第36話 違和感の正体

「一昨日、1階層で察知した違和感の正体が分かったんだ」

「あぁ、あのときの?」

「無論、まだ推測の域を出ないんだが……」

「構わないよ。その推測とやらを聞かせてもらえるかい?」

「アケフ以外の皆にはまだ言っていなかったが、実は2階層と3階層でも同じ感覚があったんだ」


 そう言って、俺は話を続ける。


「だがその違和感は4階層にはなかった。そして地下層にも。ポイントは1階層、2階層、3階層全てが同じ位置だったってことだ。加えてさっきまで探索していた地下層は、上層階で違和感を覚えた位置にまでは広がっていなかった」

「それはどういうこと?」

「1階層に戻った後、俺はアケフと連れションに行っただろ?あんとき1階層で違和感のあった場所まで付き合ってもらったんだ。キコに無断で悪かったが、どうしても事前に確認しておきたかったことがあったんでな」

「そういやえらく時間がかかっていたから、てっきり方かと思ったよ。それにしても時間がかかり過ぎだったから少し心配したんだよ?」

「スマンな。アケフの方は俺が無理矢理連れ出したんで責めないでやってくれ。んで、話の続きなんだが――」


 そこでサーギルが叫ぶ。


「隠し階段だな!」


 をぃ!一番いいとこ取るな!サーギル!ここは俺がドヤって言うところだろーが!


「1階層から3階層には地下層へと繋がる隠し階段がある。そしてその入り口は4階層にあるってことか……」


 サーギルはその先の言葉までしれっとギっていった。


 ――


 ――――


 ――――――


 ぜったいにゆるさんぞサーギル!!!!!じわじわとなぶり殺してくれる!!!!!


 怒りが頂点に達した俺は、無意識に53万にも届かんとする戦闘力を解放しようとした。

 そこでアケフが慌てて間に入る。


「そっ、そうなんですよ。サーギルさん!僕はさっきからこのを聞かせてもらって、もうチョー感動しました。流石はですよね?」

「おっ、おぅ、そうだな。よく気付いたなライホー、流石だぜ」


 俺の戦闘力に怯み、やっちゃぁなんねぇことをやっちまったことに気付いたサーギルは低姿勢で俺に擦り寄る。


「つ、つまり違和感ってのは、廊下の長さよりも部屋が狭かったってことだよね?ライホー?スゴイ!よく気付いたね!!流石だよ!!!」


 キコもあからさまなベタ褒めで俺を持ち上げる。

 流石にここまで言われると俺も気恥ずかしいし、これ以上怒るのは大人気ない。なんつったて精神年齢は52歳なんだから。


「ま、まぁな。俺も端から理由にまで思い至ったわけじゃなかったが、今にして思えばそれが違和感の正体だったんだな。それに隣室であるはずの壁の向こうの気配がちょっと独特だったんだ。おそらくあれは隠し階段内の気配だろう。地下層の行き止まりの壁の向こうからも何かしらの気配を感じた。絶対に何かあるぞ」

「俺は何も感じなかったが――アケフはどうだ?」

「いえ、僕も特に何も……」

「まぁ微弱な気配だったからな。強大な魔物がいるとかそんなんじゃないと思うが、何かあるのは間違いない」


 こいつは魔素が存在しない地球からの転移者である俺じゃないと察知できないほど微弱な魔素だ。アケフやサーギルでは無理だろう。


「じゃあ、また4階層まで行ってみるかい?」

「そいつを皆に提案したかったんだ。無論リスクはあるが、もし地下層に隠し部屋があるのならば、そこには何かしらの発見があるはずだ」



■■■■■



「位置的にはこの辺だな」


 全員一致の賛同を得て4階層に戻ってきた俺達は、下層階で違和感を覚えた場所の直上にいた。


「あったわよ」


 手分けして付近の床、特に石畳の継ぎ目に偽装されているであろう隠し階段の入り口を探していた俺達だったが、イヨは床ではなく幅広な支柱の一面に偽装されていたそれを容易く発見した。

