした。
いや、チートっしょ?やっぱコイツ、チートっしょ?
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