 入り口の扉を引くためのドアノブは巧みに意匠の一部に偽装され、金属の一枚板の扉そのものが支柱の一面を成しているため、通常であればその扉を発見することは非常に困難であった。


「よく分かったな、イヨ」

「風が――風音が聴こえたのよ。この柱から」

「ほぅ、嬢ちゃんは俺よりも耳がイイんだな。気配察知も聴覚も俺に敵うヤツなんて滅多にいないはずなんだが、このパーティーと一緒にいると自信をなくすぜ」


 サーギルが自虐的にイヨを褒めるが、気配察知と聴覚の双方をここまでのレベルで一人で熟せる奴は殆ど存在しない。それを考慮すればサーギルはやはり腕のいい斥侯なのだろう。


「じゃ、早速行きましょ。オーガが出るかスネークが出るか。いずれにしても油断はしないでね」


 キコの号令の下、俺達は地下層へと続くであろう扉を開いた。



□□□


 支柱の一面に偽装されたその扉を開けると、奥底からはむっとするほどの饐えた臭いが漂ってきた。


 扉は自閉式であるようで、俺達は一度アケフとイギーを4階層に残して扉を閉じ、内側からでも扉を開けられることを確認した。閉めたはいいが閉じ込められました――なんて事にならないよう、こうした細かい確認は丁寧に行う必要がある。


 その後再びアケフとイギーを加え、サーギルも含めた俺達8名は、巧妙に隠されていた扉の奥に続く石段を下っていく。

 3階層、2階層、1階層と下った俺達は、遂に地下層の領域に足を踏み入れた。


 そこはそれなりの広さの部屋となっていた。

 後方には今し方降りてきた石段があり、前方には更に下りの階段が続いているようであった。


 その部屋の中央付近へと近付いたとき、サーギルが待ったをかけた。この男がそうするときとは、彼自身にも危険が及ぶ場合だけだ。


 事実、俺達の前後には2つの魔法陣が発生し、それぞれから1体づつ巨大なゴーレムが形成されつつあった。


 俺は即座にステータス画面を開く。


--------------------

 名前 前のツッチー

 種族 ゴーレム属 土塊種

 性別 LGBTQ?

 年齢 0

 魔法 なし


    【基礎値】 【現在値】

 体力   25    25

 魔力    5     5

 筋力   25    25

 敏捷   10    10

 知力    5     5

 -------------

 合計   70    70

--------------------



--------------------

 名前 後ろのイッシー

 種族 ゴーレム属 石塊種

 性別 LGBTQ?

 年齢 0

 魔法 なし


    【基礎値】 【現在値】

 体力   30    30

 魔力    5     5

 筋力   30    30

 敏捷    5     5

 知力    5     5

 -------------

 合計   75    75

--------------------


 やべぇステータスだな。

 名前とか性別とか突っ込みどころは満載だけれど、今はメンバーとの情報共有が先だ。

 ステータス画面の全てを明かす気はないものの、パーティーに加入すると決めたとき、俺には敵の強さをある程度把握できる能力があることは皆に伝えるつもりでいた。

 今ここでそれを明かしてしまうとパーティーメンバーではないサーギルにも知られてしまうが仕方あるまい。出し惜しみをして仲間に万が一のことがあってからでは遅い。そのくらい厄介な能力値をこの敵は有していた。


 俺はまたしても53万の戦闘力を全開にして、殊更にサーギルを威圧しつつも全員に告げる。


「俺は気配察知の力の応用で(嘘)、敵の強さをある程度読み取ることができる。これからその能力を行使するが、パーティーメンバー以外には他言無用に願いたい。特にサーギル!この話が今ここにいる人間以外に漏れたら、仮令漏らしたのがお前でなくとも、俺はお前が漏らしたと見做して問答無用でお前を殺すぞ!!」


 突然ブチ切れたかに見える理不尽な俺の言動に震え上がったサーギルは、壊れた機械仕掛けの人形のように無言で激しく首を上下したのであった。

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